Ocean Newsletter
オーシャンニューズレター
第602号(2026.02.20発行)
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太平洋島嶼諸国─地域連帯化組織PIFの行方
KEYWORDS
太平洋島嶼フォーラム/地域協議体/島嶼国の多様性
大阪学院大学国際学部教授、太平洋諸島学会会長◆小林泉
太平洋諸島フォーラム(PIF)は近年、組織運営や域外国との関係をめぐり不安定さが目立っている。本来PIFは、島嶼諸国が地域課題を協議し国際社会に発信する場として生まれたが、近年は豪州・NZの主導で「地域統合」が強調されてきた。しかし島嶼諸国の多様性を踏まえれば、統合よりも協議体としての存続こそが現実的である。
PIFの揺らぎ
太平洋の島々を束ねる太平洋諸島フォーラム(Pacific Islands Forum:PIF)は、1989年以来、周辺援助国や国際機関を招き、域外国対話を実施してきた。そして近年では、20以上もの国・国際機関が参加するほど活況を呈している。しかし、2025年9月の第54回PIF年次総会では、この対話イベントが中止になった。
同年の議長国・ソロモン諸島のマネレ首相は否定したが、イベント中止に中国が大きく影響していたことは間違いない。それは、前年(2024年)のPIF首脳会議で発表された共同宣言が、一夜で書き換えられた出来事から想起される。「台湾も重要なパートナーとして位置付ける」という文言が、中国の銭波太平洋担当大使の猛烈な抗議を受けて削除された。首脳宣言が公表後に域外国の圧力で変わるのは前代未聞である。しかし、こうした結果に至ったのは、中台問題がこじれると、地域連帯や島嶼間協力の象徴たるPIFの分裂に繋がると判断したからであろう。現メンバー国は、中国と外交関係を結ぶ島嶼国が11、台湾が3。よって、中台問題を放置したまま次の総会を迎えれば、台湾と外交関係を持つパラオ、マーシャル、ツバルの存在を無視することに繋がる。
2026年のPIF首脳会議の議長国・パラオのウィップス大統領は、2025年10月来日時の筆者との会談で、パラオでは、従来の域外国対話を再開させると明言した。しかし、1年間で島嶼諸国の利害を調整し、中国を納得させる妙案を見つけるのは容易ではない。そのため、太平洋流の曖昧さをもって対話イベントを復活させる可能性が示唆される。
同年の議長国・ソロモン諸島のマネレ首相は否定したが、イベント中止に中国が大きく影響していたことは間違いない。それは、前年(2024年)のPIF首脳会議で発表された共同宣言が、一夜で書き換えられた出来事から想起される。「台湾も重要なパートナーとして位置付ける」という文言が、中国の銭波太平洋担当大使の猛烈な抗議を受けて削除された。首脳宣言が公表後に域外国の圧力で変わるのは前代未聞である。しかし、こうした結果に至ったのは、中台問題がこじれると、地域連帯や島嶼間協力の象徴たるPIFの分裂に繋がると判断したからであろう。現メンバー国は、中国と外交関係を結ぶ島嶼国が11、台湾が3。よって、中台問題を放置したまま次の総会を迎えれば、台湾と外交関係を持つパラオ、マーシャル、ツバルの存在を無視することに繋がる。
2026年のPIF首脳会議の議長国・パラオのウィップス大統領は、2025年10月来日時の筆者との会談で、パラオでは、従来の域外国対話を再開させると明言した。しかし、1年間で島嶼諸国の利害を調整し、中国を納得させる妙案を見つけるのは容易ではない。そのため、太平洋流の曖昧さをもって対話イベントを復活させる可能性が示唆される。
PIFは地域国家群の発信組織
ではここで、あらためてPIFとは如何なる組織なのかを見てみよう。設立協定2条には「地域協力及び地域統合を強化する」とあり、これが地域的統合を目指すために組織化された機関だと認識される理由になっている。しかし、この設立協定が文章化したのは、組織発足から30年以上も経過した2005年で、前身の南太平洋フォーラム(SPF)として発足した1971年当時は協定書などなかった。発足メンバーは、オーストラリア(豪)、ニュージーランド(NZ)を含む7つの国と地域に過ぎず、その時点では地域統合を発想する状況にはなかったのである。
