Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第100号(2004.10.05発行)

第100号(2004.10.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(横浜国立大学国際社会学研究科教授)◆来生新

◆「秋うらら離島航路の海の青」(谷原潤太郎)。100号の区切りに「島の暮らし」をテーマにした特集号をお届けする。丹上オピニオンによれば、わが国では、本州、北海道、四国、九州を含めて約7,000の島嶼の中の400余りの島に人が住む。大陸国家ではないわが国では、すべての人が島の暮らしをしているともいえるのだが、本州や北海道や九州に住む人は、自分たちが島の暮らしをしているとは考えない。四国の人たちも同様。しかし佐渡島の人たちは自分たちの暮らしが島の暮らしであると考える。この違いは何に由来するのだろうか。翻って考えれば、大陸といっても絶対的陸地ではなく、相対的に大きな島に過ぎない。地球の上ですべての陸は海に取り囲まれている。とすれば、島の暮らしは物理的な基準によって絶対的に定義されるものではありえない。そこに住む人々の四囲が海であることの意識の強さが、島の暮らしとそうではないものの区別の根底にあるものなのか。島の暮らしとは、意識ないしは無意識のうちにある「切り離されている」という感覚を前提とするものかもしれない。英語で離島はisolated island である。都会の雑踏の中にも離島はある。

◆栗岡オピニオンは、佐渡の小木固有の生活文化であるたらい舟に象徴される、豊かな海の恩恵を生かす暮らしを次世代に伝える総合学習を紹介して興味深い。切り離されているという感覚は、そこで生じた文化が世代間で承継されることを強く求め、それが一人一人の人を孤立から守るのかもしれない。教育の果たす役割は大きい。

◆長島オピニオンは一般になじみのない概念を用いて難解。しかし、その言わんとするところは、日本の海と島に、島っ子のガバナンス確保の視点での国の政策を、という主張であろう。

◆そのような要請に応えるものである離島航路の現状と課題を紹介するのが、丹上オピニオンである。切り離されていることと連帯すること、地域と国家、市場の制度に乗るものと乗らないもの、市場で評価されないものの価値を社会が誰の負担でどのように守るべきか、島の抱える問題は日本社会の抱える問題の縮図に他ならない。議論と施策のいっそうの展開を望む。

◆ということで、とうとう100号、中原と来生が編集代表である体制は今号で終わる。東京財団で、今は大臣となった竹中平蔵氏が編集代表となっていたインテレクチュアル・キャビネットを越える号までを合言葉に、事務局と一体となって創刊からよちよち歩きを続けて来た。多くの方々のご支援のおかげで、既に第一目標は達成している。次号からは秋道、山形両氏が編集代表となり、よりいっそうの紙面の充実が期待される。長い間編集後記をお読みくださった読者諸氏と、本誌へのお別れのことば、ちょっと気取ってシェイクスピアのソネット87の一節から。Farewell! thou art too dear for my possessing, And like enough thou know'st thy estimate: (了)

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