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オーシャンニューズレター

第162号(2007.05.05発行)

第162号(2007.5.5 発行)

行動せよ日本~まぐろ資源管理で発揮する日本のイニシアティブ~

(社)責任あるまぐろ漁業推進機構(OPRT)専務理事◆原田雄一郎

世界のすべての「まぐろ類地域漁業管理機関(RFMO)」が初めて一堂に会した会合が、
本年1月に神戸で開催され、まぐろの資源管理のための「行動方針」を採択した。
これまで資源保存管理上の多くの問題解決に主導的な役割を果してきた日本は、
この行動方針の実践推進においても牽引役を果さなければならない。


1.まぐろ漁業管理機関―初めての合同会合

高度回遊魚・まぐろの資源管理をテーマに世界のすべての「まぐろ類地域漁業管理機関(RFMO:Regional Fisheries Management Organization)」が初めて一堂に会した会合が、本年1月22日から26日まで、神戸で日本政府の主催により開催された。会合には、太平洋、大西洋、インド洋等各水域に設立されている5つのRFMOの加盟国54カ国、RFMO事務局の他、OECD(経済協力開発機構)、IUCN(国際自然保護連合)等7つの国際政府機関、NGO等が参加した。

2.会合の目的

日本政府(水産庁)は、「まぐろ資源は、各RFMOの資源管理の努力にもかかわらず、世界のどの海域においても満限または過剰な漁獲にさらされている一方、その需要は各国で増大を続けている。過剰な漁船数やIUU(違法・無報告・無規制)漁業等の問題について、これまでのような水域毎の対応を超えてグローバルに対処していく必要が生じている。この会議で、各RFMOの抱える諸問題を討議し、協調した対応に取り組む」と発表している。

3.会合の結果―「行動方針の採択」とその意義

連日、熱心な討議が行われ、今後、各RFMOが一致協力して取り組むべき14の課題を特定、それ等を踏まえ、「行動方針」を採択し、各RFMOと加盟国が協調して課題に取り組む決意を国際社会に示した。すなわち、「行動方針」は、その冒頭、「この会合に参加した各RFMOの加盟国は、枯渇したまぐろ資源についてはさらなる減少を防止し、まぐろ資源を回復させ、持続的なレベルに維持すること、また、過剰漁獲、過剰漁獲能力、IUU漁業に効果的に対応することの必要性を認識し、緊急な行動を取ることを合同で決意した」と述べ、2009年2月(予定)の次回会合で、行動方針の実施状況を評価するスケジュールも明示している。今後、仮にRFMOの取り組みがいささかの進展も示せず、まぐろ資源の過剰利用の抑制もできなかったというようなことになれば、RFMOのまぐろ資源管理能力に対し、国際社会が疑念を抱くことは免れない。

すでに国際環境保護団体は、発表された「行動方針」を「実質なき方針」と酷評している。彼等は、RFMOが無能力と見れば、国連等に問題を持ち込むことが予想される。かつて、公海流し網漁業が、国連決議により、世界的に禁止(現在も禁止)となった実例もあるように、国連等の、水産資源・漁業等に対する充分な専門的知識や経験もない国の多い国際機関が、科学的、合理的な根拠を充分に検討しないまま、多数決でまぐろ資源の管理措置を決定するようなこととなれば、不合理な漁業規制(漁業の全面禁止等)が導入される可能性がある。つまり、水産資源の持続的利用の原則が不当に阻害される事態を招くことになりかねない。そのような事態を防ぐためにも、RFMOは、まぐろ資源管理の専門機関として、今回採択した行動方針が単なる打ち上げ花火に終わらないように、加盟国とともに、行動することが求められている。

4.容易でないまぐろ資源管理措置の実践

2007年1月22日から26日まで神戸で開催された、まぐろ類地域漁業管理機関(RFMO)合同会合

高度回遊魚のまぐろ資源管理措置は、すべての関係国が、RFMOで決定した資源管理措置によって生じる規制の痛みを分かち合うことによって、ようやく実効あるものとなる。しかし、果たして、実際はどうか。ここに最近の具体例がある。

東大西洋のクロマグロ資源の回復を図るために、昨年、総漁獲枠を4年間で20%削減することが合意されたが、これを、本年から実施するため、本年1月、東京で、各国に配分される漁獲枠の削減を決定するための関係政府間協議が行われた。長時間にわたる協議の末に、ようやく配分枠は決定したが、リビアとトルコの二カ国のみは、決定を不満として合意しなかった。両国は、異議申し立てをすれば、漁獲枠に縛られないで操業できる。その事態が放置されれば、決定した総漁獲枠は守られず、資源回復計画は挫折する。RFMO(この場合、大西洋まぐろ類保存国際委員会)は、神戸で採択した行動指針に早くも具体的なチャレンジを受けている訳である。

5.日本の果すべき役割

これまで、まぐろ資源の保存管理上の多くの問題解決に主導的な役割を果してきた日本が、RFMO合同会議で採択された「行動方針」の実践推進にも牽引車となって働くことが肝要である。日本が主導的な役割を果した実例を一つだけあげると、「IUUまぐろ延縄漁船の廃絶対策導入」の推進がある。すなわち、RFMOの定めた資源管理措置を無視して、活動していたIUU大型まぐろ延縄漁船(平成10年当時、世界に約250隻存在、その漁獲物をすべて日本が輸入していた)の廃絶に向け、日本政府は、輸入データの分析等により、IUU漁船の実態を把握。その漁獲物を市場から締め出すことによりIUU漁業活動を廃絶する措置を、各RFMOに提案し精力的に関係国とも折衝した。その結果、ポジティブリスト制度(正規管理漁船のRFMOへの登録制度)が各RFMOで導入され、現在は、大型延縄漁船によるIUU漁業活動は、ほぼ廃絶に向かっている。この問題には、日本の業界も、(社)責任あるまぐろ漁業推進機構(OPRT)を平成12年に設立、IUUまぐろ延縄漁船のスクラップ事業を行っている。また、世界の大型まぐろ延縄漁船の隻数をこれ以上増やさない枠組みも作り上げ、漁獲能力抑制措置も実施している。

東大西洋のクロマグロ資源問題の解決も、リビア、トルコ産を含め地中海の蓄養クロマグロの大部分を輸入している日本が、鍵を握っている。実際、世界の蓄養まぐろ漁業は、日本の刺身まぐろ市場によって急速に発展してきた。世界最大の刺身まぐろ市場を有しているがために、ともすれば、資源乱獲の主因者として批判される日本が、枠を越えて漁獲された蓄養クロマグロを輸入し続ければ、無責任との謗りを免れず、神戸でRFMO合同会合を主催した大義も失うこととなろう。まぐろ資源の保存・管理の手段の一つとして国際協力の推進を明確にしているわが国の「まぐろ法」(正式名:まぐろ資源の保存・管理の強化に関する特別措置法)に照らしても、この問題に日本が主導的な役割を果し、RFMOの資源管理能力を示すことが求められている。 (了)


●(社)責任あるまぐろ漁業推進機構(OPRT)については、http://www.oprt.or.jpをご覧ください。

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