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社会イノベーショングループ

【開催報告】公開シンポジウム 「持続可能で包括的な移住ガバナンスの共創:東南アジア・東アジアにおけるマルチステークホルダー協働からの教訓」

笹川平和財団 社会イノベーショングループ 研究員 岩品 雅子


2026.08.27
18分
ページ公開日:2026年8月27日
最終更新日:2026年8月27日

概要

笹川平和財団(SPF)とインドネシアに本部を置く人権ワーキンググループ(Human Rights Working Group / HRWG)は2026年8月6日に公開シンポジウム 「持続可能で包括的な移住ガバナンスの共創:東南アジア・東アジアにおけるマルチステークホルダー協働からの教訓」を共催しました。 
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本シンポジウムでは、冒頭の当財団安達一常務理事からの開会の挨拶の後、HRWG エグゼクティブディレクターであり、東・東南アジアの国際移住に関わる市民社会のプラットフォームBetter Engagement Between East and Southeast Asia(BEBESEA)の共同創設者であるダニエル・アウィグラ 氏からシンポジウムの背景と趣旨説明がありました。続くセッション1では、筑波大学 名誉教授の首藤 もと子 氏、マレーシア国民大学(UKM)マレーシア国際研究所 副所長・准教授のアンディカ・ワハブ 氏、ことのは法律総合事務所 弁護士 佐藤 暁子 氏、明治学院大学 社会学部 社会福祉学科 准教授の加藤 丈太郎 氏をパネリストに迎え、BEBESEA 共同創設者である林 茉里子 氏がモデレーターを務め、東アジアと東南アジアにおける「移住ガバナンス」と「ビジネスと人権」の進展について話し合われました。セッション2では、BEBESEA 共同創設者である林 茉里子 氏、Serve the People Association 移住労働者政策部 ディレクターの汪英達(レノン・インダ・ワン) 氏、国際機関日本アセアンセンター 国別協力支援チーム プログラムオフィサーのラゼル・アンドレア・ナヴァルタ 氏、笹川平和財団 中東・イスラムユニット 社会イノベーショングループ 研究員 岩品 雅子をパネリストに迎え、BEBESEA 共同創設者であるダニエル・アウィグラ 氏がモデレーターを務め、地域横断的マルチステークホルダー協働からの教訓について話し合われました。移住当事者の声に基づき、市民社会、企業、政府、国際機関などが地域横断的に協働し、制度の改善につなげていくことの重要性が話し合われました。 

シンポジウムの背景と趣旨説明(Human Rights Working Group エグゼクティブディレクター、BEBESEA 共同創設者 ダニエル・アウィグラ 氏)

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ダニエル・アウィグラ氏は、すべての参加者を歓迎するとともに、東アジアと東南アジアの地域横断的な協働を促進するBEBESEAの設立における、笹川平和財団(SPF)との長年にわたる提携の重要性を強調しました。同氏は、多くの移住労働者が経験する債務労働や司法アクセスの欠如といった構造的な脆弱性に対処するために、国際的な人権規範やビジネスと人権(BHR)に関する原則や枠組みを各国や地域レベルの政策や企業活動に統合されるよう市民社会、政策立案者、企業などマルチステークホルダの協働が急務であることを訴え、移住労働者を単なる「労働力」としてではなく、大切な地域社会の一員、そして主体的な「開発パートナー」としてとらえるよう参加者に呼びかけました。 

セッション1:「移住ガバナンス」と「ビジネスと人権 」の進展

東・東南アジアにおける移住労働者保護に向けた規範の共有と政策の進展(筑波大学名誉教授の首藤もと子氏)

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首藤もと子教授は、東南アジア(ASEAN)における多国間・マルチステークホルダーによる規範形成プロセスと、東アジア(特に日本、韓国、台湾)における二国間・需要主導型の受け入れ制度を比較することで、国際労働移動のガバナンスを検証しました。ASEANが「ASEAN 移住労働フォーラム(AFML)」などの協働プラットフォームを構築し、移住労働者の権利擁護や社会保障の推進で成果を上げてきたことを示す一方で、法的拘束力がないために実施面での課題に直面していると指摘しました。さらに、東アジアの受入国・地域が持つ、産業界の需要主導・政府管理型の制度という構造的類似性を分析し、民間仲介機関(日本の場合、監理団体等のNPOも含む)への依存度が高く、移住労働者の長期的なキャリア開発や技能向上の経路が不足しがちである現状を明らかにしました。最終的に同教授は、より包摂的で持続可能な移住ガバナンスを実現するために、地域規範と現地の実態とのギャップを埋める上で、市民社会組織(CSO)が極めて重要な役割を果たすことを強調しました。(詳細は添付参照)

