本年5月19日から26日まで、トルコへ出張しました。今回の出張の目的は以下の2点です。1つは「第8回エスノスポーツ・文化フェスティバル」での和太鼓公演をサポートすること、もう1つは、新たに設立された中東・イスラムユニットとして、トルコや他の西アジア諸国で今後どのような協力が可能かを探ることです。関係者と面談し、当地の社会課題を直接聴取することで、将来的なパートナーシップに向けた土台作りを目指しました。
今回の出張は、私たちが中東・イスラムユニットに配属されてから初めての公式任務であり、非常に重要な節目となりました。二人とも西アジア地域を訪れること自体が初めてだったため、すべてが新鮮で驚きに満ちた経験となりました。この記事では、この魅力あふれる国を初めて訪れたタイ人と日本人2人として、私たちの等身大の体験や気づき、そして心に深く残った印象を皆さまにお伝えできればと思います。
ゲオ: 今年の4月、笹川平和財団に新設された中東・イスラムユニットに配属されたことで、私のキャリアはこれまでの経験から完全に踏み出す刺激的な転換を迎えました。私の名前はノーラセーターポーン・ラティゴーンといいますが、ニックネームの「ゲオ」と呼んでください。1年半以上にわたって東京で生活し仕事をしてきたタイ人として、この役割に足を踏み入れることは未知の世界への跳躍のように感じられました。私には西アジアに関する学術的・専門的な背景がなく、この地域に対する理解は、戦争や紛争と結びつけられがちなメディアの描写に限られていました。それでも、私はこの挑戦を喜んで受け入れたいと思っていました。
橋本: 私は新卒で笹川平和財団に入職し、今年の4月で社会人7年目を迎えました。当財団には海洋に関する事業に興味があり入職し、その後社内のD&Iを推進する部署を経て、この4月から縁あって中東・イスラムユニットのアシスタントとして事業をサポートすることになりました。ちょうどその1か月前にアメリカがイランを攻撃したこともあり、不安定な情勢の中でどのように事業を展開していくのか、非常に強い関心を抱いています。
街でよくみられる猫とキャットフードマシン
ゲオ: わずか1ヶ月後の5月、未知の領域へ踏み出す私の意欲は、1週間のトルコ出張という形で試されることになりました。私の使命の1つは、現地の組織とつながりを築き、社会が直面する社会課題を把握することでした。こうした基盤づくりは、社会開発に貢献し、日本と西アジアの絆を強化する財団の将来のプロジェクトを計画するうえで不可欠です。 数年前にアブダビの空港で乗り継ぎをしたことを除けば、この地域に足を踏み入れるのは今回が初めてでした。驚いたことに、私は旅先で滅多にないほど緊張し、準備不足を感じていました。出発前、トルコに関する知識は主にYouTubeのVlogから得た断片的なものに限られていました。アヤソフィア、ケバブ、ターキッシュ・ディライト(ロクム)、ハマム、悪名高い渋滞、そしてもちろん街中の猫については知っていました。しかし、不安はあっても、先入観を持たずにできるだけ多くの直接的な経験を吸収しようと、オープンな心で行くことを決めていました。それは、認識と現実のギャップを埋めるための完璧な出発点でした。
橋本: トルコ料理といえば、日本の街中でも気軽に買えるケバブが有名ですが、その他のトルコ料理にはあまりなじみがありませんでした。ですが、幼いころに初めてトルコアイスを買った時のあの衝撃は今でも忘れられず、そのイメージから勝手に陽気な人が多い国というイメージがありました。今回、トルコの文化交流イベントに日本の太鼓奏者を派遣する機会に現地サポートを行うため出張いたしました。今まで中東地域に行ったことがなく、また現在の世界情勢からも出発前は不安なことも多かったです。
エスノスポーツ文化フェスティバル:日本の太鼓をイスタンブールへ
