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第299号(2013.01.20発行)

第299号(2013.01.20 発行)

海洋の総合的管理のための海洋情報の提供~海洋政策支援情報ツール~

[KEYWORDS] Web GIS / 海洋情報の一元化 / 沿岸域管理
海上保安庁 海洋情報部 海洋情報課課長補佐◆林王(りんのう)弘道

海洋に関する情報は、複数の省庁・公的機関が観測・調査しているものの、データの所在やその存在自体が一般にあまり知られていない。それらを一元的に集約することでデータを利用しやすい環境を作り、海洋の利活用を進める。これが海洋基本計画にも掲げられている「海洋情報の一元化」の理念である。
海上保安庁ではその一環として「海洋政策支援情報ツール」の構築・公開を開始した。

海洋管理のための情報基盤

わが国の広大なフロンティアである「海」。その「海」を有効に利活用するためには、海洋の様々な情報を把握することが第一歩となる。
海域においても、陸域同様、様々な利害関係が存在するとともに、海洋開発、利用保全に関しては、自然環境や生態系の情報も無視することはできない。それらの合理的効率的な調整は、信頼できる客観的な情報に基づく必要がある。それには、「水温」「海流」「水深」といった海域そのものの状態を表す自然科学情報と、「漁業権」「船舶通航量」といったその海域における人間の諸活動を表す社会情報、その両方を包括した情報図が有効だと考えている。
こうした考えから、諸外国では、海洋に関する情報インフラ(情報の流通・公開のためのプラットフォーム)として、海域の自然科学情報と社会情報を空間的に網羅したGIS(地理空間情報システム)の構築・運用が行われている。具体的には、米国の「Multipurpose Marine Cadastre」、英国の「Multi-Agency Geographic Information for the Countryside」、ドイツの「Geo Sea Portal」、オーストラリアの「Australian Marine Spatial Information System」である。例えば、米国の「Multi-purpose Marine Cadastre」は、再生可能エネルギーの開発許可のための環境アセスメントや実際の開発事業にあたっての利害調整に活用されている。この「Marine Cadastre」を日本語に直訳すると「海洋台帳」となる。
わが国でも、2008年に決定された海洋基本計画において「海洋の総合的管理」とそのための「海洋に関連する諸情報についての一元的な収集・管理・提供」が明記され、総合海洋政策本部事務局の調整の下、「海洋情報の一元化」の取り組みが始まっている。本稿では、「海洋台帳」のプロトタイプとなる、海上保安庁が2012年5月に公開したWeb GISサービス「海洋政策支援情報ツール」について紹介する。

地理空間情報と海上保安庁

■52種類の情報を自由に選び、重ねて表示することができる。

ある領域の状況を把握するためには、位置に関連づけられた現象の情報(地理空間情報)を集め、その位置を合わせて見ることが有効である。天気予報でよく目にするアメダス画像も、カーナビゲーションに表示される渋滞情報も、地図の上に情報を重ねることで、利用者は容易に概要を把握することができる。
地理空間情報の提供は長きにわたって、紙の図を刊行することとほぼ同義であったが、情報技術の発展により、ユーザーがPC等のディスプレイで、地図上に様々な情報を表示できるGISが普及した。近年では、特別な知識や技能を持っていなくても、PCやスマートフォンで、自分の目的に応じた情報図の閲覧や作成が可能になってきた。
海上保安庁では、船舶の航行安全のため、日々、情報を収集し、航海用海図をはじめとする水路図誌の刊行や航行警報といった形で、海洋における様々な地理空間情報を提供してきた。これらで取り扱う情報は、水深や潮流といった自然科学的情報から、航路や港湾区域さらには定置網の許可区域といった社会的情報まで多岐に渡る。また、海洋情報課では、1965年から、ユネスコ政府間海洋学委員会の枠組みの下、日本国の海洋データセンターとして、国内の海洋調査機関が取得した海洋観測データの収集・管理・提供を実施している※1。さらに、海洋環境保全の分野では、油流出事故の被害を極小化するために、Web GISを利用した沿岸域の海洋環境に関する情報提供も行っている※2。こうした業務を通じて海上保安庁では、膨大な海洋情報と、GISに関する技術を蓄積してきた。このことが評価され、日本における海洋台帳のプロトタイプとして「海洋政策支援情報ツール」を海上保安庁が構築・運用することになった※3。

海洋政策支援情報ツールの内容

海洋政策支援情報ツールでは、現在、52種類の情報と7種類の背景図を掲載しており、Web GISの機能として、表示する情報を自由に取捨選択し重ねて表示、縮尺も自由に変更することができる。利用者はマニュアルを見ずとも直感的に操作して、自分の求める情報の閲覧や図の作成をすることができる。掲載している情報には、船舶通行量の統計情報や精細な海底地形図など、今回初めて公開する情報も含まれている。本ツールへの情報掲載に快くご協力いただいた関係機関の皆様には、この場をお借りして、御礼申し上げる。
海洋台帳の目的の一つは、海域の総合的管理への活用である。これは個別具体的な用途に限定されるものではなく、利用者の発想次第で自由に広がってゆくものである。元来は、航行安全や環境保全等のために収集されたデータであるが、様々な情報を組み合わせることで、再生可能エネルギーを含む海洋開発、水産資源管理、教育はもとより、われわれが思いもよらない新たなビジネスなど、幅広い分野で活用されることを期待している。
今後は、他機関との連携を一層強め、情報項目のさらなる拡充や機能の追加に努めていきたい。現在は、利用者が自分で保有している情報を自由に重ねて表示する機能などを検討している。まだまだ荒削りで、情報や機能共に不十分な面もあるが、専門家ではない一般の方が目的無しに触っても楽めるサービスであると自負している。まずは、一度触っていただき、掲載情報や機能について御意見いただければ幸甚である。(了)

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