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オーシャンニューズレター

第156号(2007.02.05発行)

第156号(2007.2.5 発行)

内航海運の活性化を目指して進むスーパーエコシップの開発・普及

国土交通省海事局参事官◆坂下広朗(ひろあき)

国内の産業基礎物資(鉄鋼、石油製品、セメントなど)の8割を運ぶ内航海運は、
わが国経済活動の縁の下の力持ちであるが、多くの課題への対応が迫られている。
直面する課題を克服し、内航海運の活性化を目指す
次世代の内航船"スーパーエコシップ"の開発・普及に向けた取り組みの現状を紹介する。

1.スーパーエコシッププロジェクト推進の背景

内航海運は、過剰船腹と運賃低迷により、新造船建造量激減・船腹の高齢船化が進行し、現在の状況が続けば平成20年には高齢船が75%に達すると推計される。効率的で良質な輸送サービスを提供していくには、経済性、環境性能に優れた新鋭船の投入が必要とされる。内航海運では船員の47%が50歳以上と、他産業に比べても高齢化・若年労働力不足が深刻化し、船内労働環境の改善や省力化も重要な課題である。また、地球温暖化対策への取り組みを定めた京都議定書の発効に伴い、エネルギー使用の合理化に関する法律(省エネ法)が改正され、内航海運においても省エネへの取り組みが求められることとなった。こうした種々の社会・経済的な要請に、新たな技術で解決策を見出し内航海運の活性化を目指すべく、スーパーエコシップ研究開発プロジェクトが開始された。

2.スーパーエコシップの開発の歩み

国土交通省海事局は、平成13年度に、経済性能、環境性能に優れた次世代内航船"スーパーエコシップ"の要素技術の研究開発に着手した。平成16年にはその研究成果を引継ぎ、造船企業、舶用機器メーカーから構成される「スーパーエコシップ技術研究組合」が結成され、実用化に向けた開発が進められてきた。開発成果に対する市場の関心も高く、研究開発プロジェクトの終了を待たずして、すでに研究開発成果の一部を搭載した船舶(スーパーエコシップ・フェーズ1)の実用化が始まっている(写真1参照)。またより先進的な要素技術を取り入れたスーパーエコシップ・フェーズ2(写真2参照)の実証船により、まもなくその集大成ともいうべき実海域実験が行われる予定である。

3.スーパーエコシップの技術とその効果

スーパーエコシッププロジェクトは、下記のような要素技術を含む研究開発プロジェクトである(図表参照)。

(1)電気推進パワーユニットシステム

プロペラを直接駆動する主機関に代わり、推進力は船内に置かれた複数の発電機関により供給される。これにより、大きな主機室が不要になり貨物スペースの増大が可能となる。また、従来は推進用と発電用で独立していたパワーユニットが、発電機関に統合されることにより、航海や荷役時など船舶の運航全体を通じたパワーマネジメントを行うことが可能となり、効率的、経済的運航が可能となる。他方、燃料の燃焼によって得られる運動エネルギーを電気に変換し、さらにこれをプロペラの回転運動に変換するため、従来方式に比べて約15%効率が低下する。しかしこのデメリットは以下の要素技術によって補われる。

■写真1
スーパーエコシップ・フェーズ1として就航している「みやじま丸」
(写真提供:JR西日本、鉄道運輸機構)

(2)バトックフロー船型、二重反転ポッドプロペラ

電気推進システムの採用で大きな主機室が不要となり、船尾部の船型設計の自由度が向上し、従来は実現が難しかった推進抵抗の少ない最適船型(バトックフロー船型)の導入が可能となる。また、二重反転プロペラの採用により、推進効率の向上が図られる。これらの効果と貨物スペースの増大効果とを併せ、伝達効率のロスをカバーした上で、在来船に比べ単位貨物輸送量あたり10%程度の燃費向上が見込まれる。また、ポッドプロペラを採用し、操船性を飛躍的に向上させることにより、離着桟作業を容易化することもできる。

(3)省力化支援システム

各種航海計器からの情報を統合処理し、ブリッジにおける操船作業や判断を軽減・支援する「航海支援システム」、高度な操船技術と多人数を要する離着桟を容易化する「離着桟支援システム」、錨や係船索のハンドリング作業を軽減する「係船支援システム」、タンカー荷役作業を大幅に自動化する「荷役支援システム」を開発している。これらのシステムは、船内作業の飛躍的な省力化と同時に船内作業時のストレスやヒューマンエラーの軽減に大きな効果が期待されている。

4.スーパーエコシップの普及

■写真2
建造が進むスーパーエコシップ・フェーズ2実証船(写真提供:英雄海運、新潟造船)

(1)各種の普及支援制度

スーパーエコシップの研究成果には大きな関心が寄せられているが、零細事業者が多数を占める内航海運では、「新技術を取り入れチャレンジを行うよりは、十分実績があり信頼のおける在来技術で安全策をとりたい」とする考え方が優位である。これらを乗り越えるインセンティブとして、スーパーエコシップ技術の一部を採用した船舶建造に対して、(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道運輸機構)の共有建造制度や(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の省エネ補助制度により、財政的な支援が用意されている。また、建造支援を行っている鉄道運輸機構やスーパーエコシップの基礎的研究開発を担当した(独)海上技術安全研究所は、技術セミナーの開催や、計画・設計・運航の各段階での技術支援を行い、関係者のチャレンジを後押ししている。

(2)次世代内航船の船員の乗り組み制度の検討

スーパーエコシップ・フェーズ1については、電気推進システムの導入により機関部の作業量の軽減が見込まれ、平成16年11月に、学識経験者、海員組合等をメンバーとする「次世代内航船に関する乗組み制度検討会」において、「機関部職員1名による運航を想定した実証実験を行い、その結果を検討し、乗組み体制についての結論を得る」との方向性が示された。現在、本年春の実証試験に向け準備が進められている。また、省力化支援システム等フェーズ1を凌ぐ新技術を搭載したスーパーエコシップ・フェーズ2(写真2参照)についても、実海域実証実験の結果等をもとにその乗り組み体制の検討が行われる予定である。実証試験の結果、少人数での乗り組み制度が実現すれば、次世代内航船普及の大きな弾みになると期待されている。

(3)スーパーエコシップの建造

支援制度を活用して建造された旅客フェリーがすでに瀬戸内の宮島航路(宮島口駅~宮島駅)に就航している(写真1参照)ほか、2隻の内航貨物船が建造中である。またこれに続く建造の商談が多数進められている。実船が就航し、運航実績が積み重ねられる中で、スーパーエコシップの効果により多くの関係者の理解が得られ、その普及が加速されるものと期待される。

5.終わりに

研究開発、支援制度の創設、実船建造の計画・発注、船舶や機器の設計・製造など、多くの意欲ある関係者の努力の積み重ねが、スーパーエコシップを現実の内航船として誕生させた。その熱意が、本プロジェクトの目的である「内航海運の真の活性化」に結びつくよう、関係者の方々と取り組みを強めていきたい。(了)

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