2005年のPIF設立協定、フィジーは未批准

(2021年2月24日、FIJI TIMES/PACNEWS)

【抄訳

フィジーは、2005年の太平洋諸島フォーラム(PIF)設立協定を批准していない唯一の加盟国である。フィジーのエサラ・ナヤシ外務副次官によると、PIFに加盟する18の国と地域のうち17が、設立協定に署名し批准しているため、フィジーが批准することで、同協定が効力を持つという。
 
ナヤシ外務副次官は、設立協定は地域の連帯と団結を促すものだとした上で、フィジーのPIFへのコミットメントと信頼を示し、「2005年の(設立)協定を批准することで、フォーラムのメンバーである他の太平洋島嶼国との協力関係が強化、促進されるだろう」としている。さらに同副次官は、フィジーが今年のPIF首脳会議の開催国であり、PIF議長も務めるため、同協定を批准することが不可欠であると述べた。
 
一方で、協定を批准するための議会承認は非常に重要であると、学者で元事務次官のジョジ・コトンバラブ氏は言う。また、設立協定の批准は、他の加盟国・地域に対して、フィジーがPIFへの加盟と、そこから生じる全ての責任及び義務を受諾する意思を表明する意味合いを持つと説明した。
 
「フィジーは、PIF事務局の設置国であり、さまざまな種類、レベルのPIF会議をたびたび主催しているため、この手続きは特に重要である」
 
コトンバラブ氏は、設立協定をフィジーの制定法に組み入れることで、PIFへの強いコミットメントを示せるとしており、「たとえば、外交特権や免責法が適用されるフィジーのPIF事務局やその駐在員の特権及び免責をめぐって、争いが発生した場合などに備え、2005年のPIF設立協定をフィジーの制定法に組み込むことは重要だ」と述べた。
 
同氏は、議会が同協定を正式に批准することを強く勧めている。
 
(訳:立入瞳)
 
 
【解説】
太平洋諸島フォーラム(PIF)の背景等については下記をご覧ください。
https://www.spf.org/pacific-islands/breaking_news/20210222-1.html
 
PIFには法的根拠となる2つの協定(2000年のPIF事務局設立協定と2005年のPIF設立協定)がありますが、今回の報道により、後者については未批准国(この場合はフィジー)があることから効力が発生していないことが分かってきました。
 
フィジーが2005年協定に批准していない背景には、当時のフィジー内政と2006年無血クーデター後の豪州・NZを中心としたPIFとの関係があるとみられます。さらに、フィジーが進めてきた多文化・多民族国家への改革とPIFの改革という2つの改革の存在が見えてきます。
 
今回のコメントのポイントは次の3点となります(PIFにおける国際情勢を背景とした地域統合の動きとその変化およびフィジーの選挙約束をめぐる話の詳細については、紙幅の都合から割愛します)。
 
1. 2005年協定はフィジー未批准により未発効、PIFの法的根拠は2000年協定
2. 2005年以降のフィジー内政およびフィジーとPIFの関係
3. フィジーの戦略性

まず、2つの協定について。

 (1) Agreement Establishing Pacific Islands Forum Secretariat(2000年10月30日署名)
これはミクロネシア連邦、マーシャル、パラオがそれぞれ米国自由連合国として独立し、加盟したことを受け、1991年の「Agreement Establishing South Pacific Forum Secretariat」を更新したものです。「Secretariat=事務局」が表題にあることが少々混乱を招きますが、本協定は事務局の設立を中心としつつ、Forumの位置づけについても規定しています。ポイントは以下のとおり。
 
・優先課題は地域における貿易と経済開発。
・経済・政治・安全保障に関する国際機関や地域機関との効果的な調整を重視。
・フォーラムは創設国7か国と後に加盟した9カ国の首脳からなる。新たな加盟は16加盟国首脳の承認により認められる。
・フォーラムの目的は経済開発、貿易、運輸、観光、エネルギー、通信、法、政治、安全保障、その他の事項における、加盟国間の協力と協議の維持。
・フォーラムの名称を、South Pacific ForumからPacific Islands Forumに改称
・PIF事務局はスバに設置され、PIF事務局機能を有する。
・加盟国の外務省がPIF事務局との窓口。
・運営費は加盟国が分担。豪州、NZがそれぞれ37.16%、他の加盟国は1~3%(※詳細省く)。
 