進化するASEAN政府間人権委員会(AICHR)の役割:複雑な労働移動体制と、ASEANにおけるビジネスと人権アジェンダの拡大の中で(マレーシア国民大学(UKM)マレーシア国際研究所 副所長・准教授 アンディカ・ワハブ 氏)

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アンディカ・ワハブ博士は、複雑な地域の労働移動体制と、拡大する「移動・ビジネスと人権(MBHR)」アジェンダの交差点における、AICHRの進化する役割を検証しました。同氏は、不均等な経済発展や国家主導の資本蓄積に起因する、強制労働、労働者に課せられる高額な採用コスト、デジタル上の脆弱性など、ASEANにおける移住労働者が直面する構造的および法的な脆弱性を概説しました。AICHRが長年にわたりMBHRに関する啓発や能力開発の取り組みを継続的に主導してきたことを評価しつつも、これらの活動が、法的拘束力のある保護メカニズムの欠如や民間セクターの関与不足によって依然として制限されていると指摘しました。今後について、同氏はAICHRの次期5ヶ年行動計画(2026〜2030年)における重要な機会として、法的拘束力のないソフトローから法的拘束力のある枠組みへの移行、人権デューデリジェンスの強化、および実効性のある苦情処理・救済メカニズムの確立を提言しました。(詳細は添付参照)

「ビジネスと人権」の概要とその意義(ことのは法律総合事務所 弁護士 佐藤 暁子 氏)

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佐藤暁子弁護士は発表において、国連指導原則(UNGPs)に基づく「ビジネスと人権」のグローバルスタンダードを概説し、バリューチェーン全体で人権を尊重するという企業の社会的・法的責任の高まりを強調しました。日常の事業活動に埋め込まれた継続的なプロセスとしての人権デューデリジェンス(HRDD)の概念を解説し、日本の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン(2022年)」の意義について触れました。また、移住労働者の採用手数料負担削減や受入環境改善に取り組む帝人や住友ゴムなどの日本企業の実践事例を紹介しました。最後に同氏は、企業に対してマルチステークホルダーとのコレクティブアクション(協働)に能動的に取り組み、単に「どのように(How)」導入するかだけでなく、根本的な「なぜ(Why)」人権を守るべきなのかを重視した本質的な取り組みを目指すよう呼びかけました。 (詳細は添付参照)

特定技能制度と移住者のエージェンシー:「未決定の滞在」をめぐる3事例から(明治学院大学 社会学部 社会福祉学科 准教授 加藤 丈太郎 氏)

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加藤丈太郎准教授は、ベトナム人労働者の移動過程(軌跡)を再構成することにより、日本の特定技能制度下における「移住者のエージェンシー(主体的な行為力)」の概念を検証しました。特定技能制度は、合法的な就労継続や長期滞在の選択肢を広げた一方で、直線的な定住化ではなく「未決定の滞在」という状態を生み出していると指摘しました。二国間にまたがる家族生活、子どもの学校適応を前提とした条件付き定住、そしてキャリア機会拡大に伴い判断を先送りする事例という、異なる3つのケースを比較分析することで、移住者が在留資格や職場、家族条件の変化に応じて将来設計を能動的に再定義している実態を明らかにしました。最終的に同氏は、包摂的で持続可能な移住ガバナンスを構築するためには、単に移住者の声を「聞く」だけでなく、そのエージェンシー(主体性)を制度設計や企業の現場での実践、地域支援のあり方へ有機的に接続する仕組みづくりが必要であると提言しました。(詳細は添付参照)

セッション2 地域横断的マルチステークホルダー協働からの教訓

架け橋を築き、居場所を創る:地域横断的なムーブメントの共創(BEBESEA 共同創設者 林 茉里子 氏)

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林茉里子氏は、東アジアと東南アジアにおける多様なステークホルダーをつなぐことで国境を越えた人権課題に取り組む地域横断的なアドボカシー・プラットフォーム「BEBESEA」の活動を紹介しました。同氏は、交差性(インターセクショナリティ)の視点を持つマルチステークホルダー連携と、草の根からの国際アドボカシーのための能力構築(キャパシティビルディング)という2つの基盤的アプローチ、および調査研究や政策提言ストーリーテリングといった戦略的アクションを事例と共に解説しました。次いで、漁業に従事する移住労働者を取り巻く現場の懸念をいかに地域政策のアドボカシーへと昇華させ、ASEANの「移住漁船員の派遣および保護に関するガイドライン」の採択へと結びつけたかという総合的なケーススタディを提示しました。最後に、この地域横断的な協働から得た学びとして、信頼の構築、安全な場(セーフ・スペース)の創出、ステークホルダー間の共通課題の特定、非当事者による積極的なアライシップ、そして社会的・政治的機運(モメンタム)の活用が、政策の影響を受ける当事者(移住者、受け入れ側双方)の経験を中心に据えた有意義な参画を担保するために不可欠であると強調しました。(詳細は添付参照) 

