Ocean Newsletter
オーシャンニューズレター
第595号(2025.07.20発行)
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ITで海洋ごみ問題に挑む~データの可視化がもたらす変革~
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ごみの見える化/「タカノメ」調査/効率的・効果的なごみ回収
(株)ピリカ代表取締役◆小嶌不二夫
海洋ごみの問題は、ごみの流出経路や分布が十分に把握されていないことが課題である。(株)ピリカではITを活用して、ごみの流出や分布を可視化し、国内外にて効率的かつ効果的なごみ回収とデータに基づく施策を促進している。収集データを公開することにより、地域住民の環境意識向上や環境教育プログラムの策定にも役立てている。企業・自治体・市民が連携して、それぞれの役割を果たすことが重要である。
海洋ごみの現状と見えない課題
私たちが暮らす地球の約70%を占める海洋は、生命の源であり、多様な生態系を育む重要な環境です。しかし近年、プラスチックをはじめとする大量のごみが海へ流出し、深刻な環境問題を引き起こしています。世界では年間800万トンものプラスチックごみが海に流れ込んでいると推定され、魚や海鳥、さらには私たちの食生活にまで影響を及ぼす懸念が広がっています。
この問題の大きな課題のひとつは、「ごみの流出経路や分布が十分に把握されていない」ことです。例えば、どの街路から河川や海へどれだけのどんなごみが流出しているのか、その実態を正確に把握している自治体は少なく、対策を打とうにも十分なデータがありません。そのため、効率的な施策を講じるのが困難になっています。
この問題の大きな課題のひとつは、「ごみの流出経路や分布が十分に把握されていない」ことです。例えば、どの街路から河川や海へどれだけのどんなごみが流出しているのか、その実態を正確に把握している自治体は少なく、対策を打とうにも十分なデータがありません。そのため、効率的な施策を講じるのが困難になっています。
ITを活用したごみ流出の可視化
この課題に対し、「ITによるデータの可視化」というアプローチを用いて取り組んでいるのが、私たち(株)ピリカと(一社)ピリカです。ピリカではAI技術やスマートフォンを活用したごみ調査システムを開発し、海洋ごみの発生源を特定する試みを進めています。
その代表的な技術が、スマートフォンのカメラを使って陸域(特に道路上)のごみを検出し、その位置や種類をデータ化するシステム「タカノメ」です(図1)。タカノメは山口県、三重県、熊本県などのさまざまな地域で導入されており、自治体や研究機関との共同調査を通じ、陸域からのごみ流出実態の把握や分布データの収集に活用されています。これにより、自治体は、得られたデータをもとに効率的な清掃や政策立案を行うことが可能になります。
非営利法人である(一社)ピリカでは、日本財団「海と日本プロジェクト」からの支援を受け、「ごみ分布データを用いたごみ回収効率の改善」を目指す取り組みを進めています。日本各地の企業(ごみ収集、交通、物流など)と提携し、100以上の車両にタカノメをインストールした端末を設置・撮影しています。タカノメで撮影したデータは記録・マッピングされ、ポイ捨てごみの分布状況の把握が容易になります。どこにごみが多く、ポイ捨てされやすいのかが一目で分かり、効果的な回収や問題のあるエリアの特定を可能にしています。また、この取り組みやごみ問題についての授業を各地の小中学校・高校にて行うことで、地域社会での環境意識の向上にも貢献しています。
タカノメは海外にも広がっており、ピリカでは2024年から三井物産共創基金の支援を受け、調査の輪を東南アジア・欧州・北米へと広げています。特に米国での調査が大きく進捗しており、ハワイ・ダラス・ボストンなどでのごみの分布調査を進めています。米国ではごみと犯罪発生率との相関研究も行われており、治安の向上など別分野への応用や貢献も期待されています。
また、JICA(国際協力機構)との連携事例として、ペルーの首都リマ市でのごみの回収促進プロジェクトにも取り組んでいます。リマ市では、市内で発生したごみの回収が追いついておらず、市内の各地に1.5m3を超えるような大型のごみが堆積・散乱している状況が続いています(図2)。タカノメを自治体職員の車両や地元企業(タクシー会社)の車両に取り付け、ごみが多く堆積・散乱している場所をリアルタイムに検知し、早期の回収を目指す実証実験を進めています。
その代表的な技術が、スマートフォンのカメラを使って陸域(特に道路上)のごみを検出し、その位置や種類をデータ化するシステム「タカノメ」です(図1)。タカノメは山口県、三重県、熊本県などのさまざまな地域で導入されており、自治体や研究機関との共同調査を通じ、陸域からのごみ流出実態の把握や分布データの収集に活用されています。これにより、自治体は、得られたデータをもとに効率的な清掃や政策立案を行うことが可能になります。
非営利法人である(一社)ピリカでは、日本財団「海と日本プロジェクト」からの支援を受け、「ごみ分布データを用いたごみ回収効率の改善」を目指す取り組みを進めています。日本各地の企業(ごみ収集、交通、物流など)と提携し、100以上の車両にタカノメをインストールした端末を設置・撮影しています。タカノメで撮影したデータは記録・マッピングされ、ポイ捨てごみの分布状況の把握が容易になります。どこにごみが多く、ポイ捨てされやすいのかが一目で分かり、効果的な回収や問題のあるエリアの特定を可能にしています。また、この取り組みやごみ問題についての授業を各地の小中学校・高校にて行うことで、地域社会での環境意識の向上にも貢献しています。
タカノメは海外にも広がっており、ピリカでは2024年から三井物産共創基金の支援を受け、調査の輪を東南アジア・欧州・北米へと広げています。特に米国での調査が大きく進捗しており、ハワイ・ダラス・ボストンなどでのごみの分布調査を進めています。米国ではごみと犯罪発生率との相関研究も行われており、治安の向上など別分野への応用や貢献も期待されています。
また、JICA(国際協力機構)との連携事例として、ペルーの首都リマ市でのごみの回収促進プロジェクトにも取り組んでいます。リマ市では、市内で発生したごみの回収が追いついておらず、市内の各地に1.5m3を超えるような大型のごみが堆積・散乱している状況が続いています(図2)。タカノメを自治体職員の車両や地元企業(タクシー会社)の車両に取り付け、ごみが多く堆積・散乱している場所をリアルタイムに検知し、早期の回収を目指す実証実験を進めています。

