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オーシャンニューズレター

第591号(2025.03.20発行)

国際航路標識機関(IALA)の誕生
〜世界の航路標識の発展のために〜

KEYWORDS 新国際機関/航路標識/海上保安庁
海上保安庁交通部企画課国際・技術開発室専門官◆有田真由美

2024(令和6)年8月22日、国際航路標識機関(International Organization for Marine Aids to Navigation 略称:IALA)という新しい国際機関が誕生した。
この機関は、航路標識に関する国際基準等を定める非営利団体として活動してきた国際航路標識協会が移行したものである。
本稿では、本機関の概要、設立の経緯と、海上保安庁での取り組みを紹介する。
国際航路標識協会
1957(昭和32)年、フランスに非営利団体「国際灯台協会(IALA : International Association
of Lighthouse Authorities)」が設立されました。その後1998年に国際航路標識協会(International Association of Marine Aids to Navigation and Lighthouse Authorities)に改名されましたが、略称は現在に至るまで継続してIALAが使用されております。
IALAは、船舶交通の安全と効率的な運航を図るために、灯台、ブイ等の航路標識の改善および調和を行うことを目的とした組織です。会員は、各国の航路標識担当官庁等の国家会員、航路標識に関連する事項を取り扱う協会・教育機関等の関連団体等からなる準会員および航路標識関連機器の開発、販売等を行う企業等の工業会員からなっており、航路標識に関係する技術的または実務的な国際基準の策定に官民を挙げて取り組み、航行援助事業の発展に努めています。また、国際海事機関(IMO)の諮問機関の一つとして関連技術や施策に対する助言および加盟国との共同提案等を行うほか、国際電気通信連合(ITU)、国際水路機関(IHO)等の国際機関や海事団体等とも緊密に連携しています。
国際航路標識機関の誕生
設立以来非営利団体として活動してきたIALAですが、近年のデジタル技術の発展等に伴う新技術の開発等の影響により会員数が増加し、協会としての規模が年々拡大していきました。そのような流れの中、IALAの組織体制の強化等を通じた航路標識に関する国際協力のより一層の強化を目的として、2014(平成26)年5月に開催されたIALA総会において条約に基づく国際機関に移行する決議がなされ、その後、2020(令和2)年2月のマレーシアでの外交会合において国際航路標識機関条約が採択されました。
この条約には、新機関が、
  • 諮問的技術的性格を持つこと
  • 機関は、条約に批准・受諾・承認または加入した国である「加盟国」、国際航路標識協会において国家会員であった国で加盟国以外の「準加盟国」および航路標識の設備等の製造または流通を行う業者、関連する組織または科学機関等旧組織で準会員または工業会員の地位にあった会員が移行した「賛助加盟員」で構成されること
  • 分担金または会費が発生すること
などが規定されています。
2024(令和6)年5月24日、条約の批准国が30カ国に到達し、その後定められた日数である90日を経た同年8月22日に条約が発効したことにより「国際航路標識機関」の誕生となりました。国際機関としての地位は、IALAで作成した国際標準化に関する勧告等に「加盟国政府が認めたもの」としての信用を付加することとなり、実効性が一層高まることが期待されます。
日本のIALAへの取り組み
海上保安庁は、1959(昭和34)年にIALAに国家会員として加盟して以降、主導的役割を担ってきました。総会での選挙により国家会員から選出される理事会においては、1975(昭和50)年に初めて選出されて以降12期連続で理事を務め、特に直近3回はトップの得票数を獲得するなど、各国からその活動を高く評価されています。
次に、活動の一例をご紹介します。
◎「IALA海上浮標式(MBS:Maritime Buoyage System)」の合意への貢献
海上に設置されるブイ等航路標識の意味・様式等の統一は19世紀からの課題であり、各国が独自の基準を採用していたため航海者の混乱をきたすことが問題視されていました。当庁は1980(昭和55)年11月にIALA浮標特別会合を東京で開催し、これを統一する基準である「IALA海上浮標式」をとりまとめ各国の合意を得るなど、その策定に大きく貢献しました。
◎デジタル技術の推進
IALAに設置されている常設技術委員会の一つであり、次世代の電子航行システムを検討するデジタル技術(DTEC)委員会の議長を当庁職員が務め議論を主導しています。また、新たな海上デジタル通信(VDES)の技術開発においては、2012(平成24)年から2014(平成26)年に海洋政策研究財団(現、(公財)笹川平和財団海洋政策研究所)の支援により日本で開催した「次世代AIS国際標準化のためのワークショップ」を踏まえた提案がその後のIALA等における議論に大きく貢献し、発展の基礎を作る等日本はVDESの発展に大きく寄与してきました。
◎条約等策定作業への積極的な参加
日本は、条約策定のための外交会合および一般規則等の策定会合における議論に積極的に参加してきました。会合では、技術的な機関といったそれまでのIALAの性質を保つこと、国際約束における整合性を保つこと等を重視しながら、議論に取り組んできました。
また、2023(令和5)年11月、当庁はIALAと共同主催による「一般規則案および財政規則案の策定のためのIALA特別会合」を東京で開催しました。本会合で策定された案は、さらなる議論を経て、新機関における第1回総会にて承認されました。
■図 一般規則案および財政規則案の策定のためのIALA特別会合(2023年11月6〜10日)

■図 一般規則案および財政規則案の策定のためのIALA特別会合(2023年11月6〜10日)

今後のIALAの活動
本年2025(令和7)年2月18〜21日、シンガポールにて、新機関での第1回総会が開催され、条約以外の一般規則および財務規則案、その他運営に必要な決議が行われるとともに、新事務局長、新理事国の選挙が行われました。いよいよ、国際機関での活動が本格化することとなります。日本は、新機関においても理事国として積極的にその活動に取り組むため、理事国選挙へ立候補し、当選を果たしました。
国際機関に移行後も、海上保安庁は、これまで同様、同機関の活動に積極的に参画し、航路標識を活用した海上における航行安全に貢献することはもちろん、日本の技術の国際標準化に努めていく所存です。(了)

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