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オーシャンニューズレター

第83号(2004.01.20発行)

第83号(2004.01.20 発行)

FRP廃船処理船の提案性

神戸大学海事科学部教授◆鈴木三郎

全国の海岸や港湾や河川に放置されるFRP製船舶が問題となっているが、その原因はそれらの解体やリサイクルの技術開発が放置されてきたことにもある。より安価で循環型社会に適した処理方法の構築をめざして、回収から資源化までを船上で行うトータルリサイクルシステムとしてのFRP廃船処理運搬船を提案する。

1.FRP廃船の現状

1960年代後半より普及し始めたFRP製船舶(小型漁船やプレジャーボート)は、その耐用年数が約25年と言われ、1990年代より廃船期を迎え、毎年約2.5万隻が廃棄されている(舟艇協会資料)。一方、鋼製廃船の解体技術は、鋼材や装備品のリサイクルの観点より早くから確立され、鋼船については100%解体されリサイクルされている。しかし、FRP製船舶は、小型漁船やレジャーボートのような小型船舶であるため、リサイクル技術の開発が放置され大量生産化が押し進められた。その結果、廃船期を迎えた今日、FRP船は全国の海岸や港湾や河川に放置され、海浜や港湾や河川の機能を阻害し景観を損なうなど大きな社会問題となっている。

2.処理技術の開発と問題

FRP廃船は、その元原料がプラスチックとガラス繊維が主成分であることより、リサイクルとして原燃料・原資源化が最も望ましいと考えられる。1990年代後半に入り、政府機関始め各種団体によりプロジェクト研究として、FRP廃船のリサイクル技術の確立に向け要素技術の開発が行われ、2002年に至って要素技術はほぼ確立されたと言える。

そして、FRP廃船処理を先進的に行っている広島県においても平成15年度の試算では10mFRP廃船(個人用)1隻の処理費用は、付帯作業(廃油の抜取り等)を伴わない状態で約25万円と公表されている。また、その処理は陸上処理を前提としたもので、集積・解体・中間処理施設の各過程でトラック輸送を行っている。トラック輸送は、道路交通法により高さ・幅・長さに制限があり、搭載船舶の大きさは約3トン未満(長さ約7m)の船舶に限られるため、小型船舶(20トン未満)の全てに対応できない。

このように、現在のFRP廃船処理事業は、約3トン未満(長さ約7m)の小さな船舶に限られ、かつ高価格であることより、根本的解決には至っていない。

3.FRP廃船処理運搬船の提案

神戸大学海事科学部(平成15年10月統合、旧神戸商船大学)では、各種廃棄物のリサイクルシステムを構築する研究会を産学官協同して設立し、EMMTと名付け活動を行ってきている。EMMTでは、FRP廃船処理システムの構築は緊急を要する課題と捉え、多くの異業種(研究者、地方公共団体、漁業組合、ボート製造業者、海運業者、港湾業者、廃棄物処理業者、セメント製造業者、製鉄業者、ゴム製品製造業者等々)を交えたプロジェクトチームを作り、より安価で循環型社会に適した処理方法を検討してきた。

その結果、回収から資源化までを船上で行うトータルシステムとした宅配型省資源循環システムと言えるFRP廃船処理運搬船(自航式)を提案している。

FRP廃船処理運搬船は、主要な装置として、搭載型小型曳船、大型クレーン(船上引揚げ、粗破砕に使用)、高圧洗浄機、荒破砕機、細破砕機、分別機、分別コンテナ、バイオ処理装置(付着生物を肥料化する装置)、汚水処理装置を設置し、さらに沈船を浮上させる装置を搭載した船舶である。(図参照)

実証実験に向けたFRP廃船処理船の概念図
(クリックで拡大)

4.FRP廃船処理運搬船の特徴

この処理船による利点として、次のことが挙げられる。

(1) 陸送を要しないこと:このことにより陸送費用・運送エネルギーの削減・道路交通の緩和に寄与できる。

(2) 船上で処理すること:これにより中間集積所、処理施設の広大なストックヤードを必要とせず、騒音や粉塵や悪臭公害が軽減される。船上クレーンにより小型船舶(20トン未満)は回収することができる。

(3) 広域処理が可能となること:小型曳船は離島の海浜や河川の奥にまで移動できることより、小規模な個別回収(沈んでいる船舶を含む)と広域活動が展開できる。

(4) 多量輸送ができること:分別コンテナにFRPチップが貯まるまで多数のFRP廃船の処理が海上移動中に継続でき、陸上の場合に比べ処理に必要な総エネルギー収支を大幅に削減することができる。このことより低価格化が実現できる。

(5) 海洋汚染の防止に貢献できること:船体洗浄時にでる付着生物を航海中にバイオ処理し、肥料資源化することにより、海洋汚染の防止と循環型社会の構築に貢献できる。

(6) 雇用の創出が図られること:全国で毎年発生するFRP廃船約2.5万隻を処理するため、20~25隻の処理船が必要となり、企業創出と船員雇用の拡大につながる。

5.解決すべき課題

FRP廃船処理船を運航するため、解決すべき以下のような課題が残されている。

(1) 商法上の外装主義の見直し:従来、商法上運送する物品は運送中にその荷姿を変えないことが原則(外装主義)である。しかし、船上に積んで輸送中にFRP廃船をチップ化し原資源化することは、その形態を変えることとなる。FRP廃船のより効率的な処理の実現に向けてこのような外装主義を見直す必要がある。

(2) 広域処理の許容:廃棄物処理法により、FRP廃船が廃棄物である限り、都道府県内で発生したものは、その都道府県内で処理することを原則(域内処理)としている。しかし、全国各地(離島を含む)に点在するFRP廃船を効率的に処理するためには、海を移動する観点より、都道府県の枠を越えた広域的な処理を許容する必要がある。

(3) 実証実験の実施:開発されている要素技術の船上での有効性と信頼性の検証、船上バイオ処理の有効性の検証、有効な価格設定の検証、FRP廃船処理船の設計のための基礎データの収集、などを行うための実証実験の実施が必要である。

産官学一体となった実証実験を行い、一日でも早くこの宅配型省資源循環社会システムとしてのFRP廃船処理船を離島や河川にまで運航させるべきと考える。(了)

※ FRP(繊維強化プラスチック)

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