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オーシャンニュースレター

第42号(2002.05.05発行)

第42号(2002.05.05 発行)

商業捕鯨は持続的利用ではない

特定非営利活動法人 グリーンピース・ジャパン

捕鯨再開派がいくら「乱獲はさせない」といっても、それは世界中で復活する捕鯨全体の厳密性を保証するものではなく、乱獲はまた起こり得る。商業的・工業生産的な捕鯨は持続的ではない。グリーンピースは捕鯨の商業再開に反対する。

グリーンピースは、1971年に、アメリカの核実験をくい止める活動をきっかけにして発足した。カナダのバンクーバーから、一隻の古い漁船をチャーターして実験海域に向かったグループが名乗った名前がグリーンピースである。実験海域には到達できなかったものの、この活動は広く報道され、結果的にその核実験場を閉鎖に追い込むことができた。その後各地にいくつもの「グリーンピース」が誕生し、1980年にはそれらを組織化し国際環境保護団体として活動するようになった。

船を使い、国境に関係なく影響を及ぼし合う環境問題への取り組みを旨とするグリーンピースがなぜ捕鯨問題に取り組むのか、これからお話しすることにする。

まず確認したいのは、グリーンピースにとってのクジラ問題は「海洋生態系の保護」が主眼であり、生態系の多様性を保護するために予防原則を取り入れた対応を各国に求める取り組みを行ってきているということだ。

捕鯨問題とグリーンピース

■南極海の国別捕獲比率とグリーンピースの歴史
南極海の国別捕獲比率とグリーンピースの歴史

商業的な、工業生産的な捕鯨は、持続的ではない。これがグリーンピースの捕鯨産業に対する評価である。1904年にノルウェーが開始した南極海での捕鯨の歴史をひもといてみると、捕鯨産業が栄華を誇ったのは1961年ごろまでである。それからの10年間で捕鯨国が次々に撤退し、最後は南極海に残った日本と旧ソ連だけが、1972年までは誰も見向きもしなかった小さなミンククジラのみを捕獲していた。商業捕鯨、特に南極海で行われる捕鯨に参加したのは、ほとんどが北半球の捕鯨国である。各国が多額の投資によって莫大な収益を上げようとした結果、南極海にはミンククジラしか捕るべきクジラがいなくなったのである。「公海の資源は早い者勝ち」のルールがもたらした結果だ。

海には小さな植物性プランクトンや海藻から、それを食べる小さな生物、さらにそれをエサとする大きな生物が複雑な関係性を持って生息している。その関連性の頂点にいるのがクジラだ。「頂点」とは生物間の優劣ではなく、複雑な食物連鎖の集束点にいる、という意味にすぎない。当然その数は、プランクトンや魚類などにくらべれば圧倒的に少ない。クジラは一回の妊娠で一頭しか出産しない。しかも、人間と同じように授乳期間を持っている。が、得てして漁業(捕鯨を含む)が「商品価値高し」としてより多く狙いがちなのは、食物連鎖のより上位に位置する生物である。その極端な例がクジラだった。結果的に一大産業が複数の国で興り、資源を取り尽くして、大型のクジラを産業的な「絶滅」に追い込み、自ら衰退の原因を作ったといえる。

商業捕鯨が再開したときに起きること

水産庁をはじめとする捕鯨再開派は、確かに「今度は乱獲しない」とは言っている。以前と同じ規模の乱獲が起きると警戒するのは過剰かもしれない。しかしながら、影響が前回ほど顕著に現れないにしても、捕鯨会社に捕獲枠を厳密に守らせることはきわめて難しいだろう。昨年、捕鯨会社元役員の近藤勲さんが『日本沿岸捕鯨の興亡』(山洋社)を著し、そのなかで、いかに企業が採算を重視し、水産庁の監視官の目を盗んで捕獲数をごまかしたり、捕獲したクジラの体長をごまかしていたかを具体的に公表した。採算を求めるのが企業の宿命である限り、捕鯨産業はクジラの生息数を減らすと見ておいた方がいい。未然に乱獲を防ぐためには、商業捕鯨を行わないことが最も確実な選択肢だといえる。

もしいま、商業捕鯨を再開させてしまったら、どんなことが起きるだろう。もちろん、自国消費のために捕鯨を再開する国、新たに捕鯨に乗り出す国もでるだろう。そこでは獣肉のひとつとしてクジラの需要が発生する可能性もある。しかし、まず期待されるのは、商品価値の高い種や部位を日本に輸出することではないだろうか。

実際、現在 IWCの加盟国ながら商業捕鯨一時中止(モラトリアム)に異議を申し立てて自主出漁しているノルウェーは、日本への鯨肉輸出を始めようとしている。当初、ノルウェーは国内での市場がなく死蔵されていた脂身の輸出をもくろんでいたが、結局ミンククジラの赤身を輸出しようとしている。捕鯨が再開されれば、「ノルウェーに続け」とばかりに、各国で捕鯨を開始しても不思議ではない。なにしろ世界中の食糧が集まる日本である。一攫千金を夢見るクジラ捕りが世界中で誕生する可能性は否定できない。人件費等のコストを考えれば、日本が太刀打ちできないような捕鯨産業が他国に誕生する可能性は大いにあり得る。そして、そのとき捕獲の対象となるのが、捕獲が許可された種・系統群だけにとどまるとは考えにくい。日本がどんなに「乱獲はさせない」といってもそれはせいぜい日本国内の捕鯨業者に対しての号令でしかなく、世界中で復活する捕鯨全体の厳密性を保証するものではない。DNA登録を行って規制するとはいっても、登録や照合等に時間がかかっては、実効性があるかどうかはなはだ心許ない。

商業捕鯨による生態系へのダメージを未然に防ぐべき

かつて商業捕鯨の対象として、標的になったシロナガスクジラやナガスクジラ、セミクジラは、いまだにその数が回復していない。これらのクジラは、ほんの少しの捕獲圧でさえ、その生息数回復の大きな障害になりうる。いずれにせよ、商業捕鯨が再開されたとき、密漁や密輸がいまよりもさらに大がかりに横行することは、想像に難くない。そのときに危惧すべきは、ミンククジラの減少だけではないのである。したがって、グリーンピースは、商業捕鯨の再開に反対するし、商業捕鯨再開に繋がるあらゆる動きを警戒している。日本が行っている調査捕鯨も商業捕鯨再開のために行われているものだし、捕獲された「標本」は「調査副産物」として鯨肉市場に流通している。希少価値は高値を呼ぶ。それだけ密漁のうまみもある。これではまさに商業捕鯨と変わりがないのである。

「グリーンピースは日本人にクジラを食べるなと言っている」と誤解されているケースがよくある。しかしそうではない。あくまでも、捕り方を問題にしているのである。再び起こるかもしれない商業捕鯨による生態系へのダメージを未然に防ぐ。そのためには、商業捕鯨を再開させないこと。これに優る有効な手段は他にない。(了)

● グリーンピース・ジャパンホームページ http://www.greenpeace.or.jp

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