ホワイトハウスによる声明は、下記のリンク先でご確認いただけます。
https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2022/06/24/statement-by-australia-japan-new-zealand-the-united-kingdom-and-the-united-states-on-the-establishment-of-the-partners-in-the-blue-pacific-pbp/
先日の記事「
米国、太平洋の「支配からの自由」を守るための新計画を約束(2022年6月17日、ワシントン、THE GUARDIAN/PACNEWS)」のコメントでは、フランスの参加を想定していましたが、実際にはフランスはEUと共にオブザーバーとして参加したようです。EUは太平洋諸島フォーラム(PIF)事務局との間にはACP(African, Caribbean, and Pacific Group of States)に基づく関係性があり、概ね5年毎にEDF(EU Development Fund)による地域機関を通じた支援を行っているほか、環境分野などで各島嶼国への支援を続けています。一方で、フランスは日米豪NZほどの地域全体に対する協力は実施していません。そのような背景から、現時点ではPBP5カ国とはスタンスが異なると考えられます。
さて、中国の影響力拡大については、その手法が途上国間協力である南南協力やいわゆる中国民間の経済活動によるものであっても、先進国側は伝統的安全保障の文脈で対応を行おうとすることが少なくありませんでした。しかし、実際に現地で起こっている中国に関する事象は、20年以上にわたり多様な分野で多岐にわたる手法で進んでいます。すでに経済関係や先進国とは異なる開発協力を行う中国を友人としている太平洋島嶼国もあり、単純に中国の行動に対して法的根拠もなく敵対するような言動や行動を行うことは、かえって太平洋島嶼国側から反発を受ける状況にあります。
このような背景の下、先進国側は、近年(特に2017年頃から)、反腐敗、グッドガバナンス、質の高いインフラなどを踏まえたルールに基づく秩序(rules-based order)を掲げ、太平洋島嶼国に関与してきました。日本の場合は、自由で開かれたインド太平洋構想がこれにあたります。一方で、地域情勢を単純化させず、例えば、伝統的安全保障、開発協力(非伝統的安全保障含む)、経済に分け、さらに二国間関係を充実させながら地域機関とも良い関係を作る緻密さが求められる状況にあります。
伝統的安全保障については、ファイブアイズ、クアッド、ANZUS条約、AUKUS、米国自由連合盟約などがあり、経済に関してはインド太平洋経済枠組み(IPEF)、PICTA(太平洋島嶼国間の自由貿易協定)、PACER Plus(太平洋島嶼国・豪NZによる経済関係緊密化協定)などがあります。そして今回、開発協力(非伝統的安全保障含む)を中心としたものとして、PBPが構築されたと見ることができます。
PBPは「1, 太平洋のためにより効果的かつ効率的に結果を提供する。」「2.太平洋地域主義を強化する。」「太平洋と世界の間の協力の機会を拡大する。」の3点を目指しており、筆者としては次の特徴に注目しています。
(1) インフォーマル(非公式)の枠組みであること
非公式であるため柔軟性と実行のスピードが担保され、関係国間で様々なレベルで率直な意見交換や協力調整が進むことになります。参加国各国の政策が制約を受けることもなく、太平洋島嶼国側が主張する「議論よりも実行」に対応していると考えられます。
(2) 太平洋島嶼国の意向を尊重する枠組みであること
これは太平洋島嶼国が主権国家として2010年代から主張してきた考え方(2014 Framework for Pacific Regionalism, 2017 Blue Pacific Identity, そして2050 Strategyに繋がるもの)を尊重するものであり、かつて見られたような、旧宗主国や先進国が決定し、太平洋島嶼国に上から落とし、あるいは意向を押し付け、事後承諾させるという考え方とは異なります。PBP諸国は、何らかのプロジェクトや太平洋島嶼地域に関する政策などを検討する際、公式、非公式を含め、さまざまな検討段階で太平洋島嶼国側を巻き込むものことが期待されます。
(3)マッピングにより各国の開発協力活動を可視化し整理すること
5か国の活動の重複を避けギャップを埋めるなど、効果向上と効率化が期待されます。上記(2)を実現するには太平洋島嶼国側の人的キャパシティが問われますが、これにより事務作業などの負担軽減が図られることになります。
(4) PIFへの関与強化
加盟国首脳の対話プラットフォームであるPIFの枠組みと近年のPIF事務局の行動にはズレがあったと筆者はみています。本来PIF事務局は、加盟国の閣僚級会議、各CROP機関の活動などを積み上げた上で毎年開催されてきたPIF首脳会議(サミット)の合意事項(宣言を含むコミュニケ)を実現するために活動する役割を担いますが、PIF事務局あるいは同事務局職員が首脳の決定の前に行動するなど、加盟国の意思を反映していない事例が見受けられます。PBP諸国は、豪、NZがPIF加盟国であり、日米英は域外対話国であるなどPIFの枠組みでは立場が異なりますが、5カ国が関与するということで、PIF事務局はPIF協定に基づく本来の役割に立ち返ることが期待されます。
※PIFの合意事項の例:
①第23回PIFサミット(当時はSPF)コミュニケ(1992年、ソロモン諸島ホニアラ)パラグラフ54
“RELATIONS WITH TAIWAN/REPUBLIC OF CHINA
54. The Forum agreed that the importance of Taiwan/Republic of China as an economic presence in the region justified some form of formal consultative arrangement with those Forum countries which wish to participate. Forum countries proposed to institute, therefore, a "Taiwan/Republic of China-Forum Countries Dialogue". This will take place at the same venue as the Forum, but be separate from the existing post-Forum Dialogue. Participating countries would do so in their own right and would not represent the Forum as a whole."
