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オーシャンニューズレター

第127号(2005.11.20発行)

第127号(2005.11.20 発行)

釣り人の費用負担について

水産庁沿岸沖合課釣人専門官◆桜井政和

わが国の海面においては、漁業に加えて釣り(遊漁)も持続的な水産資源の利用という観点から無視し得ない要素となっており、適切な対応が求められている。
対応の方向としては、釣りという行為の管理もさることながら、資源利用に関する釣り人の費用負担(魚釣りの対価)も重要な課題であり、釣り人の理解が得られる枠組みが提案できるように、水産庁として積極的に検討していくこととしている。

はじめに

水産資源の利用や管理については、主に漁業との関係で各種の施策が講じられているが、水産資源を利用しているのは漁業だけではない。営利の要素を持たない水産動植物の採捕、すなわちレジャーとしての釣り(遊漁)※1も資源の持続的な利用という施策との関係では、無視し得ない要素となっている。水産庁では、昨年10月に釣り人が関係する問題の統一窓口として「釣人専門官」というポストを設置し、釣り人の持つ価値観や意見を反映させた施策の展開を図っている。

ここでは最近の状況や取り組みも紹介しながら、釣りという視点から水産資源の利用や費用負担の問題について考えてみたい。

釣りによる資源の利用状況

海釣りを楽しむ人々

釣りで獲っている魚の量(全体値)について精度の高い統計は整備されていないが、釣り船(遊漁船)を使用した釣りについては、農林水産省が採捕量を調査しており、直近の実績では年間約2.9万トンとなっている。同じ年の沿岸漁業(養殖除く)の漁獲量は149万トンなので、釣り船を使用した釣りの採捕量はその2%程度となり、たいした影響はないように思われる。

しかし、地域や魚種に着目して見ると、神奈川県相模湾におけるマダイの事例のように、釣り船を使用した釣りで獲っている量が漁業での漁獲量を上回るような現象も生じている。さらに、量的な問題だけでなく、魚を獲ることをめぐり、釣りと漁業との間に時間的・空間的な競合(いわゆる調整問題)も数多く存在している。釣りによる資源利用に対応した施策を講じることが、政策的に必要とされる所以である。

釣りへの対応(現状)

釣りは、魚を獲る行為という意味では漁業と同じであり、このため釣りに関する規制(管理措置)は、漁業法をはじめとする漁業関係法令を根拠として実施されている。

一方、資源利用にかかわる費用負担に関しては、釣り人は栽培漁業による種苗放流(マダイ、ヒラメなどが全国で放流されている)等の恩恵を受けていると考えられるにもかかわらず、海面ではこれら施策の実施に必要な費用を負担する制度が存在していない。漁業者は、栽培漁業による種苗放流等の費用を間接的に負担していることから、釣りに関しても何らかの対応を検討すべきとの議論がある。

釣りの管理に関する議論

釣りの未来やあるべき管理制度として取り上げられる機会の多いのが、「ライセンス制」である。しかし、現在のところこの言葉には明確な定義がなく、それが十人十色の解釈を生み、「ライセンス制が導入されれば、わが国の釣りの未来はバラ色である」といった意見・発言も散見される。

水産庁では、昨年、主要国において釣りがどのような制度によって管理されているのかを明らかにするための調査を実施した※2。この調査においては、釣りを管理する制度としてのライセンス制について詳細な質問を設けた。

一般に、ライセンス制の効能は、「釣りという行為や資源の管理」と「釣り人からの料金の徴収」であると考えられる。今回の調査結果を見ても、海面において釣りのライセンス制を導入している国(または州などの地方政府)のすべてが、ライセンスを持つ釣り人に制限尾数などのルールを適用するとともに、ライセンスの発行に際して料金(ライセンス料)を徴収していた。

ライセンス料を支払った釣り人には、もれなくライセンスが発行されている(「ライセンスは購入するもの」という制度設計)。これは、釣り人の数を制限する措置(総量規制として、水産資源の管理という観点からは非常に有効)がライセンス制に組み込まれていないということを示している。このように、今回調査対象とした国(州)においては、釣りという行為や資源の管理よりも料金の徴収という側面にライセンス制の重点が置かれているという感じを受ける。

釣り人の費用負担(魚釣りの対価)

遊漁施策等に関する研究会
(写真提供:(有)フライの雑誌社)

最後に、わが国の水産施策で空白領域となっている釣り人の費用負担について触れたい。

外国の例を見ても、ライセンス制は釣り人からの料金徴収(費用負担)という意味で有効に機能すると考えられる措置である。ただし、わが国においてこれを導入しようとする場合には、釣りの実態との関係などで解決すべき問題も多々存在するため、慎重な検討が必要である。

釣り人の費用負担については、過去に何度か検討した経緯はあるが、それらはいずれも漁業を中心にして組み立てられていた。上記したように、わが国にはレジャー・レクリエーションという観点から釣りを規律する制度がないので、漁業を中心に据えた制度設計が行われたのは当然ともいえるが、「漁業のために釣り人が料金を支払う」ことは、釣り人に対して強い説得力を持たないと考えられる。

一方で、資源利用の受益者として、釣り人も費用負担など一定の役割を分担すべきとの意見を持つ向きも増えている。したがって、資源利用に関する領域をカバーし、かつ、釣り全体の拡大再生産的な展開が期待できるような手法が提案できれば、そのシステムの一環として釣り人から料金を徴収することについて、理解を得られる可能性は十分にあると考えられる。

水産庁では、今後の遊漁施策のあり方について議論することを目的として設置された「遊漁施策等に関する研究会※3」(漁業経済学会主催)に協賛するとともに、同研究会での議論に参加、情報提供している。こうした取り組み等を通じて、今後とも釣りが関係する水産資源の利用や費用負担の問題を積極的に検討していきたい。(了)

1 本稿では、制度用語である「遊漁」および「遊漁者」を、それぞれ「釣り」および「釣り人」というように記載している。

2 調査の結果については「水産庁遊漁の部屋」http://www.jfa.maff.go.jp/yugyo/what/index.html を参照のこと。

3 「遊漁施策等に関する研究会」の開催告知、結果概要については、「漁業経済学会」http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsfe/または「水産庁遊漁の部屋」を参照のこと。

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