Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第590号(2025.03.05発行)

IUU漁業の現状と日本
~シャークフィニングから考える~

KEYWORDS フカヒレ/違法漁業/水産流通適正化法
(株)シーフードレガシー代表取締役社長◆花岡和佳男

IUU(違法・無報告・無規制)漁業の存在は、世界の海洋における水産資源の持続的な利用にとって大きな脅威である。
「フカヒレスープ」で知られるフカヒレはサメのヒレを使用しており、高級食材として世界的に珍重されてきた。
しかし、漁獲の際、ヒレだけを獲って魚体を海に投棄する「シャークフィニング」は、その残忍性や絶滅が危惧されているサメを保全する観点から、多くの国や地域で禁止されている。
これは、典型的なIUU漁業である。
大規模なシャークフィニングが発覚
2024年6月19日、台湾の漁業署と海洋委員会は台湾の南方澳漁港で漁船「金滿發(ジンマンファ)66号」を共同検査し、船内から約2,000~3,000匹分に相当する、6.5tのヨシキリザメのヒレを発見した(写真)。船内のスペース確保のため、ヒレ以外の魚体は生きたまま海に廃棄されたとみられている。なお、この漁業活動は、日本の排他的経済水域(EEZ)内、もしくは日本が加盟している中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の管轄下にある公海で行われた可能性が指摘されている。
罰則が緩いため繰り返される違法行為
WCPFCやEUなどは、シャークフィニングを禁止している。日本でも「サメ類の保護・管理のための日本の国内行動計画1」が設けられており、省令によって採捕したサメの全ての部分を陸揚げまでの間、船上において所持することを義務付けている。台湾でも、2011年にサメのヒレは切り離さず魚体に付いたままで港に降ろすことを義務付け、いかなるシャークフィニングも認めない「シャークフィニングゼロ」政策を発表している。
にもかかわらず、台湾でのシャークフィニングは後を絶たない。金滿發66号は過去にも違反行為を行っており、2021年には13tのサメからヒレを切り取り、魚体を違法に廃棄していたことが通報された。船の運航会社には500万台湾ドルの罰金、16カ月の漁業免許停止処分が科されたが、わずか3年後に再び、今回の違法行為が行われた。
違法行為が繰り返される背景には法の緩さがある。台湾の現行法で漁業免許の永久取り消し処分を下せるのは、1年に2回または合計で3回違反行為を行った場合のみ。つまり、一定回数の違反を行わない限り、漁業免許の永久取り消しは難しく、再び違法行為を行う可能性が残る。言うまでもなく、台湾当局による法の厳格化が求められる。
台湾のシャークフィニングの日本への影響
シャークフィニングを含むIUU(違法・無報告・無規制)漁業は、基本的には市場の需要により生じるものであると言える。このことから、漁業地域の政府当局が水産資源や漁業を管理するだけでなく、市場側の政府当局が貿易管理を強化しIUU漁業に関与する水産物の市場流入阻止を急ぐ動きが、EU、米国、日本の世界三大市場を中心に、世界各地で加速している。
台湾のNGO国際動物福祉基金(EAST)の調査によると、世界中のフカヒレ取引のほぼ半分が、台湾、香港、シンガポールといった市場で行われており、日本はフカヒレ取引の主要国ではない。ただ、台湾のシャークフィニングにより日本が被る被害は決して小さくない。両者をつなぐのはマグロだ。
サメは遠洋延縄船などマグロ漁船により漁獲されることがほとんどであるため、シャークフィニングも多くの場合マグロ漁船上で行われる。そして、日本で消費されるマグロの大部分は台湾から輸入されている。つまり、日本のマグロバイヤーは今、マグロの調達を通じて、シャークフィニングというIUU漁業に知らぬ間に加担してしまうリスクに晒(さら)されている。
加えて、マグロ流通の川上側にも影響を及ぼしている。この海域でマグロ漁船によりシャークフィニングが行われている実態は、この海域におけるマグロ漁のMSC認証取得、ひいてはその商品の欧米水産市場参入の、足を大きく引っ張っている。国内市場の縮小により海外市場の開拓が至上命題となっている日本の水産業の未来に、影を落としていると言える。
IUU漁業の撲滅はSDGsにも明記されている国際ゴールであり、日本もG7やG20等の国際舞台で歴代の総理大臣がそのコミットメントを宣言している。また、今や日本の小売企業や飲食店チェーン企業、それらに水産物を供給する水産加工・貿易企業の多くが、自らのサプライチェーンからIUU漁業への関与を排除する宣言をしている。さらに、水産業界に投融資を行うメガバンクや地方銀行も、過剰漁業や人権侵害に並べてIUU漁業を投融資リスクの一つとして特定し、その改善に取り組まない事業者への投融資を中止するなどの方針を定め始めている。日本が、マグロの世界主要消費国としてその責任を果たすべく、どのような抜本的な一手をとるのか、世界が注目している。
出典:台湾農業部漁業署プレスリリース

出典:台湾農業部漁業署プレスリリース

日本政府がとるべき次の手:流適法、対象魚種の拡大
2024年10月21日、IUU漁業由来水産物の国内市場流入阻止等を目的に施行されてから2年が経過する水産流通適正化法(流適法)の今後の方向性について、水産庁は、輸入品を規制する特定第二種水産動植物にヨシキリザメおよびアオザメの追加を視野に入れる考えを示した。これは、同年秋に3回にわたり東京都内で開催され、筆者も委員として参加した「水産流通の適正化推進会議」で議論された結果である2。ヨシキリザメおよびアオザメを直ちに対象魚種としない背景には、これらの種において日本では関税コードが分かれておらず輸入量の統計データがないというボトルネックがある。まずは省庁間の連携を強化してこの課題を解消することが急がれる。
言わずもがな、シャークフィニングはIUU漁業の氷山の一角にすぎない。EUは輸入全魚種、米国も輸入の半分弱を占める13種を輸入規制の対象としており、いずれもリスクを未然に防ぐことがステークホルダーを守ることになるという未来社会に軸足を置いた精神が通っている。世界の水産サプライチェーンの到着地の一角である日本の政府にも、IUU漁業対策としての輸入規制における対象魚種の大幅拡大と、それを基とするIUU漁業撲滅へ向けたグローバルリーダーシップの発揮が期待されている。2024年9月30日には、国内の大手水産企業群を中心に14の企業・組織が、その実現のための技術開発や国際連携などを求める共同宣言書を日本政府に提出しており3、今後の日本政府の対応が注目されている。(了)

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