Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第588号(2025.02.05発行)

事務局だより

(公財)笹川平和財団海洋政策研究所主任研究員◆高翔

◆今号は、海洋の持続可能な開発、国際協力による海洋課題の解決がテーマだが、海洋と人類との共生関係とは何かについて、改めて考えさせられた。
◆海洋汚染問題を端緒に、東アジア地域の海洋管理機関であるPEMSEAは1990年代から、沿岸域総合管理(ICM)の導入を推進してきたが、現在、ICMと水資源管理(IWRM)の概念を統合した流域圏の総合的管理(IRBM)を実施している。当研究所も日本財団の支援のもと「沿岸域の総合的管理―海を活かしたまちづくり」に関する調査研究を実施してきた。施策を実施する際に多様なステークホルダーを横串につなぐキーパーソンを影の立役者というが、そのような人物が当研究所にもいた。2024年11月に中国厦門市で開催された第8回東アジア海洋会議(PEMSEA主催)では、アジアにおける持続可能な沿岸域管理の推進に顕著な貢献をした「アジア海洋の30人」のトップ3として、海洋政策研究財団(現笹川平和財団海洋政策研究所)の大塚万紗子元特任研究員が顕彰された。大塚氏は国内7つの沿岸域総合管理モデルサイトでの取り組みで活躍され、同時期に国際海洋研究所(IOI)の日本支部長も務めていた。筆者が入所した当初、大塚氏に沿岸域総合管理の真髄と現場での取り組みについて教わったことで、海洋政策の視野が一気に広がった。この場を借りて、お礼を申し上げるとともに、ご受賞を心よりお祝い申し上げる。
◆人類が海洋と共生しつつ、いかに海洋を利用するかは、沿岸諸国全ての課題である。持続可能な利用を実現させ、人類の活動と海洋生態系の保全を両立させるためには、海洋空間を効率的かつ公平に管理する必要がある。そのアプローチが海洋空間計画である。また海洋空間計画のような国家レベルのアプローチ以外に、各地域コミュニティレベルの事例もたくさんある。本号3本目の記事のインドネシア・アンボン島におけるオオウナギ保護とエコツーリズム展開の取り組みは、生態系の保全(オオウナギの保護と水源・森林の保全)、生活のあり方(住民と観光客との交流)、生計の確保(収入の増加)が互いに深く関係し合い、人間活動と自然環境との相互関係を調和させることで、持続可能な開発の可能性を証明する代表例だ。
◆さらに、海洋の持続可能な開発には国際協力が不可欠である。現在、気候変動と温暖化の影響を最も直接的かつ深刻に受けている地域の1つである太平洋小島嶼国は、海面上昇や極端な気象現象の増加によって、最も脆弱な状況に置かれており、国際協力が求められている。太平洋島嶼国(PALM)での合意の実現に対する期待が大きい中、当研究所もその一翼を担うことで、海洋の持続可能な開発に貢献していきたい。(主任研究員 高翔)

第588号(2025.02.05発行)のその他の記事

Page Top