◆「春の岬 旅のをはりの鴎どり 浮きつつ遠くなりにけるかも」(三好達治 測量船)。穏やかな春の陽射しに誘われて、どこか遠くをのんびり旅したいものだと思いつつ、年度初めの日常の瑣事に追われる春でもある。
◆島シリーズ、山形県飛島からの杉山オピニオンをお届けする。高齢と過疎化はすべての離島が抱える深刻な問題である。稚児がいなければ稚児行列は組めないという指摘のリアリティ。観光にモニュメントを求める風潮に棹差すことは、ものの考え方の新たなありようを探ることであろう。社会全体を貫く市場による解決の徹底への動きと、物事の「は行的進展」を阻止する知恵の調和、この各論の問への答は重い。
◆小川オピニオンは、航海訓練所という、ふだんほとんど知る機会のない教育機関の、独立行政法人化後の活動について紹介する。日本商船隊の船員の9割が外国人船員というショッキングな状況の下で、日本人に対する教育のみならず国際協力の実務教育が、独立行政法人という組織形態でどのように行われるべきか。ここでも社会全体の市場による解決と、それ以外の手段による解決のせめぎ合いがある。いずれにせよ新たな制度の構築が、そこで行われる活動の刺激となって成果につながることを期待したい。
◆海洋温度差発電という、素人にはなじみのない技術の現状について紹介する實原、桜澤オピニオンは、その理論の古い歴史と、実用化に向けての技術開発の新動向についての興味深い情報を提供する。クリーンエネルギーは望ましい。が、ここでもその望ましさは市場の制約の中で実現されねばならない。
◆自生的秩序形成の場である市場の法則は、自然の法則に似て、それを撓めようとしても成功の確率が低く、たまたま成功しても、大きなコストを要して一時的にすぎない。しかし、春の雪は、稀ではあれ自然の一部である。「住吉のきしたつ浪のおもかげもいはねにのこる春の雪かな」(飛鳥井雅世 雅世集)。一律ではない、思わぬ自然の動きを楽しみ、それを糧とする余裕を持ちたいものである。(了)
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