Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第129号(2005.12.20発行)

第129号(2005.12.20 発行)

「大阪湾再生」について-大阪湾の環境改善に向けた連携と協働の取り組み-

大阪湾再生推進会議事務局 (国土交通省近畿地方整備局)◆西村大司 (だいじ)

大阪湾は、「魚の庭」と書いて「なにわ」と読むほど漁獲量が多く、「天下の台所」として長く海と都市との共生が保たれてきた場所。
現在、高度成長期を境に進んだ水質汚濁を改善し、かつての魚庭の海の回復をめざす「大阪湾再生」の取り組みが進められている。

「大阪湾再生」とは

「魚庭(なにわ)の海」と呼ばれた、かつての大阪湾。秀吉の大坂築城を機に臨海部に都邑が形成されると、大阪湾で獲れた豊かな魚介類が市を賑わし、全国津々浦々から物産が廻船で運ばれ、まさに「天下の台所」として海と都市との共生が保たれてきた。しかし、高度経済成長期に深刻化した水質汚濁により多くの生物が姿を消し、大規模な埋め立てにより自然海岸が減少すると、大阪湾と人々のつながりは徐々に希薄になった。そうした中、再び魚庭の海を回復し市民が誇りうる大阪湾の創出を目指す「大阪湾再生」の取り組みが、現在進められている。

大阪湾再生は、水質を改善し市民が親しみやすい海を取り戻すことを目的に、都市再生プロジェクトである「海の再生」として、東京湾に続き全国で2番目に開始された。このプロジェクトのため設置された「大阪湾再生推進会議※1」では、大阪湾に関係する多くの行政機関が連携するとともに、市民・住民・NPOはじめ、学識者、企業などとの多様な主体の参画により施策を推進しており、海に関する取り組みとして、新たなモデルと成り得るものと考えている。

大阪湾の水環境の現状と取り組み目標の設定

■大阪湾再生に係る具体的な目標および指標

大阪湾は、後背地に大きな人口・産業集積地を有しているため、大阪湾に流入する汚濁物質の量も多く、また海水の出入りが少ない内湾という閉鎖性海域であるため、流入した汚濁物質が蓄積しやすいという状況にある。このため、過去に流入した窒素・りんなどの栄養塩類を含む底泥が厚く堆積するとともに、新たに河川等より流入する栄養塩により、湾内の富栄養化が進行している。この結果、赤潮・青潮などが原因の貧酸素化による生物の死滅や透明度の低下などの水質汚濁が湾奥部を中心として慢性化している。

大阪湾再生推進会議では、現在の大阪湾における水質を改善し、中長期的な水環境のあるべき姿を実現するため「大阪湾再生行動計画※2」を平成16年3月に策定した。計画では、「森・川・海のネットワークを通じて、美しく親しみやすい豊かな『魚庭(なにわ)の海』を回復し、京阪神都市圏として市民が誇りうる『大阪湾』を創出する」を目標とし、達成状況を確認するための具体的な目標・指標を「多様な生物の生息・生育」「人と海との関わり」という2つの観点から別表のとおり設定した。特に水質に関しては、大阪湾で定められている環境基準とは別に、生物の生息や人との関わりから望ましい数値を設定し、取り組むこととしたのが大きな特徴である。

目標達成のための施策の推進

大阪湾再生に係る目標を達成するため、関係各機関が広域に連携し、大阪湾の集水域にあたる陸域ならびに海域において各種の改善施策に取り組むとともに、その効果を的確に把握するためのモニタリングを進めている。

陸域においては、湾内に流入する汚濁物質の削減を図るため、下水道の合流式改善や高度処理化の推進、河川浄化事業、森林整備事業等を進めており、海域においては、水質の改善と生物の生息・生育に資する人工干潟・浅場の造成や浮遊ごみの回収など海洋環境の整備に取り組んでいる。また、大阪湾のモニタリングとして、環境監視、環境改善施策の効果の把握を目的としたモニタリングなどを進めるとともに、大阪湾における汚濁機構を詳細に解明するための新たな取り組みとして「大阪湾再生水質一斉調査」などを実施している。

「アマモ移植による都市型ダイビングスポットづくり」
市民が育てたアマモ苗をボランティアダイバーが手植えを行い、生き物にあふれたダイビングスポットづくりをめざす。楽しみながら、地道な取り組みが続けられている。(写真:城者)
「コンブの森づくり」
NPO、地元小学生らが都会の海(大阪府堺市)でコンブの育成に挑戦。数度の失敗を乗り越えて、コンブは見事70センチ大に成長し、子ども達の歓声のなか収穫が行われた。

市民参画により魚庭の海の再生をめざす

大阪湾再生の取り組みにあたっては、「人と海との関わり」を積極的に取り戻すことが重要であり、そのような観点から、実験的な試みも含め、市民・住民・NPOの方々の積極的な参画を進めている。これまでに、地域住民や地元小学生らが水質浄化を目的に取り組んだ「コンブの森づくり」や「アマモ移植による都市型ダイビングスポットづくり」など、大阪湾の各地で市民らが中心となり、海と人々のつながりの回復に向けたユニークな取り組みを展開している。

大阪湾再生推進会議では、これら市民の方々の取り組みを具体的な成果として結実させ、長い時間をかけ地域の人々と海とのつながりを培い、育て、創りだし、確実な水質改善との進捗と併せ、魚庭の海の再生を目指している。(了)

※1大阪湾再生推進会議=内閣官房都市再生本部事務局、国土交通省、農林水産省、経済産業省、環境省、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、京都市、大阪市、神戸市、(財)大阪湾ベイエリア開発推進機構で構成。事務局は、国土交通省近畿地方整備局(大阪府、(財)大阪湾ベイエリア開発推進機構が運営協力)。平成15年7月発足。

※2大阪湾再生行動計画=水質汚濁が慢性化している大阪湾の水質改善を進め、市民と海との新たな関わりの構築による「海の再生」の実現をめざして平成16年3月に大阪湾再生推進会議が策定。NPO、市民団体など多様な主体との協働により推進している。

第129号(2005.12.20発行)のその他の記事

ページトップ