Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第12号(2001.02.05発行)

第12号(2001.02.05 発行)

21世紀は環境の時代

(社)大日本水産会会長◆佐野宏哉

およそ50年後には世界人口は100億人を突破するとされており、それだけの人間が生きるための食料をどうやって確保するかが大きな問題となっている。多くの未利用資源を含め、大きな生産力を持っている海洋の存在が注目されているが、将来において水産資源の増大と安定した供給体制を築くためには、漁場の環境を保全するための方策を、早い時期に講じることが必要である。

将来において、水産資源は安定的に持続可能な利用・供給ができるか

人口予測

国連人口基金によると世界人口は20世紀最後の昨年に60億人を突破した。そして今世紀の半ばには100億人を超えると推計している。このように急増する世界人口が必要とする食料を、いかに確保するかが大きな問題である。

最近の地球温暖化現象により世界全体で毎年約600万ヘクタール(四国と九州の合計面積に匹敵)の農地が砂漠化しているので、農産物の増産は非常に困難である。その上、主要農産物は生産量のほとんどが生産国で消費され、世界市場にはあまり出回らない。また、牛や豚などの畜産物は再生産に長い期間を要するので、急速な増産は、とうてい望めない。

これに対し海洋は多くの未利用資源を含め大きな生産力を持っており、適正な管理を行えば合理的な範囲内で、水産資源は安定的に持続可能な利用・供給ができる。

国連食糧農業機関では、水産物の需要量に対する供給予測を、2000年は食料として漁業で60百万トン、養殖で20百万トンの合計80百万トン、これに飼料として29百万トンの合計109百万トンと推計していた。水産物に対する総需要は人口や魚価等により左右されるが、経済成長率を排除して現在の1人当たりの消費量を変えずに、単純に人口増だけを勘案して予測したのが、2010年は食料として漁業で60百万トン、養殖で31百万トンの合計91百万トン、これに飼料として29百万トンで総生産量120百万トンとしている。増加分11百万トンは、すべて海産魚と淡水魚の養殖による増加としている。

魚類生産量と供給予測

世界の養殖生産量の約85%はアジアで、うち中国が50%を占め、次いでインド、日本、インドネシアと続く。中国の養殖の70%が淡水魚であるコイ科の魚であり、増加分11百万トンの生産物は世界の人々が受け入れやすい海産魚に対象を広げていく必要があろう。

わが国水産業に焦点を当ててみると、国連海洋法条約が批准され、排他的経済水域が設定されて、いよいよ本格的な200海里時代が到来したが、わが国周辺水域における水産資源状況の悪化、米国やロシアを始めとする沿岸諸国の200海里水域の囲い込み等によるわが国遠洋漁業の漁業生産の減少、漁業後継者不足等による漁村地域の活力の低下等の厳しい状況に直面している。このような現状を打破するためには、わが国周辺水域の水産資源の増大と持続的利用、安全で効率的な水産物の供給体制を整備することにより、国民に対する水産物の安定供給を確保することが水産政策上の喫緊の課題になっている。

このため、本通常国会で水産基本法の成立を目指して関係者が鋭意検討を行い、資源の回復を図るための水産資源の生息環境となる漁場等の積極的な保全・創造、水産業の振興を核とした良好な生活環境の形成を目指した漁村の総合的な振興、水産物の流通拠点の整備等、漁業のみならず加工・流通を含めた水産業全体の発展を視野に置いた施策を推進しなければならないとしている。

悪化する漁場の環境。修復と改善のために何をすべきか

漁業は環境依存型の産業であり、水産資源の維持増大を図る上で漁場の環境が良好に保全されていることが不可欠である。

しかしながら、近年の高度経済成長期以降の沿岸域は各種開発による埋立てや護岸工事等によって多種多様の生物の産卵場、生育場である藻場や干潟が消滅する他、潮の流れや海底地形の変化や背後地にできた都市の産業活動や生活活動による新たな汚濁負荷の増大が大きな問題になっている。

浅海域における埋立て等を伴う大規模開発事業においては、工事実施前の環境アセスメントが定着してきたが、工事中、工事後の漁業や漁場環境への影響を監視し、もし万一、予想を上回る影響があった場合には、工法の変更や代替の藻場や干潟を造成することを義務付けて、環境を修復する方策を講じることが必要となろう。

産業排水や生活雑排水等による窒素、リンを主体とする栄養塩の過度の供給により周辺水域は富栄養状態になり、特殊なプランクトンの異常増殖による赤潮、貝毒等の発生が多発している。赤潮の発生件数は近年横ばい状態であるが減少はしていないし、漁業被害も相当な額に及んでいる。排水処理施設等の整備の促進や新技術手法による効率的な窒素、リンの除去方法の開発が望まれる。

生活様式の高度化、簡便化が進むにつれてプラスチックを主体とする各種ゴミが大量に排出され、陸上はもとより海域でも大きな問題になっている。ビニール袋が船舶のエンジン冷却水の取水口を塞いだり、ロープ類が船舶のプロペラにからまる事故が多発している他、海洋生態系に悪影響を与える重大な問題にまでなっている。

プラスチックについては、最終的に水と炭酸ガスに分解する、環境にやさしい生分解性プラスチックの開発・使用に努めている。漁業においてはFRP漁船をはじめ漁網、貝殻、魚介類の加工残渣等の漁業系廃棄物の処理が大きな問題となっている。ここ15年近く産官学をあげてこれらの処理方法について検討しているが、未だ研究、実証実験の段階に留まっている。かかる研究への国の予算の傾斜配分により、早急に実用化が図られ、漁港・漁村の環境改善が推進されるよう期待する。

わが国の養殖業については、養殖漁場の環境悪化、魚病被害の発生、魚価の低迷等、多くの問題を抱えている。平成11年に制定された「持続的養殖生産確保法」には養殖漁場の環境改善のための自主的な取り組みの強化、魚病の発生・まん延防止対策の整備が規定され、すでに取り組んでいる漁協もある。また、新たな養殖対象魚種の導入促進に取り組む必要があるが、漁業共済事業との密接な連携が図られることが前提となろう。

海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う日としての国民の祝日「海の日」の制定、海の美しさと豊かさを守るために実施した「日本の渚・百選」選定事業等による啓発や、多くの一般市民の協力を得ながら実施している海浜のゴミ清掃や、豊かな海を取り戻すための植樹運動が、全国各地で大々的に展開されていることは誠に喜ばしい。

このような地道な運動が21世紀の早い時期に海の環境を改善できると信じてやまない。(了)

第12号(2001.02.05発行)のその他の記事

ページトップ