◆梅雨入りのニュースがちらほら聞かれる季節になった。厳しかった冬の影響で日本近海の水温は例年に比べてかなり低く、一方でフィリッピン周辺の水温はラニーニャの影響で高めであることから、今年は陽性タイプの梅雨が予想される。豪雨などによる水災害に注意したい。
◆今号には三名の海洋工学者に登場いただいている。海洋活動は多岐にわたっており、これまでは行政面においても、知の創造の面においても分散して行われてきた。わが国が真に海洋立国を目指し、海洋活動を総合的に推進してゆくには、この旧弊を改める必要がある。浦氏には海に関する様々な活動が行われている東京大学において、分散知の連携を目指した新しい試みを紹介していただいた。海の政策面も含む、大きなうねりに発展することを期待したい。
◆昨今、化石燃料の枯渇の危機、温暖化防止、BRICs諸国の台頭などでエネルギー確保の問題が大きくクローズアップされている。このような状況下で自然エネルギーを活用することはますます重要になる。堀氏には洋上風力発電を目指す三つのプロジェクトを紹介していただいた。それぞれ水素を生産する方式、二酸化炭素と反応させてメタンを生産する方式、電力そのものを取り出す方式である。自然エネルギーは広く、薄く分布する分散タイプのエネルギーである。情報世界におけるユビキタス・ネットワークのように、一つ一つは小さなフローであっても膨大な回路網で相互に供給しあうようなシステムに発展する可能性が大きい。
◆海流の予測や気候変動の予測には、海中の温度や塩分などのデータが初期値として不可欠である。しかし熱帯太平洋に展開されている係留ブイシステムを除いては、このようなデータは望むべくもなかった。ところが最近登場したアルゴ・フロートが海洋循環の研究開発に一大革命をもたらしている。このフロートは海面と水深2,000メートルの間を往復し、浮遊しながら温度と塩分のデータを送信してくる。吉田氏はさらに水深4,000メートルまでの観測を可能にする新方式を考案した。この新技術は世界海洋の平均水深をカバーすることから、ほぼすべての海洋の観測が可能になる。深海からなる広大なEEZを持つわが国において、このような先端技術の開発こそもっとも望まれていたものである。今後の展開を期待したい。(了)
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