Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第343号(2014.11.20発行)

第343号(2014.11.20 発行)

大分県臼杵市カマガリ元年~地域が一体となって取り組む水産振興~

[KEYWORDS]地域の宝/地域協働/地域活性化
大分県中部振興局農山漁村振興部技師◆行平真也

大分県臼杵市は今年度を「カマガリ元年」と位置付け、水産振興に地域を挙げて取り組んでいる。
カマガリ(標準和名クログチ)は臼杵市では古くから地域で食べられていたが、市外ではあまり馴染みがない魚である。本稿では、この知名度の低い魚を前面に出した地域が一体となった水産振興の取り組みについて紹介する。

はじめに

大分県臼杵市は平成26年度を「カマガリ元年」と位置付け、水産振興に地域を挙げて取り組んでいる。カマガリ(標準和名クログチ)は臼杵市では古くから地域で食べられていたが、市外ではあまり馴染みがない魚である。本稿では、この知名度の低い魚を前面に出した水産振興の取り組みを紹介する。地域が一体となって水産振興に取り組むためには、漁協や行政のみならず、地域の方々との連携することが肝要であり、そのためには、地域の担い手である市職員の力が重要であると考える。

カマガリとは

■カマガリ(標準和名クログチ)。標準的なサイズは全長40cm前後

カマガリとは「ご飯を釜ごと借りて食べなくてはならないほど美味しい魚」ということから、名付けられた魚で、標準和名はクログチといい、ニベ科の仲間である。昔は東シナ海でも、よく漁獲されていたが、今はほとんど見られないため、東シナ海ではいわば「幻の魚」と言われている。カマガリはその外見に似つかわしくない美しい白身の魚で、どんな料理にも合うことから、知る人ぞ知る名魚であり、臼杵市では古くから地域で食べられてきた。また、この魚を対象とした漁も営まれており、「ドウモン縄」と呼ばれる底はえ縄漁業の一種で漁獲されている。大分県内でも臼杵市以外ではあまり見られないことから、臼杵市の特産魚である。 しかし、市外では馴染みがないことから、その知名度は低く、また、見た目もあまり良くないことから、特に夏場は値がつきにくく、小型のものは市内スーパーで150円から200円程度で購入できる、比較的安い魚として位置づけられている。

地域の宝を活かし、磨く

このように知名度が低く、値段も安いカマガリではあるが、関西の寿司店など県外の一部では高く評価されている。実際に刺身や寿司などで食べてみると鯛にも負けない本当に美味しい魚であり、まさに「地域の宝」である。このカマガリをより多くの方に知ってもらうことが出来れば、この魚を評価してもらえる。ひいては魚価の向上、漁業者の所得向上に繋げたいとの思いから、「地域の宝」であるカマガリの美味しさを広めていくための取り組みとして、大分県漁協臼杵支店(以下、漁協)が2014(平成26)年1月から、大分県中部振興局の補助金を活用して、「臼杵特産カマガリの新商品開発事業」を行い、魚市場に隣接する海鮮食堂うすきで提供する海鮮丼「カマガリ炙り丼」やカマガリを活かした加工品である「カマガリみりん干し」「カマガリフィレ」の開発を行った。
そして、この事業での成果を活かすため、2014(平成26)年4月に漁協と臼杵市は今年度を「カマガリ元年」と位置付け、カマガリのPRに力を入れていくこととした。
市内でのPRとしては、5月にオープンした臼杵市観光交流プラザのオープニングイベントや臼杵市にある酒造会社の4社合同の酒蔵開きのイベントにおいて、カマガリ加工品販売を行った。知名度の低いカマガリに特化したPRは珍しく、地元テレビ局の報道番組での特集や地元の新聞に取り上げていただくなど、県内において、大きな反響を呼んだ。
このような中で、水産振興の機運が高まり、7月には臼杵市の水産物のブランド化と消費拡大、漁業者の所得向上を目指す「うすき海のほんまもん漁業推進協議会(会長 中野五郎臼杵市長)」が設立された。この協議会は臼杵市や臼杵市議会、漁協や市料飲店組合、市観光情報協会など多様な組織により構成されており、現在では、協議会が主体となり、カマガリのPRに取り組んでいる。

さらなるカマガリの知名度向上の取り組みと現状

■第6回おおいたB級グルメNo.1決定戦の様子。多様な主体が協働し、カマガリのPRを行った。

カマガリの知名度をさらに高めるために、カマガリのフライを挟んだフィッシュバーガー「カマガリバーガー」を開発し、県内有数のフードイベントであるOBS大分放送主催の第6回おおいたB級グルメNo.1決定戦(9月13~15日)に出場した。このような大きなイベントに参加するのは初めてであったが、カマガリを県内にPRしたいという一心で取り組み、参加14店舗中第3位になることができた。この様子は大きく報道され、地域でも大きな話題となった。
今では、臼杵市内のパン屋さんなど数店舗でカマガリバーガーの試作品開発を行っており、一部店舗については10月26日に臼杵市観光交流プラザで、お披露目イベントを実施した。また、うすき竹宵※や地域商店街の祭りなど市内各地で開催されるイベントにおいて、地域の人たちがカマガリバーガーを作って販売したい、カマガリをPRしたいと声を上げるまでになった。当初は漁協・市・県で行っていた取り組みに、地域の様々な方々が加わるようになった。

地域が一体となった水産振興に向けて

地域の水産業が、ますます厳しくなっている現状の中において、水産振興を行うにあたり、地域と一体となって取り組むことが重要であると考える。今年4月から始めた「カマガリ元年」の取り組みは、ある一定の成果を挙げることができていると考える。カマガリ漁を営む漁業者も取り組みの成果を実感しており、カマガリの引き合いが多くなり、値が下がらなくなったとの声を聞く。このことは、漁業者や漁協が本気で取り組んだことが大きな要因であると思うが、臼杵市職員が懸命に取り組んだこと、また、臼杵市の水産主務課が観光と商工業も担当する産業観光課にあったことも、PRを行う上で有利であり、その要因の一つであると思う。
臼杵市職員は、地域の担い手として、イベントの運営や店舗設営などの経験があり、地域における他業種との人脈も広く、また地域を何とかしたいという意識を持つ人々ばかりであり、本取り組みにおける地域協働の中心となった。 地域が一体となって水産振興を行うにあたり、市職員を中心に地域を巻き込むことが重要であると考える。(了)

※ うすき竹宵とは、11月第1土曜・日曜日に行われる祭り。真名長者伝説を竹ぼんぼりのライトアップイベントと結びつけたもの。
(オフィシャルサイト http://www.takeyoi.com/

第343号(2014.11.20発行)のその他の記事

ページトップ