Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第76号(2003.10.05発行)

第76号( 2003.10.05 発行)

ノルウェー海事事情

元在ノルウェー日本国大使館一等書記官◆伊藤裕康

ノルウェーの官民一体となった海運政策の研究・推進、強固な海事産業構造、高度な技術を誇る海洋汚染対策等は世界トップレベルにある。近く修好100周年を迎える日・ノルウェー関係はこれまで海事分野における協力関係で支えられてきたと言っても過言ではない。21世紀も「海」を軸に両国関係を発展させていきたいと考える。

1.ノルウェーの3大産業

海域図(ノルウェー統計局)(クリックで拡大)

その昔、北欧のヴァイキング達はその独特な船を自在に操り、欧州各地等を遠征し、交易を進め、その華麗なる文化を広げました。その歴史は、これまでノルウェーの国際海運、海事政策、海事産業等の発展に大きく影響を与え、世界有数の海運国としての地位を築き上げました。一方、1960年代後半、北海で石油が発見されると、ノルウェー国内では石油関連産業が急成長し、現在では、石油輸出量世界第3位、GDPの約2割を占める主要産業になりました。「石油ファンド」と言われる政府が採掘利権で得た収入の累積は、既に約8,000億クローネ(約12兆円)に達しています。

また、伝統的な産業として漁業も重要で、最近の養殖技術は国際的に高く評価されています。2001年の金額ベースで、約68%の水産物がわが国・欧州(わが国には約13%輸出されており第1位)へ輸出されており、わが国へは、食卓ではお馴染みの鮭、鯖、海老等が毎週直行便で輸入されています。さらに、IWC(国際捕鯨委員会)を含む国際漁業会議の舞台においても、「海洋資源の持続的利用」を図るためにわが国とは密接に協力しています。





2.多様な海運政策

■ 2001年の主要国船腹量(100総トン以上)
ロイド船級協会「World Fleet Statistics 2001」

いわゆる世界の商船隊の中では、わが国及びノルウェーは伝統的に常に上位に名を連ねており、「ノルウェー」=「国際海運」という認識を世界の多くの人々が持っています。ノルウェーの国際海運政策は、現在、貿易産業省(以前は外務省が所管していた経緯があり、いかに政府が「海運」を重視しているかが分かります)が所管しています。主な施策として第二船籍制度(NIS)、トン数標準税、実質賃金制度(源泉徴収される税金等が雇用主へ還付される制度)等が実施されており、国際海運の競争力強化を図っています。また、ノルウェー船主協会は積極的に政府に対して政策提言を行っており官民一体となって海運政策を推進する体制となっています。なお、同協会の理事長は、現在Lie女史が務めており、男女平等世界一であるノルウェーは、典型的な「男」の世界と思われがちな海事分野においても革新的であると言えます。基本的にノルウェーの海運政策は「海運自由の原則」を大きな柱にしており、WTOにおいてはわが国とともに海運交渉をリードしています。

3.調和・連携する海事産業

VIKING号(Maritimt Magasin)

ノルウェーでは、海運がその核にあり、周辺を各種海事関係産業(船級、海上保険、ブローカー、造船等)、政府、研究機関等が取り巻く、いわゆる「クラスター構造」となっており、相互に密接な連携を保ち各部門が成長しています。海運で培ったノウハウは各種海事産業の基盤として重視されており、海上勤務経験者はその中心的人材として重要な役割を果たしています。海事産業の規模は決して大きくはないのですが、海事ビジネスの隙間にくまなく入り込み、世界に展開するとともに、産官学が連携した技術開発は日頃から積極的に行われています。最近は地球温暖化防止対策の一環として、世界で初めてLNG燃料で航行するプラットフォーム作業船(その名も「VIKING」!)も就役させています。

4.海洋汚染対策の強化

ノルウェーは北海の漁業と石油産業を共存させるために、海洋汚染対策に力を注いでいます。油防除資材・技術は世界一と言われています(わが国も多くの資材をノルウェーから輸入しています)。エリカ号及びプレスティージ号による大規模海洋汚染、また、昨秋からの10万トン級ロシア石油タンカーの沿岸航行開始に伴い、国内では一層の海洋汚染対策の重要性が指摘されているところです。国(沿岸管理庁(主管)、沿岸警備隊等)、民間(石油会社で組織された「NOFO」等)及び自治体の連携は密接であり、防除資材・防除手法開発、総合訓練(実際に海上に油を流して実施される油回収訓練もある)も精力的に行われています。さらに、2004年1月から領海を約4海里(1812年に制定)から12海里に拡張することが先般の国会において全会一致で決定されました。これにより、汚染原因と成り得るタンカー等の航行海域を沿岸域から沖合に移すことも近く検討されるでしょう。

5.「海」は二国間関係の軸

タンパ号上の難民(ノルウェー海事庁)

ノルウェーは欧州内では数少ない非EU国ですが、現在、全く孤立感を感じさせずにEU加盟国と対等に経済活動等を行っています。先般、欧州海事庁(EMSA)が設立されましたが、その際、非EUのノルウェーの参画も大いに歓迎されました。それは、ノルウェーの海事に関する知識・経験は今や欧州標準を決定するうえで欠かすことができないからです。また、メンタルな部分でも、ノルウェーは、「グッドシーマンシップ」という言葉を、タンパ号事件(2001年夏、豪領クリスマス島沖漂流中の中東難民の救助・取り扱いに関し沿岸国等で国際問題になった)の船長・政府対応を通じ世界中に今一度思い起こさせてくれました。

世界の二大海洋国家であるといっても過言ではないわが国とノルウェー。来る2005年には修好100周年を迎えます。これまでわが国は海運国ノルウェーの多くの船舶を建造し、また多くの両国の海事関係者が各種海事ビジネスを通じ厚い信頼関係を築き上げてきました。「海」を通じた両国関係は将来も二国間関係の軸であることは変わりありません。21世紀においても「海」をテーマに一層の可能性、発展性を探り続けていくべきだと考えます。(了)

第76号(2003.10.05発行)のその他の記事

ページトップ