ゲオ・橋本: 今回の出張の中心であり、私たちの最も重要なミッションは、日本太鼓財団と連携し、日本の伝統的な和太鼓の演奏を実現させることでした。世界エスノスポーツ連盟が主催する世界エスノスポーツ文化フェスティバルは、2026年5月21日から24日にかけて開催されました。「世界はここにある(The World is Here)」というフェスティバルのテーマのもと、35カ国の代表者が集い、各国の美しい民族音楽、芸術、スポーツを披露するこの異文化交流の場に、日本の演奏者が招待されたことは大変光栄なことでした。
今回の出張を通じて西アジアの現地を肌で感じたいという思いもありましたが、私たちの本来の業務上の使命は、トルコの観客の皆さまに日本文化への理解を深めていただき、良好な関係を築くことにありました。太鼓の演奏に対する観客の反応を目の当たりにし、芸術や音楽を通じて、人々は言葉の壁を超え、瞬時に理解し合い、つながることができることを改めて実感しました。
ゲオ・橋本:このミッションを前に、イスタンブール空港を一歩出た瞬間、私たちが最初に直面した現実は交通渋滞でした。ホテルからイベント会場や打ち合わせ先への移動では、車の運転が非常に荒く、日本の整然とした交通環境との違いを強く感じました。
橋本:市街はトラム(路面電車)が走っていることもあり車は渋滞しているのですが、高速に入ると交通量が減るのでいきなりスピードがあがり、アシストグリップにつかまっていないと体がもっていかれるほどでした。
ゲオ: タイなど東南アジア諸国での運転の荒さを経験していたため、ある程度は覚悟していましたが、それ以上の激しさでした。乗り物酔いしやすい方はご注意を!
トルコ、タイ、フィリピンの交通状況
ゲオ・橋本: しかし、そうした荒い運転とは裏腹に、トルコの人々は驚くほど親切で、すぐにその温かさに感銘を受けました。
橋本:エスノスポーツ連盟の現場サポートメンバーは、ステージのタイムスケジュール管理などで多忙な中でも、私たちの要望に丁寧に耳を傾け、できる限り対応してくださいました。また、どんな場面でも笑顔で接してくださったおかげで、安心してパフォーマンスの調整をお任せすることができました。
ゲオ:行く先々で温かい歓迎を受け、長距離移動の前に飲み物を差し出してくれた運転手さん(一度だけでなく4回も!)や、通りすがりの人、そして私の名前を覚えてくれたホテルのスタッフまでいました。 ホテルのスタッフは、すれ違うたびに明るく「ラティゴーン」と挨拶してくれました。
橋本:ゲオさんがアンカラへ一時出張中も、「ラティゴーンはどこにいる?」と気にかけていました。すぐに打ち解けて話しかけてくれる、とても人懐っこい方が多い国だと感じます。
ゲオ・橋本: どの国でもそうですが、初めての旅行者にとって公共交通機関の利用は難しいものです。複雑な日本の鉄道システムを何年も生き抜いてきた経験があるにもかかわらず、イスタンブールで初めてトラムに乗ろうとした際、待ち合わせ場所への道に迷ってしまいました。慣れるまでには時間と試行錯誤が必要です。それでも、言葉が通じない場面で、私たちはためらわずに周囲に助けを求めました。すると、地元の人たちは、Google翻訳や身振り手振りを使って熱心にコミュニケーションをとってくれました。トルコの人たちは見知らぬ人を助けることを全くいとわないのだとすぐに学びました。たとえ少々間違った情報であっても、彼らの純粋な親切心と助けようとする熱意には深く感謝しました。
街から見たボスポラス海峡
ゲオ:大都市の慌ただしい日常の中でも、イスタンブールには深い静寂の瞬間もあります。荘厳で歴史的なモスク、行き交う船、そして輝く海という素晴らしい背景を眺めながら、ただ座っていることができる絵のようなスポットが数え切れないほどあります。詰まった仕事のスケジュールの合間に、ただ水面を眺めるこうした静かな時間は、心を落ち着かせ、この地域の美しさを味わうためにまさに必要なものでした。
橋本: トルコの街並みは、高い建物がなく、色合いも全体的に統一されており、非常にきれいに整備されています。出張中、ルーフトップのカフェに立ち寄りましたが、海・空・建物の青色がとても美しかったです。礼拝の時間と重なったこともあり、アザーン(礼拝を呼び掛ける高唱)が流れ異国情緒にあふれる素敵な時間を過ごしました。
