Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第156号(2007.02.05発行)

第156号(2007.2.5 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男

◆「新しき年の始めの初春の今日降る雪のいや重(し)げ吉事(よごと)」(万葉集巻20-4516)。暖冬が続き、首都圏にあって編集子はまだ雪を見ていない。しかし、この歌のように今年こそ良いニュースの続く年になってほしいものである。

◆冒頭の歌は大伴家持が因幡国庁で新年を祝った時のもので、万葉集の最後を飾っている。時は759年の元旦。金鐘寺(こんしゅじ)(後の東大寺)の大仏は7年前に開眼供養の式を終えていたが、公共事業などで農民は疲弊していた。こうした状況下で橘奈良麻呂は時の権力者、藤原仲麻呂の暗殺をもくろんだが、この事件との関係を疑われた家持は因幡守に左遷されていた。

◆ところで家持は「鮪(しび)突くと海人(あま)の灯せる漁り火の秀(ほ)にか出ださむ我が下思(したおも)ひを」(マグロを突く海人の漁り火のように、はっきりと見せてしまおうか。私の秘めた思いを)という歌も残している。名門の出身で、中央の政争に絶えず巻き込まれていた家持のことである。この歌をそのままロマンの世界に遊ぶものと受け取ってよいかどうかはわからない。興味深いのはマグロを突いて獲る漁がこの時代には既に定着していたことがわかることである。縄文中期(紀元前3000年前ごろ)の三内丸山遺跡からもマグロの骨が出土しているということなので、日本列島に定着した人々は相当に早い段階からマグロを食べていたようである。

◆それにしても昨年末から正月にかけてテレビ番組を見ていて驚いた。マグロ食やマグロの一本釣り漁のドキュメンタリー番組が目白押しという感じだったからである。巨大なマグロと格闘する漁師の姿は勇壮で、確かに絵になる。しかし......である。昨秋から、資源が枯渇しつつある地中海のクロマグロや南半球のミナミマグロの漁獲規制の話がよくメデイアを賑わしていたし、本号で末永氏に詳しく解説していただいたように、海の食物連鎖の頂点にいるマグロ資源の保全に向けてさまざまな取り組みが国際的に叫ばれている時期でもあるからである。こんなにマグロ食を煽っていいのだろうか。家持ではないがはっきり叫びたい気持ちになった。(山形)

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