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オーシャンニューズレター

第8号(2000.12.05発行)

第8号(2000.12.05 発行)

海と魚と人間の関わり合い方を考えるための情報保有者の説明責任

水産庁漁場資源課国際資源班長◆石塚浩一

わが国では公的機関(行政、調査研究機関)からの情報発信が不十分だ。とりわけ、海とそこに住む生物資源に関する情報は、地上や大気とは異なり、人間の目で見ることができない部分があまりにも多いがため、広く国民に正しく理解されていないきらいがある。

筆者は、現在、各種漁業条約・協定に基づき資源の保存管理がなされている国際資源調査の企画調整等の業務をさせていただいているが、今年の3月まで約2年間ほど、漁業取締船に乗船して、北海道周辺の外国人漁業の取締業務に従事させていただいた。月10日程度の取締航海であったが、陸上における水産行政の仕事では、なかなか体験することができない、海上ならではの貴重な体験をさせていただいたと思っている。最初は何が起こるか予想だにできず、内心恐る恐る実施した韓国大型トロール漁船への立入検査により、わが国の排他的経済水域内における主権的権利の存在を実感したのをはじめ、漁船からの不審漁船の発見の情報提供が一航海に1度や2度は無線や電話にて寄せられることや、漁船が海難に関する情報提供・発見・救助に寄与しているといった、いわゆる漁業の公益的機能の存在も、身をもって体験することができた。これに付随して、現在の仕事に大きく関連する経験があったので、本小稿を通じておはなしさせていただきたい。

われわれが立入検査を実施した韓国トロール漁船は、スケトウダラを漁獲していたが、新日韓漁業協定上の取り決めに基づき、昨年を最後に北海道沖から撤退した。それと同じタイミングで、北海道太平洋沿岸の国内漁業者によるスケトウダラ漁は、極めて豊漁になった。このため、一部のマスコミや比較的漁業に詳しい関係者の間で、新日韓漁業協定が発効したため、韓国大型トロール漁船の領海ぎりぎりの海域における操業ができなくなり、しかも、その後数ヶ月で日本沿岸の漁場から撤退した点をスケトウ資源の回復の要因とみる見解がみうけられたことを記憶している。

しかし、豊漁となった最大の要因は、科学的には、1995年に加入した卓越年級群(※1)が大きく寄与したからである。もちろん、韓国漁船の撤退が資源状況へプラスに働いたことは否定できないが、科学的には、韓国漁船の影響は撤退如何にかかわらず、資源量は増加することが予想され、この年の豊漁は予想されていた。資源調査や資源管理の関係者の間ではよく知られた話だが、このようないわゆる感覚的な見解(誤解)が、一般市民に情報を提供するマスコミや一部の漁業関係者にまでみられた現象に、ここでは注目しておきたい。

すなわち、資源評価に責任を持ちその情報を保有する公的機関(行政、調査研究機関)からの情報発信が、不十分なのではないかと考えられるからである。実際、上記案件では、スケトウダラを含むわが国周辺の漁業資源の資源評価結果は、昨年9月に初めて公表されたという事情があるので、致し方ない現象といえるが、いずれにしても、専門家が分析して得られる漁業資源の動向などのように、公的機関が有する専門的な諸情報を、国民に分かりやすく説明・提供する必要性、さらには説明責任(アカウンタビィリティー)を考えさせられた次第である。

とりわけ、海とそこに住む生物資源に関する情報は、地上や大気とは異なり、人間の目で見ることができない部分があまりにも多いがため、不明な部分が多いとともに広く国民に正しく理解されていないきらいがある。それゆえ、21世紀の「海と魚と人間」の関係のあり方を国民的議論に発展させるべく、専門家や機関は、「公共の用に供されている海」に関する諸情報を、広く国民にわかりやすい形で情報提供する必要があろう。

この点は、筆者の現在の仕事にとっても、悩ましい大きな課題であることを肝に銘じて、ペンを置きたい。

※1) 卓越年級群(dominant year class)=漁業資源の世代ごとの再生産(産卵、孵化)の量は、環境等さまざまな条件に左右される。年々発生量が大きく変動する種類の魚類で、これらの条件に恵まれた世代は、他の世代に比較してその個体総数が非常に大きくなり、毎年の漁獲物中で常に高い割合を示すようになる。卓越年級群とはそのような個体総数の多い特定世代を示す概念。

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