(仮訳)
「台湾・中華民国との関係
54. フォーラムは、この地域における経済的存在としての台湾/中華民国の重要性は、参加を希望するフォーラム諸国との何らかの正式な協議の取り決めを正当化するものであることに合意した。そのため、フォーラム諸国は、「台湾/中華民国・フォーラム諸国対話」の開催を提案した。これはフォーラムと同じ会場で行われるが、既存の域外国対話から分離される。参加国はそれぞれの立場で参加し、フォーラム全体を代表するものではない。」
②第30回PIFサミット(当時はSPF)コミュニケ(1999年、パラオ共和国コロール)パラグラフ54
" Taiwan/Republic of China - Forum Countries Dialogue
54. The Leaders discussed the matter of the treatment of the "Taiwan/Republic of China - Forum Countries Dialogue" by the Forum. After discussing the respective countries' policies on the matter, the Meeting agreed to reaffirm the protocol arrangements agreed to by the 1992 Forum, reiterating the need to ensure a proper venue."
(仮訳)
「台湾/中華民国・フォーラム諸国対話
54. 首脳は、フォーラムによる「台湾/中華民国-フォーラム諸国対話」の扱いに関する問題について議論した。この件に関する各国の政策について議論した後、1992年のフォーラムで合意された取り決め事項を再確認することに合意し、適切な会場を確保する必要性をあらためて指摘した。」
(5) 二国間関係と地域関係を重視
太平洋島嶼国は小国が多く各国に大使館を設置できていないことから、開発パートナーには、PIF事務局との関係を深めることで全ての太平洋島嶼国との関係を構築する考えありました。しかし、PIF事務局は各国の外交当局を代表するものではありません。また開発協力にPIF事務局が介することで、支援を受ける太平洋島嶼諸国に届くまでに(正当なものであるが)事務管理費が20%前後差し引かれたり、援助国と太平洋島嶼国間のプロセスにPIF事務局が介入し、遅延を招くなど、太平洋島嶼国側から不満が示されることもありました。
PBPでは、二国間関係は二国間関係として強化していきます。日米豪NZ英は、過去10年で太平洋島嶼地域における大使館の増設を進めており、PIF事務局を頼らずとも各国との対話を促進することができます。そのため、PIF事務局を通じた太平洋島嶼国との関係強化ではなく、二国間関係の積み上げによるPIFという枠組みとの関わり強化が期待されます。
(6) 太平洋諸島とのパートナーシップに取り組む同様のパートナーとの協力に対してオープンであること
PBP5カ国が取り組む中で、対象国により同じ価値観を有する他の開発パートナーとの協力も想定しています。国際場裏においても、さまざまなアプローチが期待されます。
PBPの実効性を確保するためには、今後、PBP5カ国本国だけでなく、在外公館を含む太平洋島嶼国各国におけるさまざまなレベルの活動が重要になり、個々の担当者の活躍が期待されます。また、7月にフィジーで開催されるPIFサミット、9月に米国で開催される予定のPICL(Pacific Islands Conference of Leaders)を経て、この枠組みがどのように発展していくのか注目されます。