スルタンアフメト・モスク
ゲオ: 今回の出張では、イスタンブールとアンカラの両方を訪れる機会がありましたが、この2つの都市は対照的であり驚きました。最大の都市であるイスタンブールは、渋滞や人混みが絶えず、都市計画や建物、史跡がすべてぎっしりと詰まっています。
アンカラにある大学周辺の様子
一方で、首都アンカラは、より落ち着いて整理された雰囲気があり、空間が広く、渋滞も目立って少なかったです。物価もイスタンブールに比べるとわずかに安く、例えばカフェであれば朝食を500円で楽しむことができました。アンカラでの滞在はわずか2日間で、立て続けに会議が入っていましたが、現地のステークホルダーとの議論を通じて、トルコの現在の社会的課題やトルコ国内のシリア人が直面する課題について学べたことは本当に有意義でした。こうした集中的な議論は、笹川平和財団が将来どのように貢献ができるかを検討するうえで極めて重要でした。また、ソーシャル・イノベーションや社会起業を推進するために設けられた大学内の施設を見学しました。 アカデミックな打ち合わせ終了後、一人で街を歩き、地元の人々を観察する時間がありました。この街のリズムは、私の生活のペースに完璧にフィットしていると感じました。
トルココーヒーとターキッシュデライト
ゲオ: おそらく最も記憶に残るトルコの印象は、Misafirperverlik 「ミサフィルペルヴェルリク」(日本語では「おもてなし」、タイ語では「ナムジャイ」)の深さです。ローカルステークホルダーとの会議の中で、チャイ(紅茶)とトルココーヒーが絶え間なく運ばれてきました。結局、一日に4杯ほど飲むことになり、それは通常のカフェイン摂取量を確実に超えていました!お茶やコーヒーを出すことは、主催者がゲストを歓迎するための心のこもった方法であり、そして関係構築と信頼醸成のための重要な基盤となることが分かりました。
タイ政府との打ち合わせで提供されるタイのデザート、マレーシア政府との打ち合わせで提供される食事
それは祖国タイを思い出させました。タイでも公式な会議であっても、常にたくさんのお菓子とお茶が提供されます。また、マレーシアへの出張も思い出しました。午前中の会議で、ホテルの朝食を食べたばかりにもかかわらず、フライドチキンとご飯、サンドイッチ、デザート、ミルクティー、ホットコーヒーという豪華な食事が振る舞われたことがありました!
アンカラからイスタンブールに戻り、タクシーでホテルへ向かう道中、ガソリンスタンドに立ち寄った際に運転手さんがGoogle翻訳を使って、チャイを飲みたいか(またしても!)と親切に聞いてくれました。丁寧にお断りしたのですが、彼はボトル入りの水と美味しいレモネードを持って車に戻ってきました。周りの人のために美味しい食べ物を買うことは私にとっての愛情表現なので、見ず知らずの人からのこの寛大さには信じられないほど感動しました。トルコ人の親切さは、間違いなく私の中の基準を引き上げました。
西アジアであれ東南アジアであれ、おもてなしには1つの普遍的なルールがあることが分かりました。「ゲストのお腹を絶対に空かせたままにしてはならない」ということです。
驚きの瞬間 ②:最後は何とかなる、気持ちの余裕から学んだ日常への考え方
橋本:仕事を通して、相手が漠然と思い描いていることを察して、それに合わせて行動することは多々あります。それは時には合理性というよりも、誠実さや計画性の証明でもあったのだと思います。一方、トルコの方々と働く中で見えてきたのは、一人ひとりが最善を尽くし、臨機応変に目標めがけて前進する姿勢です。当初はその対応の違いに不安を感じたのも事実ですが、最終的にはこちらの意向をすべて形にしてくれました。彼らは人と話すことが大好きで、道端で仲間とコーヒーを楽しむ姿を頻繁に目にしました。周囲の目を気にするよりも自分と仲間のために時間を使うその姿は、日常の小さな幸せを見つける天才のようにも思えました。当たり前の環境に身を置いていると見落としがちな幸せは、実はたくさんあるはずです。私も改めて、そうしたささやかな喜びに目を向けてみたいと感じました。
