Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第604号(2026.04.20発行)

故郷の海からアジアの海へ
~ユースの対話と実践がつなぐ海洋プラスチック問題への挑戦~

KEYWORDS 海洋ごみ/ユース対話/世界水フォーラム
九州大学大学院生物資源環境科学府1年、海洋環境学生団体maiPLA会員◆室原一仁

幼少期の原体験を起点に、九州北部を拠点に活動する海洋環境学生団体「maiPLA」での活動に至る歩みを紹介する。国境を越えて流れ着く漂着ごみを、漂着地が処理せざるを得ない構造的課題に向き合い、現場の清掃と東アジアのユースとの国際連携を展開。知識の共有に留まらない「国境を越えた信頼関係」の構築と、次世代への価値観の継承こそが、問題解決の鍵となる。
原体験としての「川」と専門的知見との出会い
海洋プラスチック問題や生態系の劣化といった環境課題は、将来世代に大きな影響を及ぼすものであり、ユースが主体的に向き合う意義は大きい。制度や社会をすぐに変える力は限られていても、地域に根差した行動や対話を積み重ね、次の世代へと価値観をつないでいくことは、誰もが担うべき役割であり、とりわけ未来を生きる若者が率先して取り組むべき重要なテーマといえよう。こうした問題意識のもと、筆者は現在、学生という立場で地域と向き合い、海洋ごみ問題の解決に向けた活動に取り組んでいる。本稿では、九州北部を拠点に大学の枠を越えて活動する海洋環境学生団体「maiPLA※1(マイプラ)」に所属する筆者が、海洋ごみ問題への取り組みに関心を持つに至った経緯と、団体の歩みを紹介する。
筆者がごみ問題を意識し始めたのは、小学校低学年の頃である。幼い頃から自然や生物が好きで、近所の川でよく遊んでいた。そこには魚やカニ、昆虫など多様な生物がいた。ある日、地域の清掃活動が行われ、川遊びの延長で参加した。生き物の多い川だったため、ごみはそれほどないだろうと思っていたが、実際に川底からはビニール袋や菓子の包装などが次々と出てきた。小学生ながら強い衝撃を受けた。この経験が、筆者にとってごみ問題を自分事として捉える原点である。
転機は高校生の時に訪れた。担任教員から、海洋ごみ問題に取り組む「九州大学うみつなぎ※2」を紹介され、これを統括する清野聡子准教授の話を聞く機会を得た。福岡の海の現状、海洋ごみやマイクロプラスチックの問題、太平洋規模で広がる漂流ごみの実態を知り、自分にも何かできるのではないかと考えた。その後、地元の川や海で清掃活動を行い、川と海ではごみの種類や大きさが異なること、特にマイクロプラスチックの回収が極めて困難であることを実感した。
自分の学校でも海洋環境活動の輪を広げたいとの思いから、高校在学中に「城南高校うみつなぎ」を立ち上げ、仲間を増やしていった。2022年には熊本で開催された第4回アジア・太平洋水サミットに参加し、これまでの学びを発表した。こうした活動の中で、maiPLAと出会い、学生主体で海洋ごみ問題に取り組む姿勢に強く共感した。大学進学を機にmaiPLAへ加入し、現在は海岸清掃とあわせて、問題を社会に発信する活動にも携わっている。

■福岡市内で海岸清掃を行うmaiPLAメンバー

離島から都市へ、maiPLAが体現するコミュニティ内での循環
maiPLAは、五島列島の高校生によって2019年に設立され、現在は福岡を拠点に活動している。「うみとともにある暮らしをまもり、人々とうみの関係をつくる」をスローガンに、五島、福岡、佐賀などで海岸清掃やワークショップ、地域コミュニティ活動を実施している。現在、海岸清掃やワークショップに協力する学生ボランティアは約50名に広がっている。地方で生まれた活動が福岡に集い、再び各地へと還元される流れが生まれている。専門家や地域住民、学生が集う場を設け、学びと行動を結びつけることも重視している。
現場から世界へ、アジア地域での実践をグローバルな潮流へ
九州北部には対馬海流が流れ、多様な海洋生物が生息し、漁業資源にも恵まれている。糸島、唐津、壱岐、対馬などは、美しい海と海産物を活かした観光地としても知られている。一方で、これらの地域は深刻な海洋ごみ問題にも直面している。ペットボトルやビニール袋、漁業用ロープ、発泡スチロールなどのプラスチックごみが多く漂着し、海流や季節風の影響により海外由来のごみも少なくない。海洋ごみは生態系への影響に加え、観光価値の低下や漁業被害など経済的影響も及ぼす。回収と処理は地域住民や自治体に大きな負担となっており、「他地域から流れ着いたごみを、漂着地の人々が処理する」という構造そのものが大きな課題である。
こうした状況は、海洋プラスチック問題や生態系保全が一国では解決できない課題であることを示している。九州北部を拠点に活動する私たち若手世代は、国際会議やオンライン交流を通じて、東アジア各地域のユースや研究者、実践者と知見を共有してきた。それぞれの地域が抱える制度や社会背景は異なるが、海を守りたいという思いは共通している。対話を通じて、地域ごとの課題と可能性を学ぶ機会を得てきた。
2024年にはインドネシアで開催された第10回世界水フォーラムにおいて、九州大学うみつなぎのメンバーとして登壇し、maiPLAでの実践について発表した。さらに2025年の大阪・関西万博では、「対馬ウィーク」の一環として開催された日韓海洋環境シンポジウムに登壇し、同様の課題に取り組む日韓ユースと交流した。地域から国際的な場まで活動を広げながら、海洋環境問題の解決に向けた実践と対話を継続している。
とりわけ重要なのは、知識の共有だけでなく、関係性を育むことである。継続的な近況報告や励まし合いを通じ、国境を越えた信頼関係が築かれてきた。ユース同士が同じ目線で悩みや葛藤を共有する中で、「海ごみに国境はない」という現実は、理念ではなく実感として受け止められるようになった。
また、活動を継続するためには、先輩から受け継いだ仕組みと工夫が欠かせない。活動記録の保存、複数人での運営体制、意見を出し合える場の確保など、小さな工夫の積み重ねが団体の基盤となっている。筆者自身、高校時代に先輩や指導者に導いてもらった経験があるからこそ、次の世代には参加しやすい環境と挑戦を後押しする雰囲気を引き継ぎたいと考えている。さらにこの活動の輪は、団体内だけでなく、同じ問題に取り組む他のユースたちにも広げていきたい。
幼少期に川で見た光景が、筆者の意識を変えた。しかし、そのような体験を誰もが得られるわけではない。体験の場を意図的につくり、次世代の学びへとつなげることが大切だ。今後も、ユースの対話と実践を通じて生まれたつながりを大切にし、「知る・つながる・伝える」を軸に、地域と東アジアを結ぶ環境活動を継続していきたい。(了)

■世界水フォーラム(2024年・インドネシア)に参加する著者(右)

※1 (一社)maiPLA https://5100maipla.studio.site/2
※2 九州大学うみつなぎ https://umitsunagi.jp/

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