第二次大戦後のこの地域には、宗主諸国らによる南太平洋委員会(SPC)が組織されていた。1960年代に入り、西サモア(現サモア独立国)やナウルが独立すると、域内独立国として島嶼国もSPCメンバーに受け入れられたが、この組織は島々の社会・経済問題について協議する場とされ、政治問題は議論しないことを不文律としていた。しかし、独立を果たした島嶼国にとって、政治問題を議論できないのでは意味がない。そこで、フィジーやトンガの独立を機に、島嶼諸国が地域に関わる問題を自由に協議できる場をつくるべく、南太平洋フォーラム(SPF)を発足させたのである。
SPFは、その後に独立した島嶼国を次々にメンバーに加え、現在のPIFに名称変更(2000年)した。こうして島嶼国の協議組織は、小さな独立島嶼国の存在を国際社会に知らしめ、彼らの主張を世界にアピールするという発足時の目的を果たしながら、16カ国2地域を擁する組織として今日まで発展してきた。
第二次大戦後のこの地域には、宗主諸国らによる南太平洋委員会(SPC)が組織されていた。1960年代に入り、西サモア(現サモア独立国)やナウルが独立すると、域内独立国として島嶼国もSPCメンバーに受け入れられたが、この組織は島々の社会・経済問題について協議する場とされ、政治問題は議論しないことを不文律としていた。しかし、独立を果たした島嶼国にとって、政治問題を議論できないのでは意味がない。そこで、フィジーやトンガの独立を機に、島嶼諸国が地域に関わる問題を自由に協議できる場をつくるべく、南太平洋フォーラム(SPF)を発足させたのである。
SPFは、その後に独立した島嶼国を次々にメンバーに加え、現在のPIFに名称変更(2000年)した。こうして島嶼国の協議組織は、小さな独立島嶼国の存在を国際社会に知らしめ、彼らの主張を世界にアピールするという発足時の目的を果たしながら、16カ国2地域を擁する組織として今日まで発展してきた。
地域統合は豪・NZの思惑
このようにPIFは本来協議体であって、地域統合を目指す組織ではない。なのになぜ、近年は「統合への危機」や「統合か分裂か」といった視点から議論されることが多いのだろうか。筆者は、「島嶼諸国の協議体」でありながら、発足メンバーに旧宗主国の豪・NZが加わったからだと考える。この二国は当初、同じ地域国家として、独立間もない島嶼国を見守り、組織運営や資金面での支援を行っていた。しかし、次第に自らの主張を強め、島々を地域統合の方向に導いていった。その結果が、地域統合を目的に掲げた2005年の設立協定に繋がるのだ。島嶼地域の一体化が進めば、旧植民地域への支援・協力関係構築、またオセアニア地域の安全保障の観点からも、豪・NZにとって好都合なのだ。つまり、PIFの一体化や統合は、島々ではなく豪・NZが求めたものだと考えられる。
島嶼各国は、独立経緯の類似性や地理的な共有性がある一方、多様に異なる独自性を有する。人口1千万人を超えるパプアニューギニアから1万人程度のナウルまでを「太平洋島嶼諸国」として一括視されてしまうのは不本意なのだ。島々の実情と心情を知れば、地域の統合や一体化は、豪・NZが描く理想型に過ぎないと理解されるだろう。つまり、島嶼諸国と豪・NZは、地域連帯や協力への異なる思惑の下でPIFに加盟しているのである。
島嶼各国は、独立経緯の類似性や地理的な共有性がある一方、多様に異なる独自性を有する。人口1千万人を超えるパプアニューギニアから1万人程度のナウルまでを「太平洋島嶼諸国」として一括視されてしまうのは不本意なのだ。島々の実情と心情を知れば、地域の統合や一体化は、豪・NZが描く理想型に過ぎないと理解されるだろう。つまり、島嶼諸国と豪・NZは、地域連帯や協力への異なる思惑の下でPIFに加盟しているのである。
