Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第129号(2005.12.20発行)

第129号(2005.12.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌

◆海はいろいろなことを私たち人間に教えてくれる。奥尻島やスマトラ島における大津波は、瞬時にして多くの生命と財産を奪った。海が牙をむき、人間に襲いかかったのだ。そうかと思えば、人間の経済活動のツケが海洋汚染として徐々に蓄積し、海を苦しめてきた。病にある海を救うのは人間の責務だ。本号で今村さんと西村さんは災害からの復興、きれいな海の再生の取り組みについて貴重な提言をされている。海が人間を超える大きな存在であることをおもえば、息の長い活動が必要なことは当然のこととして受け入れるべきなのだ。

◆ベトナム中部にニャチャンという港町がある。南シナ海に面するこの町にクジラを祀る廟があると聞いて訪れた。いまから10年ほど前のことである。廟には祭壇があり、その横に白い布でくるんだ大きな箱がある。なかにはクジラの骨が納められているという。クジラをみたいと頼んだが、ご神体を見せるわけにいかないという。ベトナム中部では、クジラはとくにカー・オン、つまり「魚の王」と呼ばれる。クジラがイワシなどの魚群を追いかけ、その魚を人間がいただく。だからクジラは沿岸漁民にとり偉大な存在なのだ。漂着するクジラを手厚く扱う文化がそこにある。

◆日本でもクジラの漂着はさほど珍しいことではない。漂着したクジラの扱いについて、石川さんは注目すべき指摘をしている。つまり、日本では漂着クジラの救助活動を行政機関が担当し、国としても水産庁がバックアップする独自のシステムがある。また、瀕死のクジラを安楽死させることや死体を有効に利用すること、漂着クジラを海の地球環境を知るために活用することが提案されている。

◆今後、人間は海とどのようにつきあうのか。ひとつの回答は、海のもつ多様な顔に柔軟な対応をすることではないか。日本ではそのための連携作業が現在着実に進められつつあることを心強くおもう。テロと大災害に明けくれた2005年。来年こそ海から新しい希望の光を望みたい。(了)

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