Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第601号(2026.01.20発行)

全球規模における海洋プラスチックの動態に関する研究

KEYWORDS マイクロプラスチック/沈降/亜表層での浮遊
九州大学応用力学研究所海洋プラスチック研究センター教授◆磯辺篤彦

川を経て海に至ったプラスチックごみは、劣化と破砕を経てマイクロプラスチック(MP)へと変化する。海底底質コアからの検出は、海水よりも比重の小さな素材でも、生物膜の形成など生物過程を介して海底へ沈降することを示唆する。北太平洋の亜表層で多層採取した海水からは、長径が数百μm以下の微細MPが数千個/m3のオーダーで検出された。生物過程で比重が増し中性浮力近くになったものは、長期にわたって海中を漂うらしい。
マイクロプラスチック浮遊量の観測とデータベースの公開
安価な使い捨てプラスチックは、大量に消費され、大量に廃棄され、そして一部が環境に流出する。私たちが収集した世界の湖、川、そして海で発見された1,200万件に及ぶ投棄ごみの目視情報によれば、地球で最も多く見つかる水辺のごみは、食品のテイクアウトに用いるプラスチックの容器包装材で、これが全体の60%弱を占めた。品目別の最多はレジ袋のようなプラスチック・バッグ(約14%)であった。漁業ごみは全体の20%であり、ほとんどは街中で投棄され川を経て海に至ったものである。世界中の海に漂流・漂着するプラスチックごみは、やがては砕けて微細片(マイクロプラスチック:以下、MP)に変わったのち、世界の海に広がっていく。
いま世界の研究者が参照する観測ガイドラインは、海洋に浮遊するMPの採取に、船舶からの水平方向の曳網を推奨している。動物プランクトンの採取方法に準拠して、ニューストンネットやマンタネットと呼ばれる目合い300μm程度の網を用いる。この場合、数百μmよりも微細なサイズのMPは採取できないが、その後の分析過程でも、それほど小さなMPは扱いにくい。例えば、プラスチック素材の同定には、フーリエ変換赤外分光光度計を用いることが多いが、よく利用される全反射測定型では、測定可能なサイズ(長径)の下限が数百μm程度である。従って、いま私たちが研究対象としているMPは、長径が300μm程度よりも大きな、海面から1m以浅の海洋表層を浮遊するポリエチレンやポリプロピレン(比重〜0.9)がほとんどである。
世界の海洋で採取されたMPの観測データを集約して、表層に浮遊する現存量のデータベースが日本の環境省によって公開されている。Atlas of Ocean MIcroplastics(AOMI:青海:https://aomi.env.go.jp/)データベースは、自由に閲覧やデータのダウンロードができるとともに、浮遊MP観測値のアップロードが世界の研究者に向けて呼びかけられている。2025年11月現在では、標準的なガイドラインに準拠した手法で採取・分析された、約14,000回の曳網調査の結果が収録されている(図1a、b)。
AOMIデータベースによれば、これまで採取が行われた全海域の平均浮遊密度は0.3個/m3であった。一方で、日本周辺海域の浮遊密度は3.7個/m3と全海域平均より桁違いに多い。これは北西太平洋周辺での投棄プラスチックごみ量が世界の55%を占める事実と整合的である。投棄量の多い東南アジア周辺海域でも浮遊MPの高濃度が予想されるが、図1に白抜きで示されるとおり、まだ観測報告数が少なく実態は不明である。東南アジアだけではなく、南半球などデータの空白域は未だ全世界の海洋の90%程度を占める。
■図1 AOMIデータベースを利用して作成した長径300μm以上のMP浮遊濃度(浮遊個数/m3)の2月(a)と8月(b)の分布。白い海域はデータの空白域。海上風速や波高の各月気候値を用いて、曳網観測で得た浮遊濃度を気候値に補正した。
海洋プラスチックの動態
川を経て海に至ったプラスチックごみは、海流や波浪に伴う輸送(ストークスドリフト)、そして海面上に出た部分を風が押すことで生じる輸送(風圧流)によって漂流し、そして海岸漂着と再漂流を繰り返す過程で、劣化と破砕を経てMPへと変化する。海水よりも比重の小さなポリエチレンやポリプロピレンであっても、いつまでも海洋表層に浮き続けているわけではない。生物膜(バイオフィルム)の形成や珪藻凝集体への絡まり、動物プランクトンによる誤食と排泄物への混入などを経て、次第に海底に向け沈降するらしい。実際に、海底から採取される柱状の海底泥サンプル(堆積物コア)に含まれるMPには、海底泥の降り積もった年代に応じて1950年代からの増加トレンドが明瞭である。中でも、別府湾から採取された堆積物コアに含まれるMP含有量には、10年規模の経年変化が明瞭に観察された。そして、この経年変化は、同じコア中から検出された植物プランクトン指標のクロロフィルa量が示す経年変化と同期していた。MPの沈降に関わる上記の生物過程のうち、どれが優占したのかは分からないが、それでも海洋生態系には、浮遊MPを速やかに海底に運ぶ機能があるらしい。
これまで海域で採集されてきたMPは、長径が数百μm以上のものが大半であった。しかし、海洋プラスチックは破砕を繰り返すものの、姿を消すわけではない。海面近くの曳網調査では十分に捉えきれない、さらに微細なMPが海域に存在することは十分に予想される。実際に、北太平洋において、私たちが多層採水器を用いて海面から水深1,000mの12層で採取した海水からは、長径が10μmから数百μmの微細MPが、数千個/m3のオーダーで検出された(図2)。また、図にあるとおり、同時に計測した塩分と似た鉛直分布を示した。このことは、本来は海水より軽いMPであっても、上記の生物過程を介して重量が増し中性浮力近くになれば、長期にわたって海中を漂う状況をうかがわせる。すでにプラスチック製品が社会に出回り始めて70年以上が経過した。その間に環境に流出したプラスチック廃棄物の一部は、今も海洋循環に乗って地球を巡っているのである。
私たちの観測結果が示すとおり、海洋亜表層には数千個/m3の微細MPが浮遊している。生物過程を経てポリエチレンやポリプロピレンが持つ本来の浮力を失い、亜表層まで沈降したらしい。しかし、MP表面に付着した生物や生物起源物は、十分な光量のない亜表層で、いずれは枯死・分解して表面から消えてしまう。付着物が消えれば、MPは再び浮力を得て上昇を始めるだろう。上昇を始めてのち海洋上層の有光層まで達すれば、再び生物過程を介して重量が増加し、また海底に向けて沈降するはずである。プラスチックは環境中で分解するまで数百年を要するとされ、そしてプラスチックが残る限り上下運動は続く。半永久的に表層と亜表層を往復できる物質が、長い地球史に初めて現れたのである。このような物質は、物質循環や生物ポンプに干渉していないか、干渉しても些細な歪みにすぎないのか。今後に挑戦してみたい課題の一つである。(了)

■図2 3測点(左)において採取された、10μm<長径<300μmの微細MP濃度(ドット)の鉛直分布(右)。縦軸は0-1,000m水深を等密度面座標で示している。曲線は採取と同時に計測された塩分。色は左図の測点に合わせている(Kuroda et al., 2025, Environ. Sci. & Technol.)

※ 藤岡勝之著「プラスチック汚染に関するデータ整備と利活用の促進~「Atlas of Ocean Microplastic(AOMI)」の公表~」本誌第585号(2024.12.20発行) https://www.spf.org/opri/newsletter/585_3.html

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