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オーシャンニューズレター

第140号(2006.06.05発行)

第140号(2006.06.05 発行)

洋上風力発電への期待

東京大学産学連携本部特任教授◆堀雅文

洋上風力発電に関するプロジェクトが活発化してきている。
現在、わが国で進行中のプロジェクトは、国立環境研究所が中心に進めている方式、海上技術安全研究所が中心に進めている方式、東大・東京電力の3方式がある。
各プロジェクトの狙い、メリットやデメリットなどを解説しながら紹介したい。

はじめに

洋上風力発電に関するプロジェクトが活発化してきている。海洋国家であるわが国が、海を利用してエネルギーを確保しようとすることは至って自然な試みと言える。

現在、進行中の洋上風力発電プロジェクトは筆者の知るところ、3つある。

①国立環境研究所が中心に進めている遠洋:非係留方式のもの

②海上技術安全研究所が中心になって進めている近海:係留式のもの

③東大・東京電力で進めている近海:係留式のもの

なお、①、②は風車により発電される電力を使用し水素を発生させる。③は電力エネルギーのまま陸上に送電する。

これらの方式について、紹介させていただく。

①国立環境研究所(セーリング型風力発電プラント構想)

平成15年度から5カ年間の計画で、国立環境研究所を中心に進められている壮大なプロジェクトである。風車としては将来開発されるであろう5MW(ロータ直径120m)を想定する。風車の設備稼働率を25%。洋上で得た水素を陸上に輸送し、燃料電池で消費するとして、この場合の水素変換効率を50%、燃料電池のエネルギー効率を60%とすると、28万8,000基の風車が必要となり、その面積は12万4,000km2となる。これはわが国のEEZの約3%に相当する面積である。ちなみに、わが国の全1次エネルギーを賄おうとするとEEZの約10%の面積が必要となる。

地球温暖化防止のため、わが国には2050年までに5~8割のCO2の排出削減が必要とされている。つまり、1次エネルギーの約80%を占める化石燃料起源のエネルギーの半分以上を別の方法で賄わなければならない。このプロジェクトは、低い面密度と大きな変動性という利用側にとってのデメリットはあるが、膨大に存在する自然エネルギーを、将来的にわが国の基幹エネルギー源として位置づけることが可能か否かを検証することを目的としている。

具体的には図に示すように風車を11基ずつ浮体に建設する。浮体は、全長2,060m、全幅70.2m、鋼材重量11万4,600tとなる。EEZ内には水深数千mとなる海域も存在するため浮体は係留しない。浮体の四隅にセイルを装備し、これによって位置制御を行う。有義波高(※1)6mまでの波には強度的に耐えるが、それを超えることが予想される場合は、予め回避することになる。スラスタ(※2)の併用により、風に対して真横に帆走する場合で、8ノットまでの速力を確保できることがわかっている。海水の電気分解については東北工業大学橋本教授のグループが開発した電極を使用する。この電極は電気分解時に塩素が発生しない。製造した水素の貯蔵方法、陸上への輸送方法については既存の技術を活用することとしている。浮体1ユニットの建設費は700~800億円と見込まれる。また、基幹エネルギー源の指標として重要なエネルギー収支比(建設、運用において消費するエネルギーと生産されるエネルギーの比)も、石炭火力、石油火力と同程度と予想されている。

②海上技術安全研究所(浮体式風力発電装置)

このプロジェクトは、化石燃料起源に代わる代替燃料を製造することを目的としている。漁業権が設定されていない水深100~200mの日本近海に係留式の浮体(長さ187m、幅60m)を設置し、風力発電を行う。1つの浮体に2基の風車を設置する。風車は国立環境研究所と同様に定格出力5MW(ロータ直径120m)のものを想定している。将来的には海水を直接電気分解し、水素を製造することを想定するが、当面は、海水を淡水化し、それを電気分解し水素を製造する。さらに、この水素と陸上から輸送したCO2とを反応させメタンに変換する。メタンは液化または圧縮ガス化して、陸上に輸送する。これが構想である。

実際の風況データによると、年間の設備利用率が40%となる海域は、北海道西岸、東北日本海沖、房総沖、伊豆沖の4カ所で、合計15,000km2が該当する。1浮体10MWの風力発電設備により、年間総発電量は35,040MWhとなり、835tの水素が製造(電解効率約80%)できる。これから年間約1,650tのメタンが製造(変換効率99%)できる。これは、年間1万km走行する自動車約4,300台分の燃料に相当する。水素のメタン化反応は発熱反応のため、6.94×106kWhが発熱する。この熱を利用し蒸気発電機で発電し、これを電気分解用の電力として再利用する。浮体1基当りの建設費は約49億円、30年償却で、電力コストは11.7円/kWhである。このプロセスの優れた点は、メタン製造時にCO2が必要となり、結果として陸上~海上でCO2のリサイクルが形成されることにある。これはCO2利用の新しい形態であり、このリサイクルの輪が太くなればなるほど、地球温暖化問題に寄与する可能性もある。

③東京大学・東京電力グループ(フロート式洋上風力発電)


出典:東京電力株式会社プレスリリース(H17.12.13)

関東地方の太平洋沖合10km程度の地点で浮体式洋上風力発電を行うことを目的としている。平成17~18年度で、洋上風況の評価、浮体の考案、経済性の評価等を行う。

浮体は図に示すようにセミサブ方式で、係留を行う。1つの浮体には定格出力2.4MW(ロータ直径92m)の風車3基を建設する。風車間の距離は180mである。浮体は基礎浮体にRC、鋼管製の連絡部材、緊張ケーブルから構成される。係留は風車塔および中央部の4カ所で行う。風況観測の結果、設備利用率が35.1%と極めて高いことが判明している。風車後流によるロスも約8%程度と小さい。

以上、現在進行中の洋上風力発電プロジェクトについて簡単に記したが、実現の早さから言うと、東大・東電→海技研→国環研という順番になると思われる。いずれのプロジェクトも、造船業界、鉄鋼業界、機械業界等に大きな経済効果をもたらすことが期待される。また、差し迫る地球環境問題への対応を考えた場合、国環研プロジェクトはそれを根本的に解決する方法として有望であり、EEZを利用して自らのエネルギーを確保するというわが国のエネルギー安全保障の観点からも重要な視点であると考える。(了)

※1 有義波高=海の波は高い波、低い波が混在しており、統計的に波高を表すときに有義波高値を使う。有義波高は、連続する波を観測したとき、波高の高いほうから順に並べて全体の1/3個目の波の波高を指す。

※2 スラスタ=Thrust(推進力)を与えるもの。位置の保持や姿勢制御に用いられる。

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