Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第118号(2005.07.05発行)

第118号(2005.07.05発行)

現代版海底の道=海底通信ケーブル

NTTワールドエンジニアリングマリン(株)代表取締役社長◆高瀬充弘

世界中の海底通信ケーブルは約80万km、地球20周分くらいの長さになるという。
現代のブロードバンド時代においてなくてはならない存在であり、世界中に情報を運ぶ、まさに「海底の道」となっている。
離島における産業振興、環境への配慮、古いケーブルの撤去など、安定した通信インフラの維持に取り組むだけでなく、新たな利用の可能性を探っていきたい。

海底通信ケーブルとは

■張り巡らされている海底ケーブル
(クリックで拡大)

昔から交易・人の交流には、陸上の道と海上の道がありました。東西交流で有名なシルクロードは陸の道がもっぱら知られていますが、近年の研究では海の道も随分と隆盛を極めたようで、次第に陸の道を凌駕し、ついには大航海時代につながった、という見方もあるようです。今や世界的に情報化の時代、さらにはブロードバンド時代になっていますが、この面では海上の道ならぬ、海底の道ともいえる海底通信ケーブルが大きな役割を果たしています。

現在、世界中の国々、人々をつなぐ通信ネットワークは、大まかに言うと有線によるネットワーク(陸上および海底のケーブル)と無線(陸上無線局、通信衛星)によるネットワークの2つのシステムの組み合わせからできています。世界中の海の底には、深海に敷設しても大丈夫なようにつくられた耐水・耐圧の通信ケーブル(海底通信ケーブル)が網の目のように大陸と大陸、島と島とをつなぐ形で敷設されています。特に、最近の海底通信ケーブルは光ファイバー製の大容量なものが主流で、電話だけでなくインターネット、映像等、たくさんのビジネス情報、個人的な情報を世界中に運ぶ海底の道、海底の高速道路といってもいいようなものになっています。まさにブロードバンド時代の基本インフラとも言うべき役割を果たしています。

この海底通信ケーブルの歴史は古く、1851年、イギリスとフランスの間(英仏海峡)を結んだものが世界で最初といわれています。日本でも、明治の初期(1870年代)にはすでに国内外の通信で海底通信ケーブルが使われ始めています。世界中に現在どのくらいの海底通信ケーブルが敷設され利用されているのか正確にはわかりませんが、ある会議での報告では世界の主な海底通信ケーブルは総延長で約80万km、地球20周分くらいの長さになるという数字もあります。

日本沿海の海底通信ケーブルの様子は

■NTTワールドエンジニアリングマリンが所有する海底ケーブル船「すばる」

日本は四方を海に囲まれています。また、多くの島々があります。この島国日本の通信のブロードバンド化には、日本とアジア・アメリカその他海外の国々をつなぐ国際海底通信ケーブルだけでなく、国内の島と島とをつなぐ多くの国内海底通信ケーブルも欠かせません。当社はNTT各社の国内海底通信ケーブルの建設・保守を一手に請け負っていますが、これらは全体では約400区間、総延長距離は約5,500kmという長さになります。この距離は国際海底ケーブルに比べるとずっと短いですが、区間数は多いというのが特徴といえます。それでも5,500kmという数字は、比較対象として適切かどうかわかりませんが、JR西日本(株)の線路延長距離とほぼ同じ、日本道路公団の高速道路総延長よりやや短いという数字になります。

最近は政府、地方自治体、それにNTT等民間の会社もe-Japan戦略※1との関連で、離島のブロードバンド化に熱心に取り組んでいますが、その際も、この海底通信ケーブルが基本インフラの一つになります。

■沖縄本島-宮古島間 宮古陸揚げ

たとえば、昨年、NTT西日本(株)が沖縄本島-宮古島-石垣島間に最新の海底光通信ケーブルの建設を計画・施工した際、当社が設計・工事部分を請け負い、当社の海底ケーブル船「すばる」で総延長約500kmのケーブルを敷設しました。環境保護の観点から、珊瑚礁を避けたルート設計をし、また珊瑚礁を傷つけないよう工法を工夫しながら工事を実施しました。離島における情報格差是正あるいは産業振興のための必須インフラとして、長年地元の方々が要望されていたものの実現に貢献できたものと思っています。同様に現在、離島を抱える多くの自治体では、地域の行政・医療等のIT化、産業誘致などを目指した通信のブロードバンド化が検討されており海底光通信ケーブルも基本インフラとしてその中に含まれていますが、財源難等の問題があり一筋縄ではいきません。今後は、すでに一部で導入されている民間・自治体・政府等の協力の仕組みの一層の推進が必要と思われます。

これからの課題・取り組みは

これからのブロードバンド社会には欠かせない海底通信ケーブルですが、いくつか課題、問題も抱えています。ひとつは、世界全体でみると、特に国際通信の分野では、海底通信ケーブルの容量は使い切れていない、かなり余っているということです。2000年頃にドットコムバブル※2がはじけた影響と、技術革新によって多重化が可能になったというのが大きな原因です。このため、海底通信ケーブル関連業界(ケーブルおよび中継器等の製造メーカー、ケーブル船会社など)の中には、国内外で、倒産や大規模なリストラに見舞われる会社が多数でました。業界全体が落ち着くまでにはもうしばらく時間がかかりそうです。

また、海底通信ケーブルのネットワークとしての安全性という問題も昨年、焦点があたることになりました。昨年は史上最多の台風が日本に襲来、また地震も多発しましたが、こうした災害の影響で日本沿海の海底通信ケーブルの故障も例年になく数多く発生しました。原因は、流された船の碇によるもの、海流や波浪の影響で埋設箇所が露出してしまったものなど様々です。地球規模での異常気象が今後も続きそうな状況を考えると、通信インフラ・ライフライン確保という観点から、海底通信ケーブルについても、日頃のメンテナンス、迅速な故障修理体制などが重要だということを再認識した次第です。

環境への配慮も今後、重視すべき点です。これは、漁業への影響をはじめとして、珊瑚礁等海洋生物保護、あるいは古くなり使わなくなった海底ケーブルの撤去などの問題です。日本領海内では、海岸法等の法律に基づき、海底通信ケーブル敷設の際には国・地方自治体等から許可を得、また、使用しなくなった後は、現状復帰させるというのが原則になっています。当社ではNTTの不要となったケーブルを順次、撤去をして現状復帰させています。

インターネット等による通信量は世界的に急増しており、今後数年で海底通信ケーブルの需要は国内外で回復し、新たなケーブル敷設が世界のあちこちで始まるという見方が関係者の間では多いですが、こうした本来の海底通信ケーブルのニーズ・使い方の他に、新たな可能性の追求といった面も課題としてあります。すでに海底ケーブルを利用した地震計設置などは一部行われており、また、大陸棚関連調査への海底ケーブル利用も研究がされています。環境に配慮しつつ、新たな海底通信ケーブルの利用可能性を探ることは今後も続けていくべきものと思います。(了)

※1 e-Japan戦略=世界最先端のIT環境の整備を目的とした日本政府の戦略(平成13年から実施)。地理的な制約等によるデジタルデバイドの是正が重点目標のひとつになっている。

※2 ドットコムバブル=1999-2000年頃に起こったIT・インターネット関連の企業をめぐる経済的熱狂。設備の大幅拡張、株価急騰が起こったが、やがてバブルが崩壊、株価暴落、過剰設備等の事態に陥った。

第118号(2005.07.05発行)のその他の記事

ページトップ