PIFサーガのアップデート記事になります。
関連記事はこちら。
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「マーシャル諸島正式にPIF脱退手続き開始、パラオ、ミクロネシア連邦と足並み揃う (2021年2月22日、MARIANAS VARIETY/PACNEWS)」
2.
「2005年のPIF設立協定、フィジーは未批准 (2021年2月24日、FIJI TIMES/PACNEWS)」
5月中旬、クック諸島前首相のプナ氏が、PIF新事務局長に正式に就任しました。任期は3年となります。PIFの枠組みとしては、紳士協定破りがあったとしても正式なプロセスで選出されたため、これを覆すことは現実的には困難です。設立協定に罷免条項があるか確認していませんが、正式に選ばれた事務局長を解任するには相当な理由が必要となります。もしくは、事務局長自身が何らかの理由で辞任するケースが考えられますが、プナ氏はクック首相再任の道を閉ざした上でPIF事務局長選に立候補した経緯もあり、自らの意思で辞任するということは考えられません。
今回の記事を読むと、結局のところプナ新事務局長はミクロネシア諸国、特にパラオについて理解していないということが読み取れます。パラオは米国自由連合国で親台湾、クック諸島はニュージーランド自由連合国で親中国という違いがあり、筆者の個人的な印象ではパラオはより意思が明確で自立意識が強いといえます。
その観点から言えば、対話(タラノア)による懐柔策というのは、パラオ側から見れば、それこそがパラオおよびミクロネシア諸国の意思を軽視しているものであり、ポイントは対話ではなく、事務局長が辞任し、紳士協定に則りミクロネシア諸国から事務局長を選びなおすことだ、ということでしょう。
PIFの枠組みが作られた1971年から2000年代までは、小さな島嶼国が旧宗主国と交渉したり、国際社会に島嶼国の声を伝えるために、豪州・ニュージーランドという先進国を含むPIFという枠組みで結束することが効果的でした。
パラオがPIFに加盟したのは独立後の1995年ですが、PIFは先に独立した英連邦諸国の枠組みとなっており、パラオは費用対効果も含めPIFとの距離感を図ってきたように思われます。また、PIF加盟国はP事務局運営予算を分担することとなっており、2018年のPIF総会では、豪・NZが49%、太平洋島嶼国14か国・2仏領で51%負担とし、うち2仏領は10%以上負担することとされました。パラオなどのより小さな国の場合は1~2%となっており、数千万円単位ですが、一般会計が60億円程度のパラオにとっては少ない額ではありません。
太平洋島嶼地域には、太平洋地域機関評議会(CROP)機関として、PIF(地域政策:経済・安全保障等)、FFA(漁業)、PASO(航空安全)、PIDP(米国主導の開発プログラム、人材育成)、PPA(電力)、SPC(科学技術)、SPREP(環境)、SPTO(観光)、USP(南太平洋大学:高等教育)がありますが、パラオはPASO、SPTO、USPのメンバーではありません。
PAS0については、米国のFAA(連邦航空局)があるためパラオを含む米国自由連合国は加盟しておらず、SPTOについては2005年頃のパプアニューギニアなど南側諸国による台湾排除・中国正式加盟の影響があるのか、自らマーケティングが可能ということからか、パラオは加盟していません。USPについては、英連邦系の高等教育システムであることから、米国自由連合国であるパラオとミクロネシア連邦は加盟していませんが、マーシャル諸島は初代大統領が英連邦系の教育も人材育成に重要として加盟しています。
毎年開催されてきたPIFサミットへのパラオの出席状況を見ても興味深い傾向が読み取れます。PIFに加盟した1995年から2003年までは毎年大統領が出席していましたが、2004、05、07、08、09、12、13、16~19の4年間は、副大統領や外務大臣、法務大臣がパラオ代表として格を下げて参加してきました。2014年はパラオが開催国となりましたが、PIF事務局との効率的ではなく形式的なやり取りにパラオ政府側に不満がありました。(※2005年のPNGが開催したPIFサミットの際、SPTOへの中国の正式加盟が認められ、台湾が排除された。2010年にはパラオは台湾をPIF対話パートナーに含めるよう首脳に要請した。)
地域機関に加盟するということは、加盟料支払いや会合への参加などの義務があり、事務負担も増えることから、その効果をより精査しなければならない状況にあります。また、パラオは旧宗主国である米国とも関係が良く、地域機関に頼らずとも国際社会と良い関係を有しており、PIFの枠組みにこだわる必要はありません。今後も、特にパラオに関しては、各地域機関の効果を見ながら是々非々の距離感をもっていくことが考えられます。