Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第101号(2004.10.20発行)

第101号(2004.10.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌

◆海の教育とは何だろうか。日本語の「育む」ということばは、どこか包み込むような優しさがある。英語のナーチャー(nuture)は「養育」「教育」とともに、「滋養物」を意味することばである。海はさまざまな栄養塩類を含んでいる。この栄養分こそが海に存在するあらゆる生命を創りだした源であることはいうまでもない。だから、海の教育とは、豊かであるだけでなく、尊厳に満ちた海の世界を学ぶことを意味していたはずだ。

◆ところが、海の教育は、どこか本来の魅力を失ってきたかに見える。なぜなのだろうか。直感としておもうのは、何もかもを包み込んだ統合の場である海への教育が、受験偏重の教育や陸地優先の発想により見過ごされ、特殊扱いされてきたためではないか。人間の摂取する食物もおなじだ。偏食が体によいはずはない。バランスが重要であるし、多様な食物こそが体と心の豊かさの原動力となる。

◆かといって、批判ばかりでは前に進むものでもない。具体の対策こそが求められている。そこで提案したいのが、鮨屋を通じた実践教育のすすめである。たいていの子どもは鮨大好き人間なのだ。鮨屋のカウンターで、鮨をつまみながらの海の話は無限に広がる。魚の種類や方言、旬の魚、海洋汚染、経済のグローバル化、釣り。鮨屋のオヤジと熱心に会話する親を見る子どもが何を学ぶか。いろいろな会話は、魚を通じて海を学ぶことになる。想像しただけでも楽しくなる。食を通じた海の教育の実践である。

◆以前、赤坂のとある鮨屋で、「中トロ、サビ抜いて下さい」と注文した小学生がいた。生意気なと一瞬おもったが、目くじらをたてることもあるまい。教育にはコストがかかる。子どもが親を敬う心をもち、滋養にもなるなら投資効果はある。世のお父さん、お母さん方。まずは、回転寿司からはじめませんか。ただし、回転台をにらみながら無言で食べるのは御法度である。(了)

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