Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第299号(2013.01.20発行)

第299号(2013.01.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆松の内も過ぎ、平成25年が走り出した。正月のお節料理にカズノコ、田作りを召しあがった方もおおいだろう。わたしは京都生まれの関西人であるが、正月になぜかマグロを食べたくなる。それも中トロを。日本人のマグロ好きはつとに知られている。日本は世界最大のマグロ消費国であり、年間60万トンちかくもの消費量は世界全体の約3分の1にあたる。このままマグロを食べつづけるだけなら、世界の批判を浴びることになる。マグロ資源を管理するため、世界の海を5つの海域にわけ、海域ごとの地域漁業管理機関がおかれている。水産庁の金子守男氏によれば、日本はその5機関いずれにも加盟し、責任ある漁業の推進に貢献する立場にあるということだ。2012年11月にパリで開催された大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)の年次会合で、科学的な勧告を遵守して大西洋クロマグロの漁獲割当量を引き上げることが決定された。嬉しいニュースにはちがいない。ただし、マグロをめぐる違法漁業、規制を順守しない漁業や、無報告のままの国際取引については十分な配慮がなされなかったことをWWF(世界自然保護基金)も指摘している。今後、マグロを食べつづけていくためにも、日本政府は国際的な指導力を発揮していただきたいものだ。
◆本号をごらんになるのは、東日本大震災から1年10カ月目にあたる。復興の道はまだまだ先が長い。津波からの水産業復興だけでなく、海洋の総合的な管理に関する政策課題を新政権によって強力に推進していただきたい。海上保安庁の林王弘道氏は海洋政策の推進にあたり、さまざまな海洋情報をもりこんだ海洋政策支援情報ツールの利活用を提起されている。この「海洋台帳」には、52種類の情報セットが掲載済みという。幅広い応用を可能にするためには広報が重要な役割を果たす。研究や教育面で活用するための工夫をセミナー、講習会、シンポジウムなどを通じて今後ともに展開していただけたらと期待したい。
◆海に関する情報は、GISやパソコン端末のなかだけにあるのではない。全国各地の沿岸漁村や島じま、あるいは港湾や魚市場には海にかかわるさまざまな情報や知恵が埋もれている。本誌で、琴平海洋博物館の田井啓三館長は地元からの海の情報発信の意義を提唱されている。近代日本の海事史と文化にかかわるお宝が同博物館に所蔵・展示されている。かつて勝海舟が咸臨丸で渡米したさい、船の水夫50人のうちの35人が瀬戸内海の塩飽諸島出身者であると知って驚いた。塩飽は戦国期から水軍を輩出したことでつとに知られる。博物館のある象頭山には金刀比羅宮が祀られており、まさにここは海の博物館といってよい。琴平以外の全国にちらばる海に関する博物館の情報は、上述の「海洋台帳」にあるのだろうか。新春の候、一度四国を訪れ、坂本龍馬や勝海舟の生きた時代を体感し、海への思いを新たにしたいものだ。(秋道)

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