Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第76号(2003.10.05発行)

第76号( 2003.10.05 発行)

内航海運の役割と課題について

日本内航海運組合総連合会 第一事業部長◆野口杉男

内航海運は、わが国の産業と人々の生活を支える基幹的な輸送機関として社会に貢献することを最大の使命としている。新しい物流システム構築などの議論において内航船のコスト高だけが問題とされることがあるが、内航海運の費用分担率は小さく、海上コストそのものは小さい。海上経由の一貫輸送コストの削減を図ろうとするなら、むしろ港運作業や横持ちトラック等など内陸のコストにも目を向けるべきであり、待機時間の短縮など運航の効率化も重要ではなかろうか。

はじめに

四方を海に囲まれた日本は、古来より海の恩恵に浴して発展してきた海洋国家であり、この海洋国家を支えてきたのが海運といっても過言ではない。

日本の内航海運は、現在世界一級の規模を誇っており、平成15年3月末現在5,137者の事業者(うち99.3%が中小企業及び個人事業者)が、6,593隻(384千G/T)の船舶を有して、年間5億2千万トン(外航商船隊は約7億トン)の大量の石油・ケミカル・セメント・鋼材等の産業基礎物資や機械・紙パルプ・自動車・食品等の生活物資を海上輸送している。輸送距離を加味した輸送分担率(輸送量×輸送距離)は42.2%を占めている。

このような内航海運の使命は、日本の産業と日本人の生活を支える基幹的な輸送機関として社会に貢献することであり、業界として次の4つの役割を担うことをビジョンとして掲げている。

(1)日本の産業社会の大動脈として、産業基幹貨物の中心的役割

(2)生活物資を安価に届けるため、海陸一貫輸送を分担する輸送手段としての役割

(3)環境負荷の低減に寄与し環境に優しい輸送手段としての役割

(4)海洋国家日本の安全保障に貢献する役割

内航業界の置かれている状況を触れたうえ、内航海運の役割を全うするための阻害要因と提言の一端について述べることとする。

内航海運業界を巡る状況

内航海運業界は、日本経済の長期にわたる低迷の中、バブル経済時代に荷主の要請により大量建造した船舶が、輸送量の減少や荷主の輸送合理化要請により船腹過剰をもたらすとともに、荷主の合従連衡により荷主の優越的地位が強まったため、運賃・用船料は極端に低下した市況となり、内航海運事業者にとっては極めて苦しい経営環境となっている。

この結果、厳しい金融情勢のもと、船舶の代替建造が減退し船舶の再生産が困難となっている。また経費削減の観点から若年船員の雇用を控えることにより船員の老齢化等が進捗している。このような状況の中で、地球温暖化対策としてトラック輸送から海上輸送へのモーダルシフト、循環型経済社会を目指すためのリサイクル貨物の海上輸送システムの構築、中枢ハブ港湾構想による外航コンテナの国内フィーダー網の構築が求められている。

一方、産業界・港運業界等からは、「グローバル経済の中で日本の物流費の高コスト構造が日本の産業国際競争力を弱めている」、或いは「国内フィーダーコストが高いから韓国フィーダーへ接続貨物が流出しており、安い外国船員や外国籍船を使うようにすべきである」と、あたかも内航船のコスト高が原因であるかのごとき主張が繰り返し行われている。果たして、このような主張は正しいのであろうか、またこのような閉塞状況からどのように脱却したら良いのであろうか、これらについて論を進めたい。

港湾諸作業の効率化と内航船の運航の効率化

産業基幹貨物については、内航海運がその約8割(トン・キロ)を担っているが、図1から明らかな通り、輸送分担率に比べ費用分担率が小さく、いかに海上コストが低コストであるか一目瞭然にご理解いただけるものと思う。

新規物流におけるモーダルシフト貨物についても、東京/名古屋間の12m車一台あたりの一貫輸送コストが8万円に対し、海上経由の一貫輸送コストは9万円であるが、海上部分のコストは2.6万円と安く、他は両端の荷役及びトラックコストである。

また、内航フィーダーと韓国フィーダーの母船積迄の総コスト格差は平均4.8万円/40FTコンテナとなっているが、そのうち割高コストの75%は陸上コストによって生じていることが調査の結果判明している。一般的に港運や横持ちトラック等の内陸コストを含めて内航コストが論じられるケースが多く、今後、内航船の海上コストとそれ以外のコストとは充分に峻別して議論がなされるべきものと考える。一貫物流コストを削減するためには、内航コストのみならず荷主の手配する港運作業等の効率化等を通じたコストの低減が図られる必要がある。

産業基幹物資を運ぶ内航船の運航実態は図2のとおり、荷主責任において行われる。

積・揚地における荷役等開始までの待機時間が31%から37%を占めているのである。待機時間の削減は、海上経由の一貫輸送コストの削減に大きな効果があるため、荷主・港運業界による理解と改善への取り組みが重要である。

国策を推進するための内航海運への支援

大災害や不審船の監視等、海洋国日本の安全保障に対する内航海運の役割が大きいことは実証されている。現在も、国は海上運送法に基づき航海を命ずる権限を有し、また国策として有事関連法に基づき海運事業者に対しても業務従事命令の活用のための法制整備を検討している。一方、環境対策のためのモーダルシフトの推進、中枢ハブ港湾の育成及び循環型経済社会を目指すためリサイクル・システムの構築を国策としており、内航海運が競争力をもってその受け皿となることが求められている。これら国策を効果的に推進する上で、外航船並の石油税や固定資産税の減免、モーダルシフト推進のための港へのアクセス道路・港頭地区の整備等について行政の積極的な支援策が必要である。内航業界の自助努力をもとに、関係業界並びに行政のご理解とご協力を得てこの閉塞状況から脱却を図り、内航海運の役割を全うできる環境整備をすることが今求められていると思われる。(了)

■図1 物資別の輸送分担率と費用分担率


■図2 内航船の物資別運航実態

第76号(2003.10.05発行)のその他の記事

  • ノルウェー海事事情 元在ノルウェー日本国大使館一等書記官◆伊藤裕康
  • 内航海運の役割と課題について 日本内航海運組合総連合会 第一事業部長◆野口杉男
  • 新潟の舟運 ― 現状報告と将来展望 信濃川ウォーターシャトル(株)代表取締役社長◆栗原道平
  • 編集後記 ニューズレター編集代表(横浜国立大学国際社会学研究科教授)◆来生 新

ページトップ