Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第117号(2005.06.20発行)

第117号(2005.06.20 発行)

環境チケットを活用し地域のゴミ問題に取り組む

ゲゼル研究会代表◆森野榮一

海浜のゴミ清掃をすると「海の工作教室」に参加できるチケットがもらえる、そんな枠組みから始まった社会貢献活動が全国に広がり出した。
この活動は里山、里地、里海への想像力を拡げるとともに、ボランティアという自主的・意欲的な社会貢献活動に継続性を与え、地域社会の活性化にまで効果を及ぼそうとしている。

海浜ゴミ清掃から始まった環境チケット

海岸で拾ったゴミを素材につかう「海の工作教室」

全国各地で、社会貢献活動が盛んになってきました。コミュニティづくりを目指すボランティアです。それは福祉などさまざまな分野の要求に応え始めています。そのなかには、地域社会でのゴミ問題への取り組みもあります。そこで環境チケットという一種の地域通貨を活用した活動が盛んになってきました。その出発点は海浜のゴミ清掃でした。漂着するゴミもあれば、陸から川を経て流れ着くもの、海浜利用者が直接投棄する弁当ガラなど、海浜はゴミの最後の受け手として汚れていたのです。

最初、環境チケットを利用した取り組みは、2002年に、常滑市の海浜清掃から始まりました。これはボランティアです。しかし無報酬の貴い貢献を継続させるのはなかなか難しいものです。そこで、参加者の活動を返礼のある仕組みのなかに置くこととしました。海浜清掃に参加すると、チケットがもらえるのです。それはなにに使えるのかというと、自分たちが集めた海岸のゴミを素材とする「海の工作教室」に参加できるのでした。これは参加者に地域社会への関心と教育的な効果をもたらしました。まず、参加した子供たちは海岸でいろいろな種類のゴミに遭遇します。工作を通して、それがなんなのか、どこから来たのかに想い及びます。そうして、自分たちの住む地域の里山、里地に思い至り、海は意識のなかで単なる海から里海に変わっていったのです。

ボランティア活動と地域経済の活性化

こうして参加者は海浜清掃をしたから、こうした企画に参加できたという、社会に貢献すると社会から貢献される、そんなささやかな双方向の体験をし始めました。しかし主宰している方々の構想はもっと大きなものでした。この環境チケットが、工作教室への参加ばかりか、地域の事業者によって割引券として受け入れられれば、事業者は直接、海浜清掃に参加しなくてもゴミ問題に寄与できます。環境チケットを手に入れた人は使える範囲が増えますし、ボランティアへの参加の動機付けとなります。それはまた地域の事業者の顧客を増やすことにもつながり、結果的に地域経済も活性化していくのではないかという、ゴミ清掃への取り組みの発展性への関心です。

つまり、商工会や地域企業などの各種団体に環境チケットを発行してもらい、これを海洋環境貢献活動をしている団体に寄付してもらえば、海浜清掃などの社会貢献活動への参加者に環境チケットを返礼として渡せます。そうしてこれで環境教育などのプログラムに参加できたり、地域商店などで使えるようにします。こうした枠組みのなかで、ゴミ清掃活動は環境問題の解決でありながら、同時に地域振興にもつながり、地域社会への公共意識を育てていくことにもつながっていくことになります。

気仙沼市の環境チケット
ポイントカードのようなユニークな機能をもたせた気仙沼市の環境チケット

日本全国で始まっている環境チケットをつかった街づくり

沖縄の宮古島では環境チケットを「スローマイル」と名付け、海浜清掃と工作教室を実施するなかで、地域住民ばかりでなく、観光客にも海浜の清掃に参加してもらう方向に発展させようとしています。宮古島に観光に来ていただいて、ついでにゴミを拾ってもらい、返礼として環境チケットを差し上げます。これは島内の事業者で割引券として使えますから、観光客は買い物に使えます。つまり観光客が来れば来るほど宮古島は綺麗になり、地場経済も潤うという仕組みです。この方式でいま、観光客にマングローブの植樹をしてもらおうという企画が進行中だそうです。記念に植樹していただくと差し上げる環境チケットが使われると、島内にはお金が落ちます。環境維持活動を地域振興へつなげる発想といえましょう。

■プロジェクトの概要
プロジェクトの概要

こうした取り組みが進展していくと、ゴミ問題への取り組みは海浜のゴミ問題のみにとどまらないことに気づきます。気仙沼市では市内のゴミ清掃にこの枠組みが活用されています。ここでは、環境チケットは夏休みに参加するラジオ体操のカードのようになっています。そのユニークな点は、市民の誰もがいつでも、自発的に、思い立ったらゴミ清掃活動を始めることができるところにあります。事務局にそう申し出るとハンコを貸してもらえます。そうして清掃活動に参加した人のカードにハンコを押します。ハンコがある点数まで貯まると、これを例えば、地場の金融機関に持ち込むと、預金をする際に預金金利を優遇してもらえるのです。地場の金融機関は地域の事業に資金を融通しているものです。ゴミを清掃しようという社会貢献活動が進むほどに、地域にある貯蓄がその地域に投資され、それが地場経済を活性化させ、ひいては地域の人々の所得向上にも繋がっていく資金の循環を作り出す可能性まで出てきたともいえるでしょう。

いま、北は稚内市から南は宮古島まで、ゴミ清掃が各地で展開されるなかで、こうしたゴミのリサイクルの新しい展開方向が意識されはじめています。環境チケットの活用を通して、資源も、人の気持ちも、資金もぐるりと地域内を循環し、住んで気持ちのよい、活性化した町を創りだしていく動きが始まったといえるでしょう。(了)

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