Ocean Newsletter
第100号(2004.10.05発行)
- 佐渡市立深浦小学校教頭◆栗岡秀明
- 鹿児島大学多島圏研究センター教授、日本島嶼学会事務局長、太平学会常務理事、NPOしまみらい振興機構代表理事◆長嶋俊介
- 国土交通省海事局国内旅客課長◆丹上(たんじょう) 健
- ニューズレター編集委員会編集代表者(横浜国立大学国際社会学研究科教授)◆来生新
「海・島コガバナンス(co-governance)」の提唱
~海洋の島主人公的共治とその実践~
鹿児島大学多島圏研究センター教授、日本島嶼学会事務局長、太平学会常務理事、NPOしまみらい振興機構代表理事◆長嶋俊介島共治を活性化させることは、海洋国家戦略を内実化させる王道である。しかし島共治力では公が構造的に下降し、島内外の「共と民」を底上げする戦略が国家的に問われている。島内外エンパワメント・調整力形成が、海洋観を国民の手に戻し、島を生活・生命実感的文明観の先陣域へと底上げする。
「海・島コガバナンス」とは
海洋ガバナンスというと、国境・国防・貿易・環境・海洋資源管理・海底資源開発等々いずれもが、「国」策の第1優先事案である。そこでは本来「海洋国家日本」意識・理念としての位置付けが期待される。だが、建前でも、実情でも、残念ながら「海洋国家認識」は、まだまだ非日常的すぎる。どこかきな臭く、地に足つかず、個々人の暮らしのあり方に直結していない。
そこで、強調し提唱したいのが、「海・島コガバナンス(共治)」の実践的実現と、島からの視座での海認識改善施策の連動である。
コガバナンスco-governanceとは、住民主人公的な共治力の展開である。上が下を統治するのではなく、公・共・民一体となった、むしろ住民やNPO主導の、福祉・環境・防災・教育・保健・治安・文化・平和・草の根交流などの具体課題に関して、具体地域(Think Globally, Act Locally的)実践と、そこでの「ライフ(人生・生命・暮らし)環境の質」の実現を目指した地域経営展開を意味する。
市町村合併と「海・島コガバナンス」の危機



島国日本に視座を設定すると、環境の質と海洋共治のライフ具体像が一気に見え、実益は海と直結している。「海洋域の広さと重み」「海岸線」「里海的暮らし」「飛び地的自然・文化の多様性・豊穣性・連続性・歴史性」が、この国のアイデンティティの基層として、日常性の中に重く存在している。とりわけ離島の存在による島嶼国家性は、海洋国家性の、重要構成要素である。全海岸線の1/4は離島にあり、離島の存在により排他的経済水域EEZは、世界第6位の広さになる。離島は防人の地、里山・里地・里海の場、広域海面の管理地域であり、島自然・島国文化の古里である。海・島人材や資源の宝庫でもある。
しかし、ここで再認識すべき懸念がある。市町村合併で、島にある自治体が消滅し始めている。2000年時点で離島と関わる自治体が54市122町45村であった(全国自治体の1/15)。平成の大合併で、本土所在市に併呑され、役所のない島が一気に増えていく。島・海に生涯的に関わり、プロとして島・海を常に考えているシンクタンク的人材が、別業務へと回っていく。その産業部分も島・海の外に抜かれてしまう。その構造的島外シフトで、改めて国・自治体レベルでの「海・島コガバナンス(共治)」の再構築力が問われる。
新離島振興法が、2003年4月から施行され、奄美群島振興開発特別措置法も小笠原諸島振興開発特別措置法も、都道府県計画から、市町村(理想的には各島)単位による企画・計画へとシフトした。まさに島コガバナンスの力量が直接問われる時代へと変わった。理想的には島間の競争が促進される。しかし、海を見据え、海をつなぐ発想での協調が欠けたとき、小地域限定の点政策・点施策の競演と、陸論理支配に終わってしまう。瀬戸内海は典型的にその危機の中にある。島の自治体が、本土市に併呑され、各島は海の主張ではなく、陸側との画一的比較での、予算獲得や計画化にすすむ。行政担当者・議員・組長の海プロは構造的に個人努力的存在となってくる。どこかで、海プロ育成エンパワメントプログラム・生涯的海プロ人材確保政策を展開する必要がある。現島行政マンはその危機を未来に向け自覚する必要がある。
国としての島嶼施策
国においても、自覚的島嶼開放が必要である。小笠原に属する、沖ノ鳥島、南鳥島、硫黄島は、海洋国家日本を直接自覚できる島嶼である。ツアー資源として、好適であるにもかかわらず、国はそれを密閉している。エコツアー・フロンティアツアー・平和学習ツアーは、一定のワイズユース規約・環境コード、安全原則遵守のもとで企画するとき、日本人の海洋観は一気に転換する。過日、小笠原復帰35周年ツアーで南・北・中硫黄島を間近に眺め、小笠原村村長実母に関わる中硫黄島談や豊かな西洋野菜・鉱山先進地性、北硫黄島の小学生物語を、その船中で聞いたとき、海洋認識がさらに広がった。
「国の視座・国民の利益・地元民の利益」、特に後二者尊重こそ、この洋島を場とする海洋・島嶼コガバナンスである。硫黄島は戦跡地公園として、もっと一般の人に開放すべきである。そこから日本唯一の人跡未踏の原生自然環境保全地域である南硫黄島も直視できる。南鳥島や沖ノ鳥島は、太平洋環礁域・国家水没化危機を、消費者責任・世界規模環境・科学技術的利用・造礁珊瑚育成努力などの「国内」自覚実践場として、民力を結集すべき場でもある。諸外国から「単なる岩礁」とされる批判にも「実効支配」で対抗できる。五感での「百聞は一見に如かず」体験は、海洋認識・地球環境認識を一新する。まさに海・島エンパワメントプログラムとして好適である。
生命と海の営みが直結する場、島
また島サポーター・島(民・組織)エンパワメント・島NPO創生と連携・島内調整力形成が、これほど大切な時代はない。例えば佐渡では、朱鷺の野生復帰を巡り、民主導で20ヘクタールのビオトープづくりや、不耕起冬季灌水田、各地先進地視察・島外サポーター受け入れなどが活発に動き始めている。拉致問題でも、満杯の人を集めた集会が実現する。佐渡島海洋自然学校もジャック・モイヤーさん死去後も継続できている。子どもたちは里山・里海の連続空間に感動する。渓流魚が海岸線近くでも観察できる山紫水明の地が、採石場で荒らされかけたとき女性たちがリーダーとなり、その水源地と自然を守るために立ち上がった。島を愛する人たちは、海と山を育て、その「里に立つ」ものたちは、言葉の本当の意味での「童」である。偉大な田舎、佐渡に日本の原風景を認める太鼓集団、鼓童は、その里に学びつつ文化を世界に発信している。
島には豊かさの質や文明の質を海を関わらせて考え直し、海の恵みや美しさを実践的に体得させる力がある。地に足ついた生活の持続に、生命と海の営みが直結している場が島である。(了)
2004年9月22日与論島にて
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