特に第12条では、次の点が規定されています。
2. 本協定における権利と義務は、各加盟国政府が責務を有する国際関係に及ぶものではない。
3. フィジーが本協定の原本を保管する寄託国。フィジーが協定の写しを国連事務総長と加盟国に伝達する。
8. 加盟国が脱退する際には、当該国政府から寄託国(フィジー)に対し通告する(※国と国の関係なので口上書(外交書簡)の形となる)。フィジー政府への通達接到から1年後に効力が発生する(※すなわち1年後に正式脱退となる)

本年2月、パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島がそれぞれ口上書によりフィジー政府に脱退の意思を通達したのは、この第12条8.によります。
 
(2) Agreement Establishing Pacific Islands Forum(2005年10月27日署名)
本協定は2000年協定を更新するもので、PIF枠組みの国際機関としての根拠を作るものです。2000年から2005年の間には国際社会および地域社会では、米国同時多発テロ(2001.9)、イラク戦争勃発(2003.3)、ソロモン部族紛争に対する地域ミッション(RAMSI)の派遣開始(2003.6)、フィジーでのスペイトのクーデター(2000.5)後に発生したバイニマラマ軍司令官に対する反乱兵の暗殺未遂事件(2000.11)を含む内政不安定化などがありました。ポイントは以下のとおり。
 
・ガバナンスの質、持続的管理、民主主義的価値の完全な順守、人権の保護と推進を追求する。
・経済成長、持続可能な開発、グッドガバナンス、安全保障に対する目標を達成するために加盟国・域外パートナーと断固として協力・協働する。
・Pacific Planの発展と実践(※パシフィックプランとはPIFをプラットフォームとして地域の経済統合および政治統合を目指す計画)
・第1条
1. PIFを国際機関として設立する。
3. Territory(独立していない領土)は準加盟資格の対象となる。
4. 準加盟資格がないTerritoryや政府間機関は加盟国の招待によりオブザーバーの資格を得る。
・第3条
1. フォーラム首脳会議(※PIF総会、PIFサミット)が意思決定体。
・第11条
2. 本協定における権利と義務は、各加盟国政府が責務を有する国際関係に及ぶものではない。
3. 協定の原本をフィジー政府が保管、フィジー政府が写しを国連事務総長と加盟国政府に伝達する。
4. 本協定は、最後の批准国より寄託国のフィジーに批准書が届くことで発効する(※フィジー自身が最後の国で未批准)。
8. 脱退はフィジー政府に対して理由を付した書簡を提出、フィジー政府が同書簡の写しを加盟国政府に伝達、正式脱退には1年を要する。
・13条
本協定発効により、2000年協定は破棄され本協定に差し替えられる。
 
次に2005年から2019年までのフィジーとPIFの動きについて。

2012年から2015年の期間、筆者が外交官としてフィジーで調査したところ、一般に伝わっているとおり、2000年の民間人スペイトによるクーデターは多額の資金を要し、武器も調達され、非常に組織だてされたものであったことが分かりました。国内の文献にあるように、同氏が破産したことで自暴自棄になり、個人的理由で企てたものではなかったようです。背景には先住民系フィジー人の伝統的権威で特にエリート層の特権の確保が大きな要素としてあり、これが2006年の無血クーデターおよび現在まで続くフィジーの国家改革につながっていると筆者は考えます。

