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オーシャンニューズレター

第101号(2004.10.20発行)

第101号(2004.10.20 発行)

イギリスの海洋教育

英国サザンプトン海洋センター(Southampton Oceanography Centre)所長◆Howard S. J. Roe

イギリスの海洋教育は、「海洋科学技術の教育および訓練は、海洋国としてのイギリスにとってきわめて重要であり、ますますその重要性が高まる」という共通の認識に則っている。
教育の現場、海の重要性を一般に浸透させるための取り組みを紹介する。

イギリスにおける海洋教育の認識

地球の表面は、その70パーセント以上が平均水深約4,000メートルの海に覆われている。地球の全水量の約98パーセントを占める海、生命の維持に不可欠な海、大気とともに気象および気候を左右する海、地球最大であり未知の3次元的生態系である海、巨大な資源である海。こうした事実だけを見ても海の重要性がわかるが、さらに沿岸域管理、環境管理、海運、輸送、エネルギー、防衛、漁業、生物多様性、レジャーなども考慮すると、海洋の問題は私たち1人ひとりにも係わる重要なものであることが理解できる。合理的管理には理解と知識が必要である。既存の学問を習得したり新しい知識を構築したりする基礎は教育制度にある。

イギリスでは、1998年に海洋科学技術関係省庁間委員会(IACMST: Inter-Agency Committee on Marine Science and Technology)が海洋教育の見直しを実施した。IACMSTの報告書は、「海洋科学技術の教育および訓練は、海洋国としてのイギリスにとってきわめて重要であり、ますますその重要性が高まると思われる」と結論づけた。これはいまでも正当な意見である。海の重要性、特にその重要性に対する国民意識は、国際気候変動パネル(International Climate Change Panel)などの公的手段を通して、また民間レベルでは新聞や「Blue Planet」などのテレビ番組を通じ、大いに高まっている。

イギリスにおける高等海洋教育

高等教育における教育の機会も増えている。1998年にUCAS(Universities and Colleges Admissions Service)がウェブサイト上で実施した調査では、32の教育機関が約190の海洋関連科目を設定していることが明らかになった。同様の調査によると、現在39の教育機関が198の科目を設定している。海洋に関連した名称を冠さずに設定された科目も多く、UCAS制度に加盟していない大学もあるため、どちらも実数はこれより多いと思われる。とにかく、学部レベルにおいては、きわめて多様な科目が受講可能であることは明らかである。

サザンプトン海洋センター(SOC: Southampton Oceanography Centre)を例に、こうした多様性についてさらに詳しく説明してみよう。SOCの海洋・地球科学部門には、さまざまなスキルおよび分野にわたる95のテーマに分かれた19科目があり、年間170名の学生が受講している。さらに、IACMSTの調査でも学際的な研究に対するニーズが指摘されたが、これは、上記すべての科目において明らかであり、イギリスの高等教育に共通である。学生の経験の幅は、専門教育はもとよりコンピュータおよびコミュニケーションなどの個人的かつ応用可能なスキルの訓練にまで広がっている。

イギリスの高等教育には国際的な側面がある。欧州域内には学部および大学院両レベルの研究、インフラストラクチャー、教育を対象とする欧州委員会プログラムがあり、海洋の学生は「ソクラテス(SOCRATES)」や「マリー・キュリー(Marie Curie)」などの交流プログラムを活用することができる。交流は局地的にも行われており、たとえば、SOCには米国の教育機関と大学院レベルでの交流プログラムがある。また、アメリカ、イギリス、中国で組織する「世界大学ネットワーク」は共同の学部講義および研究プログラムを開発している。

大学院における海洋教育の機会も学部教育に劣らず多様である。より高度な教育や研究、またはその両方が可能である。一般に財源としては、政府の財政支援を受ける研究会議、産業界、またはその両方からの助成金、あるいは教育機関、学術団体、そしてもちろん民間の奨学金がある。学部学生にも同様のさまざまな財源がある。

教育の質と資格は、学位認定制度によって国が維持している。最近、海洋科学教育、訓練に対して、海洋工学・科学・技術学会(IMarEST: Institute of Marine Engineering, Science and Technology)が新たな取り組みを開始した。IMarESTは、1889年設立の海洋工学学会(IMarE: Institute of Marine Engineers)に海洋科学者、技術者が合流し、2001年に設立された国際的な専門職・学術団体である。これによって海洋工学科目および研修を対象としていた専門資格認定の対象範囲が、国内外の海洋科学および技術にまで拡大した。認定は、公認の質的基準に達していることを認め、適切な科目を履修した専門資格を保証する。

海洋教育の広がり

海を知るということは高等教育よりもはるかに早い段階から始まる。学校では正式な海洋教育はほとんど行われていないが、子どもたちを教室から研究機関、大学、または職場に連れ出して、教育の幅を広げる様々なプロジェクトがある。たとえば、政府が後援する科学工学技術・数学ネットワーク(SET: Science Engineering Technology and Mathematical network)があり、このホスト機関の一員であるサザンプトン大学およびSOCは、数多くの子どもたちを受け入れ、「海洋」プロジェクトを実施し、通常、春に開催される「科学週間」では子どもたちに話を聞かせている。別の例としては、大学、研究会議、および産業界が後援する協会の科学技術創造性プログラム(CREST: Creativity in Science and Technology programme)が挙げられる。これは、各学校のチーム(または個人)がホスト機関で発表し、審査を受けるプロジェクト・ベースの企画である。SOCでもその海洋科学、工学分野の一部のプロジェクトを主催している。別タイプのプログラムには「海の教室」がある。欧州委員会(European Commission)と自然環境研究会議(Natural Environment Research Council)が後援し、SOCを拠点とするプログラムである。これは、教師が海洋調査に参加し、船上からウェブサイト経由でそれぞれの学校に毎日報告を送るというものである。

しかし、教育とは学校等で行われる学習だけに限られるものではない。海の重要性を一般に浸透させるためには、大学やメディアが興味をそそる講演、記事、番組などを提供することが肝要である。SOCでは、鯨、サンゴ礁、気候変動などの広範なテーマで夜間公開講義を行っている。また、子どもと親が一緒に参加して標本、岩石、化石に触れる「体験」日も設けている。一般公開日や一般公開週間もある。SOCでは、これらの活動をサポートするために海に関して広報する専門のスタッフ・チームを組んでいる。

以上、主としてSOCの例を紹介してきたが、(1)あらゆる年齢の学生に対して多くの機会が提供されていること (2)海洋問題の論点を人々が認識し、受け入れることが重要であるとする認識があること (3)すでに確立されているエンジニアに対する制度と同様な海洋科学者の専門資格認定システムを作り、イギリス国内だけでなく、国際的に広がりを持たせることが有益であるという認識があること、これらはイギリス国内に共通のものである。(了)

●本稿の原文(英文)はこちらからご覧いただけます

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