ゲオ:もう1つの印象的な出来事は、現地の関係者との会議中に起こりました。初めて会ったにもかかわらず、彼女は「私たちはもう友達だから、助けが必要なときはいつでも連絡してね」と温かく言ってくれました。これは、すぐに「友達」として受け入れ、「友達の友達も私の友達」という考え方が一般的なタイの文化と深く共鳴しました。トルコでは、偽りがなく温かい人間関係を築くことが、あらゆるビジネスパートナーシップを成功させるための絶対的な前提条件であることを学びました。 これは日本の文化とは対照をなしています。日本では通常、知り合いが本当の「友達」になるには、長い時間と共通の経験が必要です。
さらに、トルコ、タイ、日本の三カ国を一つに結びつける美しい文化的共通点は、お茶の文化です。これらのどの場所においても、お茶は単なる飲み物ではありません。むしろ、それはおもてなしの深い象徴であり、ゲストを歓迎するジェスチャーであり、座って会話をし、真に互いにつながるための特別な時間なのです。
トルコのチャイ、日本の抹茶、タイのレモングラスティー
お茶といえば、特に伝統的なデザートを欠かすことはできません。ターキッシュ・ディライト(ロクム)やバクラヴァのようなトルコのスイーツを初めて一口食べたとき、その甘さは驚くほどで、東京で慣れ親しんだ日本の「甘すぎない」繊細な風味とは対照的でした。しかし、この強烈な甘さにはすぐに親しみを覚えました。タイの伝統的なデザートも甘さで知られており、私の味覚はあっという間に馴染みました。最終的には、日本へのお土産としてトルコのお菓子を何箱も買い込むほど、すっかり気に入ってしまいました。
橋本: 近年、日本を訪れるインバウンド観光客の増加に伴い、日本の「おもてなし」が注目を集めています。しかし、今回の約1週間にわたる滞在を通じて、トルコの皆さまからも心温まる数々のおもてなしを受けました。移動を支えてくださった車両の運転手さんから振る舞われたチャイ、公演前に太鼓の運搬を丁寧に手伝ってくださった方々、円滑な運営のために奔走してくださった通訳の方、そしてデザートをサービスしてくれたレストランのウェイター。随所で触れた現地の方々の細やかな気遣いと親切な対応は、深く心に残るものとなりました。
ゲオ: 全く新しい文化や環境に適応するには、確かに時間がかかります。コンフォートゾーンから抜け出す旅の始まりは怖いかもしれません。しかし、真っ白なキャンバスのようにオープンな心でいることが不可欠であると学びました。そうすることで、私がトルコでの1週間で経験したように、新しいリズムでの生活を少しずつ楽しむことができるようになります。この出張は、私にとってこの地域について学ぶための最後ではなく、むしろ、人々、社会、文化などについてのより良い理解へと導いてくれる開かれた扉です。深まった知識を活かして、日本、西アジア、東南アジアをつなぐコネクターとしてさらに貢献し、国境を越えた意義のある協力や持続可能な発展につなげていきたいと願っています。次に西アジアを訪れる機会を楽しみにしています。
橋本:当グループの発足後、初となる海外出張の地としてトルコを訪れましたが、現地の皆さまの多大なるご支援のおかげで、全行程を成功裏に終えることができました。今回のイベントでは、最大規模のステージで和太鼓の演奏を披露しました。来場者の熱気からは、日本の伝統文化に対する関心の高さが強く伝わってきました。特に印象深かったのは、演奏の最中に現地のDJが即興で合いの手を加えてきた一幕です。伝統芸能を既存の枠にとらわれず、その場の感性で融合させる柔軟な表現は、まさに常識を覆される体験でした。私たちのグループは、日本と西アジアの架け橋として互恵的な関係構築を推進しています。トルコで得た知見とネットワークを基盤に、両地域の相互理解をより一層深めていきたいと考えています。