Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第591号(2025.03.20発行)

事務局だより

(公財)笹川平和財団海洋政策研究所研究員◆田中広太郎

◆物語『ムーミン』のパパは言う。「ぜったいにたしかなもの─そういうものがあるんだよ。たとえば、海の潮流とか、季節のうつり変わりとか、朝になったら日がのぼるとかさ。そして灯台には、かならずあかりがついているものなんだ。」海の安全を保障し、灯台の明かりを「ぜったいにたしかなもの」にするために、世界中で連綿と続く努力がなされてきた。1957年に設立された国際灯台協会は、1998年に国際航路標識協会(IALA)へと名称を改め、現在は灯台に限らず浮標や音波・電波標識などもその範疇に含んでいる。本号1本目の記事で海上保安庁の有田専門官が書き記すように、2024年8月の国際航路標識機関条約発効を経て、IALAは非営利団体から国際機関としての地位を有することとなった。この機会をとらえ、本号では船舶航行および沿岸域の安全をテーマとする4本の記事を取り上げた。
◆IALAの歩みに加えて、有田専門官からは関連する日本の取り組みについてもご紹介いただいた。国際的に信頼される理事国として、そして海洋立国として、航路標識を活用した航行安全に対する日本の貢献への期待は大きい。海上保安大学校の鮫島講師からは、近年注目される自動運航船について、英国の海事政策を参照しながら新技術と法制度の「共進化」の必要性について提言いただいた。(一社)海洋共育センターの畝河内理事長は、船舶の安全運航のためにはそれを担う人材を育てること—安全統括管理者や運航管理者の資質を確保することが肝要であると述べる。また高知工科大学の佐藤教授からは、2050年を見据えた長期的な津波対策・沿岸防災を考える上では、気候変動や人口減少など従来外的要因とされてきた事柄も含めた統合的な戦略検討の必要性が語られた。
◆法制度の整備・人材育成・外的要因の内包─3名の専門家からの提言に共通するのは、航行および沿岸域の安全を向上させるためには、物理的な技術・設備というハード面だけでなく、これらに通底する制度・人・マインドセットといったソフト面を充実させるべきというメッセージである。鮫島講師や佐藤教授が述べるように、技術革新や気候変動など海の安全の前提となる条件が絶えず変化するのが、私たちが生きる現代社会であろう。人命・安全という不変のものを守るために、人間・社会が変わり続けることが求められている。
◆2023年5月にリオデジャネイロで開催されたIALA総会に筆者が参加した際、多岐に亘る発表と荘厳なセレモニーを通して、各国海上保安機関や関係者の日々の努力と職務への誇りが感じられた。本号を読まれた方々が、「ぜったいにたしかなもの」を守る人々に対する感謝の想いを改めて持っていただければ幸いである。(研究員 田中広太郎)
※ 『ムーミンパパ海へ行く』(原題『Pappan och havet』T.ヤンソン著, 1965)小野寺百合子訳、2020、講談社

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