ここではフォーラムコミュニケや筆者の現地における当事者との直接的な協議をもとに、2005年以降のフィジーおよびPIFの動きを時系列で確認します。
 
2005.10  第36回PIFサミット(マダン、PNG)
地域統合を促進するPacific Plan合意、太平洋諸島フォーラム設立協定署名(フィジーはガラセ首相)。
2005.12 ガラセ首相とバイニマラマ軍司令官の対立が高まる
軍司令官が、1年の間に国の政策に改善が見られない場合、行動を起こすと警告。
2006.11 NZ政府が首相と軍司令官を仲介する会議をウェリントンで開くが破談
同時期に豪州特殊部隊を要する軍艦がフィジーの領海に侵入していたことが判明。
2006.12  バイニマラマ軍司令官による無血クーデター発生
ガラセ政権転覆、憲法停止。豪州、NZ、コモンウェルス事務局など民政復帰を求め制裁へ。
2007.1  PIF、地域の賢人グループをフィジーに派遣
2007.3  PIF外相会議開催
2007.10  第38回PIFサミット(ヌクアロファ、トンガ)
フィジー暫定政権がPIFの要請に応じ、2009.3までの総選挙実施と結果受入を表明。焦点はフィジーが約束を守れるか否かに移る。
2008.8  第39回PIFサミット(アロフィ、ニウエ)
フィジー暫定政権が欠席。事前にフィジーが2009.3の選挙実施が難しいと表明。PIFとしてフィジーへの民政復帰圧力強化へ、国際社会に協力を要請。
2009.1  PIF首脳特別リトリート(ポートモレスビー、PNG)、ポートモレスビー決定
PIFはビケタワ宣言に基づき結束し行動をとる。フィジーに対し、2009.12までの選挙実施と2009.5.1までに選挙実施について公式声明を出さない場合、全てのフォーラム会議および行事におけるフィジー暫定政府の首脳、閣僚、官僚の参加を停止する
2009.5.2  フィジーPIF加盟資格停止(2015年まで続く)
2009.8  第40回PIFサミット(ケアンズ、豪州)
ポートモレスビー決定を支持。豪州・NZ主導によるケアンズコンパクト(後のフォーラム・コンパクト)で、PIF事務局による開発パートナーが行う開発協力の調整・効率化機能の導入を図る。
2012.9  フィジー、2013年のG77+議長国に選出
外交関係の多角化、途上国間連携、国連との関係強化が明らかとなる。
2013.1  フィジー、G77+議長国就任
フィジー国内では税制改革を伴う内需拡大政策を導入し、以後の安定的な経済成長を実現する。また、フィジーは国連枠組みにおけるSDGsの検討に積極的に関与し、太平洋島嶼国の視点反映に尽力する。
2013.8  第1回太平洋諸島開発フォーラム(PIDF)会議(ナンディ、フィジー)、PIDF設立
PIFとは異なり、旧宗主国を含まない太平洋島嶼国・地域のみによる枠組み。豪州のオキーフ教授を中心として、国連オブザーバーステータスを得ることを含む組織の法的根拠となる設立憲章が作成が始まり2015年に完成、PIFの曖昧さとは一線を画す。住民からのボトムアップ、市民社会・NGOなどとの包摂性、反官僚主義、事務局は太平洋島嶼国主導のプラットフォームであり運営コストを極力抑えること、途上国間のネットワーク、国連との良好な関係が特徴。ブルー/グリーンエコノミー、持続可能な開発、気候変動、環境が主な対象分野となる。
2013.9  フィジー新憲法制定
2014.3  バイニマラマ暫定首相、軍司令官を退任
2014.6  第2回太平洋諸島開発フォーラム(PIDF)会議(ナンディ、フィジー)
2014.7  第45回PIFサミット(コロール、パラオ)
Pacific Planを、住民からのボトムアップ・包摂性を基盤としたFramework for Pacific Regionalismに発展させる。
2014.9  フィジー総選挙実施、民政復帰
以後、バイニマラマ首相は豪州、NZが加盟国ではなく開発パートナーの位置づけに変わらない限りPIFには戻らないと主張(2006年以降行われてきた豪州、NZの意向を反映したPIFによる内政干渉や直接的なフィジーへの制裁などに対するもの)。
2015.9  第3回太平洋諸島開発フォーラム(PIDF)会議(スバ、フィジー)
設立憲章発効、初代事務局長を任命。
2015.9  第46回PIFサミット(ポートモレスビー、PNG)、フィジーが外相レベルで復帰
2015.9  国連で「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development)採択(SDGs)
2016.9  第47回PIFサミット(ポンペイ、ミクロネシア連邦)
仏領ポリネシアとニューカレドニアの正式加盟(準加盟からの昇格)承認。2005年協定に暗示されている海外領土(Territory)は正式加盟できないという取り決めを破ることとなる。コミュニケには説明なし。技術的にはフランスがPIFに関与できることとなった。背景にPIF財政問題あり。
2017.9  第48回PIFサミット(アピア、サモア)
Framework for Pacific Regionalismの行動規範として、太平洋島嶼国の住民が海洋の管理者としての矜持を示すBlue Pacific Identityを発表。
2018.9  第49回PIFサミット(ヤレン、ナウル)
18年ぶりとなる地域安全保障宣言ボイ宣言に合意。さらに、太平洋島嶼国側がPIFのオーナーシップを確保するため、段階的に太平洋島嶼国および仏領のPIF事務局運営予算負担率を引き上げ、2021年に豪州・NZが49%、太平洋島嶼国・仏領の負担を計51%とすることに合意。2仏領が10%を負担。
2019.8  第50回PIFサミット(フナフチ、ツバル)
バイニマラマ首相が参加し、フィジーがPIFに完全復帰を果たす。
 
2005年以降、フィジーには多文化・多民族国家への改革と、PIF枠組みの太平洋島嶼国主導への改革という2つの狙いがあり、前者については2014年9月の総選挙を経て改革が進められてきました。

フィジーは戦略性と実行力のある国であり、今後の地域枠組みの観点からもその動向が注目されます。

 
(塩澤英之主任研究員)

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