Ocean Newsletter
第100号(2004.10.05発行)
- 佐渡市立深浦小学校教頭◆栗岡秀明
- 鹿児島大学多島圏研究センター教授、日本島嶼学会事務局長、太平学会常務理事、NPOしまみらい振興機構代表理事◆長嶋俊介
- 国土交通省海事局国内旅客課長◆丹上(たんじょう) 健
- ニューズレター編集委員会編集代表者(横浜国立大学国際社会学研究科教授)◆来生新
離島航路の維持・改善方策について
国土交通省海事局国内旅客課長◆丹上(たんじょう) 健離島航路の利用者数は、過疎化、高齢化の進展により近年減少傾向にあり、離島航路を運航する事業者の経営状況は厳しい。しかしながら、離島は船舶以外に交通手段がないという特殊性から、生活の足の最低限の確保は必要であり、その方策が大きな課題。さらに、輸送ニーズの変化、多様化に対応した船舶のフェリー化、高速化、バリアフリー化についても着実な進展が求められている。
1.はじめに
旅客船は、鉄道やバスに比べて、一般の消費者が日常的に利用するという印象は少ないかもしれませんが、年間1.1億人の通勤、生活、観光の足とされており、これは、航空機の需要を上回っております。その中で、離島航路の利用者数は、過疎化、高齢化等により大幅に減少しており、離島航路を運航する事業者の経営状況は大変厳しい状況にあります。しかしながら、離島は、船舶以外に交通手段がないという特殊性から、離島住民の足及び生活物資等の輸送手段として最低限の確保は必要であり、その確保が大きな課題となっております。
さらに、輸送ニーズの多様化に対応した船舶のフェリー化・高速化、高齢化に対応したバリアフリー化といった課題に対しても対応していかなければなりません。
2.離島航路とは
わが国は、本州、北海道、四国、九州を含めて約7,000の島嶼を有し、その中の400余の島嶼に人々が暮らしています。一口に離島といっても、新潟県の佐渡島、長崎県の福江島、対馬島、壱岐島、鹿児島県の奄美大島、種子島、沖縄県の宮古島、石垣島のような人口数万人を数える大型離島から人口数十人の小島、あるいは、瀬戸内海の島々のように本土から数十分で到達できる島から船舶で一昼夜かけないと到達できない島、その他、過疎化に悩む中で観光などにより交流人口の拡大している島や人口が増加している島と、その個性は様々です。
これらの多様な離島の特性によって、その航路の求められるサービス水準等も異なり、それに応じた維持・改善方策を講じていく必要があります。
3.航路の維持・改善のための公的補助
離島航路とは、離島航路整備法第2条により、「本土と離島を連絡する航路、離島相互間を連絡する航路その他船舶以外には交通機関がない地点間又は船舶以外の交通機関によることが著しく不便である地点間を連絡する航路」と定義されております。
その中で、(1)生活航路であり、(2)他に事業者がいない唯一の交通機関であり、(3)合理化等の努力を尽くした上で欠損が生じる航路については、離島航路整備法に基づき、離島航路事業者に対し、航路経営によって生じる欠損の一部について補助金を交付することで、航路の維持・改善を図っています。
平成15年度には、102事業者、107航路に対し、約38億5,000万円の欠損補助が行われたところでありますが、補助対象航路の利用者数は、平成6年の約1,200万人から平成15年の900万人と、ここ10年間で25%も減少しております。この間の補助対象航路に係る離島の人口の減少は10%程度にとどまっておりますので、過疎化よりも早いテンポで利用者数が落ち込んでおり、離島航路を運航する事業者の経営の見通しは以前に増して厳しい状況にあります。
国の厳しい財政事情の下、大幅な予算の伸びが期待しにくい状況の中で、どのように航路を維持・改善していくか真剣に考える時期にきていると考えております。
4.生活航路確保のための制度について

平成12年10月から施行された改正海上運送法により、いわゆる需給調整条項が廃止され、参入は免許制から許可制となり、また、料金も認可制から届出制となり、事業者の自由な設定が可能となりました。しかし、離島航路等については、これを維持することが、地域住民の生活を確保する上で、不可欠である一方、輸送需要の小ささ等からすべて市場原理に任せた場合には必ずしも適切な供給がなされないおそれがあることから、このような規制緩和の流れの中で、生活上必要な船舶輸送を確保するための措置を講ずることが必要です。
このため、改正海上運送法では、これらの生活に必要な離島航路等を、国土交通大臣が都道府県知事の意見を聴取した上で指定する指定区間の制度が設けられました。
この指定区間制度により、
- 参入に当たっては地域住民の生活に必要な一定のサービス水準(例えば運航回数、始発終発時間等)を満たすことが必要
- 運賃は上限認可制(通常は届出制のみ)
- 6カ月前の廃止届出提出の義務付け(通常は30日前)
とすることにより、生活に必要な船舶輸送を確保し、比較的採算のよい時間帯や航路のみに参入されることでこのようなサービスが維持できなくなることを予防するとともに、運賃が不当に高く設定されることを防ぎ、航路廃止の際の代替手段確保のための十分な期間を確保することとしております。
5.離島航路における船舶のフェリー化、高速化、バリアフリー化の促進
平成6年から、離島航路に就航する船舶のフェリー化、高速化を推進するため、離島航路船舶近代化建造費補助金が設けられました。その結果、フェリー化については、平成6年度の53隻から15年度には61隻、高速船では平成6年度の30隻から15年度は35隻と一定の進展を見てきました。
さらに、近年、離島は高齢化が他の地域に比べ急速に進んでいることから、船舶のバリアフリー化のニーズが高まってきています。しかしながら、船内という限られたスペース、水の浸入を防ぐための段差、揺れという船特有の事由により、既存船の改造には限界があり、平成15年度の整備率はわずか4.5%にとどまっています。
そのような中、平成12年から施行された交通バリアフリー法により、14年5月15日以降に新たに一般旅客定期航路事業の用に供される旅客船はバリアフリー化が義務付けられました。このため、特に経営基盤の弱い離島航路について、平成16年度から、離島航路船舶近代化建造費補助金の要件をバリアフリー化に特化し、補助対象航路に就航する船舶の代替建造又はバリアフリー化改造工事を行う場合にバリアフリー化に要する工事費の50%を補助することとしております。
6.今後の離島航路のあり方について
海を通じた離島とその他地域との交流の活発化は、外部の人にとっては日常の生活の中で気付かない様々な価値を発見する場であり、地元の人にとっては自分たちの持っている当たり前のものの価値を再発見する機会になります。
少子高齢化の進展にそれぞれの地域が、また、わが国全体がいまだ対応の方向を模索する状況にありますが、海を通じた交流の促進を一つのキーワードとして、地域の関係者の方々と共に、離島航路の利便性の向上や離島地域の活性化に取り組んでまいりたいと考えております。(了)
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