■図1 タカノメにて撮影、ごみを検知

■図2 リマ市La Victoria区のマーケット周辺における早朝のごみ出しの様子
市民参加型のIT活用
海洋ごみ問題を解決するためには、企業や自治体の取り組みだけでなく、市民の協力が不可欠です。そこで、(株)ピリカが提供するごみ拾いSNS「ピリカ」では、一般の利用者がごみ拾いの様子を写真とともに投稿し、利用者同士が互いに感謝し、コミュニケーションを楽しむことができるプラットフォームを提供しています。SNSピリカは世界130を超える国と地域で利用され、累計4億個以上のごみが回収されています。ITを活用した市民参加型のごみ回収活動として、世界最大規模の広がりを見せています。国内でも多くの自治体や企業がこの取り組みに参画しており、ごみ回収の実績データを活用する動きが広がっています。
前述の日本財団「海と日本プロジェクト」と連携した「ごみ分布データを用いたごみ回収効率の改善」プロジェクトでは、タカノメとSNSピリカの技術が融合しています。調査で得られた日本各地のごみの分布データはオープンデータとしてSNSピリカのウェブ版にて無償で公開され、利用者はデータから自分の周囲にあるポイ捨てスポットを知ることができます。ごみの分布データに基づいて市民参加型で効果的にごみ拾いが行われ、かつ市民側の満足度も高まる(より多くのごみが回収でき、社会に貢献したという実感が高まる)という相乗効果が生まれています。実際に、「ごみを拾うと人は幸せになれるのか」という「ごみ拾い×幸福度診断」調査を(株)はぴテックと共に行い、ごみ拾い前より後の方が幸福度が高まったという結果が出ました。また山口県周南市では、地元企業の中特グループの方々が地域貢献としてSNSピリカのウェブ版に表示された、タカノメで取得したごみ分布データを元にごみ拾いを行い、回収するごみの量が3倍になったという実績が得られました。
前述の日本財団「海と日本プロジェクト」と連携した「ごみ分布データを用いたごみ回収効率の改善」プロジェクトでは、タカノメとSNSピリカの技術が融合しています。調査で得られた日本各地のごみの分布データはオープンデータとしてSNSピリカのウェブ版にて無償で公開され、利用者はデータから自分の周囲にあるポイ捨てスポットを知ることができます。ごみの分布データに基づいて市民参加型で効果的にごみ拾いが行われ、かつ市民側の満足度も高まる(より多くのごみが回収でき、社会に貢献したという実感が高まる)という相乗効果が生まれています。実際に、「ごみを拾うと人は幸せになれるのか」という「ごみ拾い×幸福度診断」調査を(株)はぴテックと共に行い、ごみ拾い前より後の方が幸福度が高まったという結果が出ました。また山口県周南市では、地元企業の中特グループの方々が地域貢献としてSNSピリカのウェブ版に表示された、タカノメで取得したごみ分布データを元にごみ拾いを行い、回収するごみの量が3倍になったという実績が得られました。
企業・自治体・市民の協力が不可欠
海洋ごみ問題を解決するためには、企業・自治体・市民が連携し、それぞれの役割を果たすことが重要です。企業は、環境配慮型製品の開発やプラスチック削減の取り組みを進めることが求められます。自治体は、データを活用したごみ管理施策を導入し、効果的な削減政策を展開する必要があります。そして市民は日常生活の中で「ごみを拾う」「ごみを適切に捨てる」など、身近な行動から参加することができます。
ごみの流出実態を「見える化」することで、問題をより深く理解し、具体的な解決策を導き出します(図3)。私たちは、今後も技術革新を通じて、データに基づいたごみ対策の実現を目指してまいります。この取り組みを通じて、一人でも多くの人が海洋環境の保全に関心を持ち、行動を起こすきっかけとなれば幸いです。
海を守るために、私たちは何ができるのか─その答えは、テクノロジーと共に進化し続けています。(了)
ごみの流出実態を「見える化」することで、問題をより深く理解し、具体的な解決策を導き出します(図3)。私たちは、今後も技術革新を通じて、データに基づいたごみ対策の実現を目指してまいります。この取り組みを通じて、一人でも多くの人が海洋環境の保全に関心を持ち、行動を起こすきっかけとなれば幸いです。
海を守るために、私たちは何ができるのか─その答えは、テクノロジーと共に進化し続けています。(了)

■図3 (株)ピリカが運営するピリカ富山県版見える化ページ「みんなできれいにせんまいけ!とやま~守ろう、世界で最も美しい富山湾!~」
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