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オーシャンニューズレター

第80号(2003.12.05発行)

第80号(2003.12.05 発行)

日韓海底トンネルの実現に向けて

コリア・レポート編集長◆辺 真一(ぴょん じんいる)

経済では一衣帯水にあるが、政治的にはまだ距離がある日本と韓国。仮に日本と韓国が海底トンネルで繋がれば、イギリスとフランスのような間柄になるだろう。日韓海底トンネルは果たして21世紀に実現するだろうか。

青函トンネルの3倍の長さ

日本列島と朝鮮半島を海底で繋げる構想があると知ったら「まさか」と驚くだろう。海底で繋げるとは、青森と北海道を結んだ青函トンネルのように日本と韓国の間に海底トンネルを通すことを意味する。

2000年9月に日本を訪問した金大中大統領(当時)は森喜郎総理(当時)主催の晩餐会の席上「日韓トンネルは将来の夢として実現させたい」と、日韓海底トンネル構想をぶちあげたのだ。森総理もこれに応える形で翌月の10月20日、ソウルで開かれたアジア・欧州首脳会談(ASEM)に出席した際に行った日韓首脳会談の場で日韓海底トンネルの重要性を語っていた。こうした経緯もあって、韓国では2002年から交通建設部が研究会を発足させ、海底トンネルの技術、経済的妥当性の検証を始めている。

海底トンネル構想は、韓国側から提案されたものだが、日本もかつて構想し、その実現を目指したことがあった。1935年にJRの前身である国鉄が構想した「日欧鉄道構想」がそれだ。九州から朝鮮、奉天、北京、パミール高原そしてイスタンブールを結び、そこからオリエント急行に接続するという壮大な構想であった。6年後の1941年には壱岐と対馬で探索を開始し、佐賀県唐津の呼子でボーリングに取りかかったが、太平洋戦争の勃発でこのロマンは頓挫してしまった。1980年には某大手建設会社が「ユーラシアドライブウェイ構想」を発表したこともあった。呼子-壱岐は島づたいの橋、壱岐-対馬はトンネル、対馬-韓国は海中につるす新タイプのトンネルで結ぶというものだが、計画倒れに終わった。

九州の佐賀と釜山(全長230km)を繋ぐ韓国の海底トンネル構想は、長さは着工から完成まで28年かかった青函トンネルの3倍で、最大水深は155m、総工費は10兆円前後と、容易ではないが、実現すれば、福岡~ソウル(650km)間は自動車で6時間30分、新幹線で2時間30分、リニアモーターカーで1時間で行ける。

復旧する南北縦断鉄道

釜山を中心とした半径200Km、300Km圏図

仮に日韓トンネルが実現すれば、日本にとっては幻に終わった「日欧鉄道」の夢の実現となるが、韓国からの大陸進出は当然、朝鮮半島を南北に分断させている軍事境界線(38度線)の貫通が前提となる。幸いにして、現在、韓国と北朝鮮は、南北首脳会談(2000年6月)を機に38度線で断ち切れた南北間の道路と鉄道の連結に合意し、すでに工事に着手している。南北を縦断する京義線(ソウル~新義州)と京元線(ソウル~元山)が開通すれば、大陸に向けて4つのルートが切り開かれる。京義線は、韓国の釜山~ソウル~北朝鮮の開城~新義州から中国の丹東を結び、中国大陸横断鉄道(TCR)、そしてシベリア横断鉄道(TSR)に繋がる。また、丹東から北京を通ってモンゴルを抜け、TSRに連結する路線もある。京元線は、釜山~ソウルから北朝鮮の元山~羅津~ロシアのハッサンを経て、TSRに繋がる路線と、ソウル~新端里~北朝鮮の清津~会寧~南陽~中国の図們を結ぶ路線がある。図們からモスクワまでは7,721kmで、モスクワからオランダのロッテルダムまでは、2,533kmである。2001年のシベリア横断鉄道利用実績をみると、日本発着貨物が7,545TEU、韓国発着貨物が17,791TEUで、日韓の貨物はロシアのボストチニ港まで海上輸送され、そこからシベリア鉄道を利用する。京義線が復旧すれば、これら貨物を直ちにシベリア横断鉄道に連結することができる。2005年の韓国からEU間のコンテナ物量は、75万TEU、日本~EU間は160万TEUと展望されている。したがって、京義線が貫通すれば、韓国~EU間の物量の20%、日本~EU間の物量の5%は京義線を通じ、シベリア横断鉄道で運ぶことになる。

日朝国交は日本に利益

日韓トンネルは先の話になるが、南北鉄道の連結は時流からして1~2年内には開通される。仮に、南北鉄道が通ったとしても日本と北朝鮮との関係が不正常である限り、日本の経済的メリットは限られている。日朝両国は現在、核と拉致問題で対立が続いているが、こうした問題が解決され、国交が開ければ、日本にとっても利益となる。北朝鮮に石油が埋蔵されているからである。北朝鮮に油田がある話はあまり知られていないが、咸鏡北道の吉州、平安南道の安州など陸地と、日本海の元山沖と黄海の南浦沖などに油田が眠っていると言われている。北朝鮮の原油工業部の資料によれば、南浦沖だけでも430億バレルが埋蔵されているという。これが事実ならば、イランの最大油田が260億バレル、アゼルバイジャン、カザフスタン、トルクメニスタンの3カ国を合わせて155億バレルであることからも相当な埋蔵量であることがわかる。北朝鮮には資源があってもそれを開発する資金、資材、技術がない。国交が結ばれれば、北朝鮮に植民地支配の償いとして経済協力が行われる。その日本の協力で石油が共同開発されれば、資源のない日本に多大な恩恵がもたらされる。

日韓海底トンネルも、北朝鮮との石油共同開発も、いずれも夢のような話であるが、ナポレオンが1802年に構想した英国とフランスを結ぶドーバー海峡トンネル(全長40km)も、そして青函トンネルも20世紀には実現している。

21世紀のいつの日か、見果てぬ夢が実現するかもしれない。(了)

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