太平洋マップ (公財)笹川平和財団太平洋島嶼国事業:作成
やはり、島嶼諸国にはPIFが必要
とはいえ島嶼諸国とて、PIFは必要な組織である。次の2つの事件の顛末が、それをよく示している。
第1に、フィジーをPIFから追放(2009年9月)した事件である。「他島嶼の内政問題には関与すべきではない」とする大方の島嶼国の主張を押し切って、クーデター政権のフィジーを追放に踏み切ったのは豪・NZの強い主導によるものだった。これに対抗したフィジーのバイニマラマ首相は、地域の連帯や協力問題を話し合うには豪・NZ抜きの協議体が必要だとして、2013年に太平洋諸島開発フォーラム(PIDF)を立ち上げ、参加を呼びかけた。すると、PIFの島嶼メンバーは、直ちに加盟表明したのだ。ここに、島嶼諸国の対豪・NZ感情を読み取ることができる。しかし、そのフィジーも民主政権に戻り、2015年には再びPIFに迎え入れられ元の鞘に収まった。結果として、PIDFの活動は低調になっている。
第2に、2021年のミクロネシア5カ国のPIF脱退騒動だ。PIF事務局長人事を巡り、予定されていたミクロネシア地域出身者ではなく、投票によりポリネシア人が選出された。この選挙に大きく関与していたのが、やはり豪・NZだったが、これに信義違反を訴えてミクロネシア諸国が脱退を宣言したのである。その後、豪・NZは事の重大さに気づき、1年半の調整によりミクロネシア人の事務局長を選出することで分裂を回避した。
このように、島嶼諸国と豪・NZの間には、同じPIFのメンバーでありながら、大きなギャップがある。PIFは今後も組織運営の難しさに直面するはずだが、それでも島嶼諸国はPIFの分裂や消滅を望まないだろう。なぜなら、自身の存在を国際社会にアピールする重要な組織であると認識しているからだ。なのでPIFは、統合や一体化にことさら突き進むこともなく、多様性の幅を一層広げながら協議体として存続し続けるにちがいない。(了)
第1に、フィジーをPIFから追放(2009年9月)した事件である。「他島嶼の内政問題には関与すべきではない」とする大方の島嶼国の主張を押し切って、クーデター政権のフィジーを追放に踏み切ったのは豪・NZの強い主導によるものだった。これに対抗したフィジーのバイニマラマ首相は、地域の連帯や協力問題を話し合うには豪・NZ抜きの協議体が必要だとして、2013年に太平洋諸島開発フォーラム(PIDF)を立ち上げ、参加を呼びかけた。すると、PIFの島嶼メンバーは、直ちに加盟表明したのだ。ここに、島嶼諸国の対豪・NZ感情を読み取ることができる。しかし、そのフィジーも民主政権に戻り、2015年には再びPIFに迎え入れられ元の鞘に収まった。結果として、PIDFの活動は低調になっている。
第2に、2021年のミクロネシア5カ国のPIF脱退騒動だ。PIF事務局長人事を巡り、予定されていたミクロネシア地域出身者ではなく、投票によりポリネシア人が選出された。この選挙に大きく関与していたのが、やはり豪・NZだったが、これに信義違反を訴えてミクロネシア諸国が脱退を宣言したのである。その後、豪・NZは事の重大さに気づき、1年半の調整によりミクロネシア人の事務局長を選出することで分裂を回避した。
このように、島嶼諸国と豪・NZの間には、同じPIFのメンバーでありながら、大きなギャップがある。PIFは今後も組織運営の難しさに直面するはずだが、それでも島嶼諸国はPIFの分裂や消滅を望まないだろう。なぜなら、自身の存在を国際社会にアピールする重要な組織であると認識しているからだ。なのでPIFは、統合や一体化にことさら突き進むこともなく、多様性の幅を一層広げながら協議体として存続し続けるにちがいない。(了)
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