2025年以降の世界の紛争、国際危機グループ 理事長コンフォート・エロ氏
世界が直面しているグローバルな危機とは何か、そして日本にどのような影響を及ぼすのか。国際危機グループ理事長のコンフォート・エロ氏と笹川平和財団の西田一平太上席研究員がこのテーマについて掘り下げ、ヨーロッパと中東で進行中の紛争、米中対立の激化、そしてトランプ2.0、グローバル・サウスへの影響などについて語り合いました。
日本にとって最大の懸念は、トランプ政権の場合、政策の変更が突然行われることです。日本は何が起こるかを予想できません。両国の高官が特定の協議事項について交渉をしても、トランプ大統領が新しい協議事項を持ち出す可能性は常にあります。これは以前では想定されないことです。安倍首相はトランプ大統領と頻繁に面会をしていますが、それでも、次の2、3か月のうちに大統領からどのような要求が出されるかを知るのは難しいと思います。幸い、日米関係は制度的に強固なため、そのことが両国間の関係悪化を招くことはありません。現在、日本政府は忍耐強く、トランプ大統領との関係深化を図る必要があります。
アビゲイル・グレイス 氏: トランプ大統領の言動について米国から日々発信される大量の報道を選別することは難しい場合があります。しかし、政策決定の中身をもう少し詳しく見てみると、表面の言葉づかいよりも、もう少し深い意味合いがあります。多くの人が日々最善を尽くしながらも、創造的な政策上の解決策を探し続けています。7月に開催されたインド太平洋ビジネスフォーラムでの発表の多くは、正しい方向に進むための非常に有効なステップとなるものでした。ペンス副大統領は11月に予定されている各国歴訪にまもなく出発しますが、すばらしい成果があることを願っています。しかし、全体として、米国からの政治的雑音に対抗するには、それで十分とは言えない可能性があります。
古賀慶 氏: 日本は中国とより友好的な関係をもつことを望んでいると思います。両国は、経済、開発、安全保障問題について話し合いたいと考えていますから。安倍首相と中国の李克強首相は、5月に日中首脳会談を行ったときに、民間部門と公共部門の両方が参加し、第三国での開発協力について話し合えるフォーラムを設立することを約束しました。中国はそれまですべての開発プロジェクトを中国だけで実行したがっていたため、これは良い兆候でした。しかし、現在中国は、日本のような他の国と協力ができる領域を探し始めています。
米中関係は最近悪化しているため、中国は日本を含めて他の国家にアプローチをするというヘッジ政策を実施し始めています。日本が米国とのみ同調し、強硬姿勢を取る場合、中国は日米両国に立ち向かわざるを得ません。同時に、現在の米国政権のために、米国がどの程度日本の経済安全保障にコミットできるかについて、日本は確証をもてずにいます。というのも、米国は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)から撤退し、現在は2国間貿易交渉に舞い戻っているからです。政治的リスクを緩和するため、日本は中国と協力することも望んでいます。したがって、短期の戦術的政策としては戦略の変化のようなものはあります。
アビゲイル・グレイス 氏: 各国が中国と良好な関係をもつことは何も悪いことではありません。安倍首相は習近平国家主席に良い影響を与える存在になる可能性があります。また、日米間の共通の目的や共有されているテーマについて、何らかの成果を出せる立場にたつこともできるかもしれません。ただし、これをあまり対立的ではない形で実現するには、米国ではなく日本がそれらの懸念事項を俎上に載せる必要があります。米国は、他国が米中のどちらかを選択しなければならない状況になることを望んでいるとは思いません。今後数年は、国がいずれかの大国に与しなければならない、ある種のブロック的な枠組みにインド太平洋地域が陥らないようにすることが、米国にとっての課題になるでしょう。そのモデルは誰の利益にもなりませんし、私は実際にそれが現実の物になりそうだとも思いません。
古賀慶 氏: 南シナ海が重要であることに変わりはなく、米中間の競争は緊張を増しています。これは、中国艦船が米国艦船を追尾し、衝突しそうなほどに異常接近した最近の事件としても現れています。これは本当にプロフェッショナルでない行為であり、事故が起きていたら、緊張は一気に高まったでしょう。
このコンテクストでの東南アジア諸国の通例の反応は、もちろん南シナ海について関心はあるが、それ以外にも抱えている問題はある、というものです。開発プロジェクト、経済協力、海外直接投資など、協力し合える領域は他にもあります。その意味で、東南アジアは南シナ海の問題をその他の問題から切り離そうとしています。しかし、それは南シナ海の緊張を緩和するわけではないため、ASEANがこの問題の主要な当事者として現状を維持するためのアイデアを出す必要があります。
また、南シナ海以外に中国軍の影響が拡大する可能性についても、注意深く観察する必要があります。スリランカのケースでは、ハンバントタ港は中国に99年間貸与されることになりました。このため、中国の潜水艦や海軍艦が定期的に寄港する可能性が高まっています。現時点では、スリランカは東南アジアにそれほど近くないため、その状況は東南アジア諸国にとって大きな懸念材料にはなっていません。しかし、同様のケースが東南アジアの国で起きた場合は、東南アジアだけでなく、東アジア全体で大きな問題になるでしょう。それが起きないようにするには、地域諸国がハンバントタの動向を注意深く見守る必要があります。
アビゲイル・グレイス 氏: 中国は明らかに、よりグローバルな海軍をもつための整備を進めています。中国の人工島埋立戦略によって、中国人民解放軍海軍(PLAN)は南シナ海に空母を停泊する必要がなくなります。なぜなら、これらの人工島を基盤にすべての戦略的資産を構築できるためです。それにより、さらに多くの艦船を造船し、西太平洋の第二列島線を超えて、アフリカの東海岸にさらに近い海域まで操行することができます。中国の商業的関心が高まり、国有企業と海外居住の国民が増えるにつれて、PLANに対しては、中国の海上交通路を確保できるようにするという新たなプレッシャーがかけられています。
海軍に関してのわれわれの提言のひとつは、米国がインド洋地域に攻撃と防御の両方の軍事態勢をとることです。これには、米国がホスト国と協力して、中国が商用港を確保しようとする可能性がある場所に戦略的に影響を及ぼし、それらの場所が軍事上のアドバンテージにならないようにすると同時に、同盟国や友好国と協力して、共同で開設できる新たな基地となりうる場所を特定することが含まれます。
中国には米国のアクションは中国がしてきた意思決定に直接反応したものであることを伝えられる限り、これは常に有用な戦略であることがわかっています。中国がそれを歓迎するというわけでも、実際に行動を改めるわけでもありません。長期的には、米ソ間の戦略兵器制限交渉(SALT)のような話し合いをもてる可能性がありますが、現時点では、何もせずに静観し、前哨基地の拡大とさらなる軍隊化を甘んじて受け入れるのは、必ずしも米国の国益に沿うものではありません。