Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第610号(2026.10.20発行)

事務局だより

(公財)笹川平和財団海洋政策研究所主任研究員◆前川美湖

◆今回のテーマである「海の生物多様性」の「生物多様性」とは、遺伝子、種、生態系の3つのレベルで捉えられ、それらを取り巻く水・物質循環の動きも視野に入れた広い考え方である。本号は、海洋遺伝資源に関する最新の研究活動に関する報告(峯田・竹山)、世界最大の動物であるクジラ(特にナガスクジラ<Balaenoptera physalus>)を取り巻く日本の商業捕鯨について(岸本)、そして、日本の多様かつ個性豊かな風土や生態系の様子を伝えている。地理的にも、東北地方の南三陸町(太齋)、駿河湾、下関(関鯨丸の母港)、そして熊本からの報告から成り、加えて、海洋教育の実践としての高校生ダイバーの育成や取り組み(藤原・塙)、国際的なネイチャーポジティブの動き(道家)についても分かりやすく解説されている。◆峯田・竹山は文中で海洋遺伝資源開発と利用に関する国際的な議論として、2026年1月に国連海洋法条約の下、発効した新しい条約「国連公海等生物多様性協定」(BBNJ協定)のことに触れている。この協定は、国家管轄域外区域といわれる公海域と深海底における生物多様性の保全ならびに持続可能な利用を目指すもので、日本も2025年に批准し、締約国となっている。このBBNJ協定の対象の一つが、海洋遺伝資源とその利益配分であり、交渉のホットトピックになっている。この協定をもって、陸海を含む地球上の生物多様性の持続可能な利用と保全を規律する法体系の概要が出来上がったといえる。ただ今のところ、このBBNJ協定に関する交渉の議題は、国家間の利害対立の調整が中心になっており、肝心の海洋生物多様性の保全やその具体的な対策に関する議論までなかなか辿り着かないのがもどかしいところである。文中の指摘の通り、ネイチャーポジティブ目標達成まであと4年となったが、その成果測定方法について具体的な合意はまだないという。◆9月に大きなニュースとなっていたのは、台風25号による豪雨災害である。千葉県や神奈川県において、死傷者や重大な被害が出ている。今年はスーパーエルニーニョの影響もあり、自然の様相が変化していることを実感せざるを得ない。生物多様性を含む自然界からの恩恵を受けるとともに、生物多様性を保全し、ネイチャーポジティブに反転させ、そして同時に気候変動対策などと一体的に取り組むことが求められるであろう。秋の長雨が、これ以上深刻な被害をもたらさないことを願っている。(主任研究員 前川美湖)

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