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Ocean Newsletter
第101号(2004.10.20発行)
- ハワイ大学国際太平洋研究センター(International Pacific Research Center, University of Hawaii)教授◆謝 尚平 Xie, Shang-Ping
- 英国サザンプトン海洋センター(Southampton Oceanography Centre)所長◆Howard S. J. Roe
- 宮崎公立大学人文学部助教授◆李 善愛 Lee, Sun-Ae
- ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌
韓国における海洋・水産教育の現状と問題
宮崎公立大学人文学部助教授◆李 善愛 Lee, Sun-Ae韓国における海洋教育は、実業教育の一環として中堅技能工の養成を目的として始まり、1970年代以後の経済成長に伴い、学校数、学生数を増やしてきた。
しかし、職業観の変化により、1990年に入ってからは海洋・水産専門の学生や学校は減る一方で、社会ニーズにあった能力の高い人材の育成が大きな問題となっている。
1.漁家・漁業者数の推移
韓国は三面が海に囲まれているが、東海岸は砂丘や岩礁性海岸が発達して水深が深く、原子力発電所がある。西海岸は潮水の干満差が激しく、干潟が発達して大規模な干拓地事業が行われている。南海岸はリアス式海岸が発達した多島海である。これら海岸の地形的特徴や潮流とのかかわりで漁種や漁法が異なり、漁業者数の地域別差もはっきりしている。2002年度統計資料によると、漁業者数がもっとも多い地域は南海岸で、全体漁業者数(約22万人)の約64%(約14万人)を占め、次の西海岸は23%(約5万人)であり、その次の東海岸は14%(約3万人)を占める。1994年度から2002年度までの漁家数や漁業者数をみると、漁家の年間平均増減率は-4.66%であり、漁業者の年間平均増減率は-6.6%である。その理由は、干拓地及び空港、原子力発電所など大規模施設の増加による漁場や沿近海水産資源の持続的減少などによるものであるという※1。
2.海洋教育の発展過程
韓国における海洋教育は、実業教育の一環として朝鮮戦争後の政治・社会的混乱の中、経済的な復興のための中堅技能工の養成を目的として始まる。第二次世界大戦後から現在までの海洋教育の発展過程を概観してみると、1950年まで海洋・水産学校は、中学過程が7校、6年制の水産学校が5校、専門学校が1校、4年制大学が2校設置された。1951年の教育法改正後は、海洋教育は高校水準以上で行われるようになり、海洋・水産高校は8校になった。当時の海洋教育の目標は「海洋・水産業に従事するのに必要な知識と技術を習得する」のにあった。最初の海洋・水産高校は教師や施設、実習費の不足などと、定員割れの状態にあったが、60年代の経済発展による社会変化や海洋科学技術の高度化によって海洋・水産高校卒業生の就職率が高まり、生徒数も増してきた。そして、政府は膨大な資金投資や施設拡張をし、70年代からは需要の増大に対処するため、4校の専門学校を専門大学に改編し、学科数は漁業、増殖、機関、通信、航海、加工、土木、経営に増設し、学生の定員も増やした。しかし、学生数の増加に対して行政及び財政的支援や施設拡大、教員の確保は基準を満たさず、質の良い人材不足の問題が持ち上がった※2。
3.海洋教育の現況
1985年 | 1993年 | 1995年 | 1996年 | 1999年 | 2000年 | 2004年 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
学校数 | 9 | 9 | 9 | 10 | 9 | 8 | 8 |
学級数 | 197 | 134 | 170 | 186 | 173 | 158 | 155 |
学生数 | 10,030 | 4,912 | 6,791 | 7,626 | 6,739 | 5,607 | 4,538 |
教員数 | 397 | 401 | 425 | 467 | 422 | 380 | 366 |
入学者数 | 3,606 | 2,122 | 2,838 | 2,777 | 2,434 | 1,783 | 1,656 |
卒業者数 | 3,253 | 1,604 | 1,317 | 1,977 | 2,122 | 1,920 | 1,329 |
海洋・水産高校の学校数は、1996年に10校に増えたが、99年には9校に減少、2000年にはさらに1校減って8校となっている。海洋・水産高校の学生数は1988年までは1万人を越えていたが、2004年現在には半数以下に減っている。入学者数や卒業者数も激減して定員割れし、在学生は途中脱落率が高く、海洋・水産高校は存閉の岐路に置かれている。教員の数も96年を境に減少傾向にある(表1)。一方、水産大学は他の一般大学と統合され、1つの学科あるいは学部として維持されている※3。
2003年海洋・水産高校生を対象としたアンケート調査によると、応答者数の7割以上が中学校または高校の入試成績が悪いのと大学進学に有利だから海洋・水産高校に進学するという。卒業後、海洋水産関係に従事したい生徒の割合は応答者数の1割であり、4割が従事しないと答えている。さらに、応答者数の6割以上が海洋・水産高校に大学進学と就職の両方を満たす教育を望んでいる※4。
一方、東亜日報の投稿文によると、「慶北道知事は蔚珍郡に2003年から2007年まで800億ウォン(80億円)を投資し、海洋生命科学研究団地、体験型海洋科学館、海洋レジャー・スポーツ団地などを造成する予定である。(中略)知事は慶北東海岸に『海』を学ぶ学校が何カ所あるかご存知か。海洋・水産を教育している学校が今どのような状態にあるか、海洋・水産関係の大学学科の実情はどうであるか関心を持ったことがあるか。(中略)海洋・水産関係の教育現場は門を閉じる寸前だ。海洋・水産高校を選択する学生たちはほとんど『仕方なく』進学する。海洋教育は断崖絶壁の先で危うくもちこたえている状態だ。生徒たちには海を勉強しているという誇りは見えず、学父兄たちは子どもが海洋・水産学校に通っているのを恥ずかしく思っている。このような現実を無視して海に対するあらゆるバラ色の開発展望を描き出すのは理解しがたい。800億ウォンの100分の1でも海洋教育に投資して、海洋・水産学校の生徒と教師、学父兄が『海』を希望の拠り所とすることを願う」(2003年2月24日)という。
しかし、行政側としては設備や資金投資をしても高価な機械は使わず放置され、生徒は学習意欲が低く、学生は卒業後、海洋・水産と関係のない一般会社に就職してしまうため、いかに予算を使い、海洋・水産専門の人材を育てるかを課題としている。
4.おわりに
以上からみると、韓国における海洋教育の大きな問題点は、管理中心の事務職を選好する職業観により海洋・水産を含めた生産技術職は報酬、待遇の面で不利益を被り、職業人を養成する職業教育まで軽んずる社会・文化的傾向にある。今日の海洋・水産業は膨大な資本と尖端産業技術を現場に適用しているため、海洋教育はそのニーズに合う高度に訓練された技術をもつ人材を育成しなければいけない。そのためには学力よりは能力と資格証が認められる社会風土が作られ、適正と能力にあう職業に従事しながら生き甲斐やプライドをもつことができるような教育が必要であると思われる。(了)
【参考文献】
※1 統計庁農水産統計課 「2002年農業及び漁業基本統計調査結果」 韓国統計庁 2003
※2 社団法人水友会編 『現代韓国水産史』 高麗書籍株式会社 1987
※3 国家教育情報センター 「教育統計年報」 韓国教育人的資源部 2004
※4 金正鳳 「水産系高校在学生(2年)対象のアンケート調査結果」 韓国海洋水産開発院 2003
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