Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第118号(2005.07.05発行)

第118号(2005.07.05発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男

◆<目には青葉山ほととぎす初鰹>。江戸前期の俳人山口素堂による広く知られた句である。旬の鰹を真っ先に味わうのは江戸っ子の粋さ加減を示すバロメーターになっていたらしい。<女房を質に入れても初鰹>、<初鰹銭と芥子で二度落涙>などの川柳が生まれるほどであるから江戸っ子のフィーバーぶりがわかる。二百余年を経て漁業も物流も著しく進歩し、今では手頃な値段で身近に旬の魚を味わえるようになった。

◆鰹は19-23度の水温を好む暖流系の魚である。小笠原諸島付近で孵化した後、北赤道海流に乗って西進し、フィリッピン近海で黒潮に乗りかえる。カタクチイワシの稚魚(しらす)やきびなごなどの小魚を食べて成長し、3月頃に南西諸島を通過して、日本南岸には4月から7月頃にやってくる。素堂の句の初鰹とはこの上り鰹のことである。こうして北海道沖まで回遊した後、再び南下し10-11月には成魚となって本州南岸に戻ってくる。これを戻り鰹、あるいは下り鰹と呼ぶ。脂ののった秋の戻り鰹は最近ではトロ鰹などともてはやされる。

◆鰹と言えば、やはり土佐であろう。ところが今年は土佐沖で鰹が不漁である。昨年の夏に13年ぶりに発生した黒潮の大蛇行で、主流が200-300キロメートルも南下し、それとともに漁場もはるか南に移動してしまったのである。鰹がいなくなったのではないようだ。

◆紀伊半島から遠州灘沖の黒潮大蛇行はその北側に湧昇域を伴うために、北の親潮系の冷たい海水を日本南岸に呼び込むことになる。地球温暖化に伴って、南からの熱を運ぶ黒潮が強まれば、大蛇行も起きやすくなる。菱田氏はこうした気候変動と東京湾などに来訪する海の珍客の考察から、海の異変に警鐘を鳴らす。それにしてもクリオネが茨城沖で見つかったというのには驚いた。

◆宇多氏はわが国の海岸侵食が人為的な要因によるものが多いこと、従ってこれを防止するには浚渫土砂を周辺海岸に戻すリサイクル法を導入する必要性があることを説く。海の生態系の保全はまず破壊された渚の再生からである。

◆高瀬氏は海底の情報ハイウエイがバブル経済の崩壊や技術革新によって抱えた問題を取り上げている。大量の情報を双方向で運ぶことのできる光ファイバー海底通信網へのニーズは、多くの離島からなるわが国では高齢化社会の到来とともに、遠隔医療等の面で特に重要性が増すのではないか。しかしその敷設や維持管理においては海の生態系に十分な配慮がなされなければならない。(了)

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