移住労働者の公正な処遇に向けた国際協力:台湾におけるServe the People Association(SPA)の経験から(Serve the People Association 移住労働者政策部 ディレクター 汪英達(レノン・インダ・ワン) 氏)

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SPAの移住労働者政策部ディレクターであるレノン・インダ・ワン氏は、台湾の移住労働者が直面している構造的な人権侵害について強制労働の指標を用いて発表し、台湾政府の歴史的な政策的失敗と偏向を指摘しました。同氏は、SPAが危機を経験した移住労働者のための避難所(シェルター)の運営、法的苦情申し立ての支援、そして国際的な「ビジネスと人権」の枠組みに沿った企業のサプライチェーン監視など、多角的なアプローチを通じて債務労働や人身売買の撲滅に積極的に取り組んできたことを説明しました。さらに、様々なセクターにおける労働組合の結成支援や草の根組織化を通じて、移住労働者自身のエンパワーメントを成功させてきた軌跡を紹介しました。最後に同氏は、特に水産物貿易や共通する社会的偏見の存在において台湾と日本が深くつながっていることを指摘し、強制労働製品の輸入禁止、バイヤーも負担を分かち合う「公平な採用(Fair Recruitment)」の実現、そして労働者中心のアプローチの確立に向けて、日台の市民社会組織(CSO)が国境を越えた連帯を強化していくよう呼びかけました。(詳細は添付参照) 

アクセス格差を埋める:参加型アクションリサーチと地域間協働からの教訓(国際機関日本アセアンセンター 国別協力支援チーム プログラムオフィサー ラゼル・アンドレア・ナヴァルタ 氏(博士))

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国際機関日本アセアンセンターのラゼル・アンドレア・ナヴァルタ博士は、「セーフティネットから漏れた存在:東アジアと東南アジアの社会保障を移住労働者はいかに経験し理解したかと題されたBEBESEAとパートナー組織による参加型アクションリサーチ(PAR)プロジェクトについて発表し、台湾、日本、マレーシア、香港における移住者の社会保障の現状を検証しました。同氏は、このPARアプローチが、台湾のSPAや日本の「架け橋」といった草の根の当事者・コミュニティ団体を「単なる情報提供者」ではなく「対等な共同研究者・共著者」として位置づけ、研究アジェンダ自体を主体的に形作ることで、従来のトップダウン型の分析手法を覆した点を強調しました。具体的な事例を用いて、法制度上のギャップを埋めることだけではアクセスの障壁は自動的に解消されず、移住労働者が複雑な手続きや言葉の壁、雇い主の抵抗、情報の欠如によって実務上で根強い困難に直面している実態を示しました。最後に、これらの研究成果がマレーシアの社会保障機構(PERKESO)等の主要機関との直接的な政策対話に結びついた実績を紹介し、移住ガバナンスは、影響を受ける当事者コミュニティが単に施策を受け取るだけでなく、自ら政策形成に関与できる直接的な経路を持って初めて、真に包摂的で持続可能なものになると結論づけました。(詳細は添付参照)  

「新人流時代の共生社会モデル構築」事業における笹川平和財団の取り組み(笹川平和財団 中東・イスラムユニット 社会イノベーショングループ 研究員 岩品 雅子)

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SPFの岩品雅子研究員は、「新人流時代の共生社会モデル構築」事業について発表し、移住当事者や政府、市民社会、企業と協働した制度改善の取り組みを概説しました。同氏は、出発前の情報不足から来日後の適応の困難、帰国後の再統合に至るまで、移動サイクル全体で移住労働者が直面する様々な課題を、BEBESEAとの協働から得た知見をもとに明らかにしました。これらの課題への対応として、2020年以降に日比ルーツのコミュニティ団体「架け橋」と連携し、多言語ガイドブックの作成や在京フィリピン大使館や在外フィリピン人委員会(CFO)の協力を得て生活オリエンテーションを実施した地域発の共創モデルを紹介しました。最後に、フィリピン、ネパール、ウズベキスタンからの新規来日者の多様なニーズに応えたこれら対話型オリエンテーションの成果が、2026年より日本政府の公式な取り組みとして制度化され、対象国が拡大しているというポリシー・インパクト(制度化)ならびに、外国人住民を労働者としてのみならず、家族としてとらえ関わっていくこと、ライフコースに応じた取り組みの重要性を強調しました。(詳細は添付参照) 
閉会の挨拶において、笹川平和財団の青尾謙社会イノベーショングループ長は、登壇者、共催団体、そしてすべての参加者に深い感謝を述べ、東南アジアおよび東アジアにおける持続可能で包括的な移住ガバナンスの共創に向けて、国境や立場を越えた具体的な協働の実践経験をオープンに共有し合うことの極めて大きな意義を強調しました。
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