Ocean Newsletter
オーシャンニューズレター
第588号(2025.02.05発行)
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オオウナギ保護区と持続可能な開発モデルの可能性
KEYWORDS
オオウナギ保護区/地域密着型保全活動/エコツーリズム
パティムラ大学水産海洋学部修士◆B.G. HURUBESSY/パティムラ大学水産海洋学部教授◆J.W. MOSSE
インドネシアのラリケ村は、そのユニークな保全活動、特にオオウナギの保護で有名である。
ラリケ村のオオウナギ保護区は、生物多様性の保全と持続可能な開発の推進において地域社会が重要な役割を果たす、地域密着型の保全活動の一例である。
ラリケ村のオオウナギ保護区は、生物多様性の保全と持続可能な開発の推進において地域社会が重要な役割を果たす、地域密着型の保全活動の一例である。
インドネシアのラリケ村
ラリケ村はバンダ海に面するアンボン島の南西部に位置している(図1)。村の人口は約6,000人で、ラリケの高地部と低地部に居住している。村を横切る支流は、ひれの短い巨大ウナギであるバイカラウナギ(Anguilla bicolor)の生息地であり、豊富に見つけることができる。オオウナギ※は、食器洗いや洗濯、入浴など、水辺での人間の活動が行われる場に近い大きな岩の下の「プール」に集まっている。一方、成長期のウナギ(黄ウナギと銀ウナギ)が泳いでいるのを見かけることはほとんどない 。
ラリケ支流におけるオオウナギの存在は、私たちの祖先がかなり昔に気づいていた。その存在について特別な物語や伝説があったわけではないが村内外の人々の中には、追加的なタンパク質源としてウナギを捕獲し食べていた人がいた。1999年にアンボン市で社会紛争が発生した後、人々は村から遠く離れることを恐れた。彼らは出かけるのを、近隣の村に限定する行動をとった。そしてラリケ支流でオオウナギが発見され、この生き物のユニークさが島内外や国外にも広く知られるようになった。それ以来、ラリケ村の人々はオオウナギが地域の恵みであることに気づき始めた。2004年頃、ラリケ村を訪れた人々によって、オオウナギは一躍有名となった。
ラリケ支流におけるオオウナギの存在は、私たちの祖先がかなり昔に気づいていた。その存在について特別な物語や伝説があったわけではないが村内外の人々の中には、追加的なタンパク質源としてウナギを捕獲し食べていた人がいた。1999年にアンボン市で社会紛争が発生した後、人々は村から遠く離れることを恐れた。彼らは出かけるのを、近隣の村に限定する行動をとった。そしてラリケ支流でオオウナギが発見され、この生き物のユニークさが島内外や国外にも広く知られるようになった。それ以来、ラリケ村の人々はオオウナギが地域の恵みであることに気づき始めた。2004年頃、ラリケ村を訪れた人々によって、オオウナギは一躍有名となった。


■図1 インドネシア、ラリケ村の地図とオオウナギのプール
地域社会の関与
地元コミュニティが保全活動に関わることで、伝統的な知識や文化的価値感が尊重され、野生生物の管理に組み込まれた。地元の人々が参加することで、プロジェクトは環境に対するオーナーシップと責任感を育んでいる。地域社会は、エコツーリズムを通じてウナギを保護することで、地元住民と観光客の間にもてなしと「友情(silaturahim)」の価値が高まることを理解している。観光客は、ウナギを保護する努力を高く評価していることの表れとして、ウナギの邪魔をしない、ゴミを水に捨てないことに協力をしている。

■図2 プールの入り口に設置された看板「ウナギの持続可能性を妨げるような活動をしないでください」
エコツーリズム
エコツーリズムは地域社会に代替収入源を提供し、環境に害を及ぼす可能性のある活動への依存を減らす。経済的側面では、オオウナギのエコツーリズムは村だけでなく地域社会にも収入を提供している。観光客の寄付から得られる収入は、月に約300万〜400万ルピア(約3〜4万円)である。また、ウナギを引き寄せるための魚の販売による利益もある。村の女性たちは、地元の果物、麺類、手作りの軽食、紅茶、コーヒーなどの食べ物や飲み物を販売し副収入を得ている。
観光客からの寄付金の10%をモスク建設に充てた後、ラリケ村の発展のために管理されている。この「十分の一」という精神はオオウナギを保護することが、彼らの信仰を保護することでもある、というコミュニティの理解を支えている。
観光客からの寄付金の10%をモスク建設に充てた後、ラリケ村の発展のために管理されている。この「十分の一」という精神はオオウナギを保護することが、彼らの信仰を保護することでもある、というコミュニティの理解を支えている。
持続可能な実践
ラリケ支流周辺の熱帯雨林は、果実やナッツを生産する経済的な長寿植物で構成されている。住民が利用している熱帯雨林からの産物は、マンゴー、マンゴスチン、ランソネス、ジャックフルーツ、ドリアン、パンノキ、ナツメグ、クローブ、クルミなどである。森林伐採活動はほとんどない。住民の森林への依存が、知らず知らずのうちにその保全につながり、水の利用可能性と泉の衛生状態に影響を及ぼしている。
ウナギは、特に淡水の生態系において、水生環境のバランスを保つ上で重要な役割を果たしている。ウナギの存在は、水がきれいで食物網のバランスがとれていることを示すため、生態系の健全性を示す指標となることが多い。ラリケ村の文脈では、ウナギの保護は地元の水源と隣接する熱帯雨林地域を保護するという、より広範なコミットメントを反映しているのかもしれない。これらの生態系が絡み合うことで、多様な動植物が生息しており、ウナギはこの地域の生物多様性にとって不可欠である。淡水ウナギ、特にオオウナギと呼ばれるAnguilla bicolorやAnguilla marmorataなどの種は、その複雑なライフサイクルと環境変化への敏感さから、生態系の健全性を示す重要な指標としての役割を果たしている。回遊性の種であるウナギは、淡水と海洋の両方の生息地を必要とするため、水質の変化や生息地の劣化の影響を受けやすい。たとえ建設用として良い売値が付くとしても川の石の採取を禁止している背景には、ラリケの人々の伝統的な知識がある。それは、シラスウナギや黄ウナギなどと呼ばれる成長期に隠れる場所を提供し、深海(バンダ海)で産卵するために淡水を離れるオオウナギへと大きく成長させるためである。
要約すれば、ラリケ村のオオウナギ保護区は、伝統的な自然保護とコミュニティの関与がいかに持続可能な開発を推進できるかを示しており、インドネシアの他の地域が経済的幸福を促進しながら自然遺産を保護するために適応できるひな型を提供しているのである。
オオウナギの保護には複数の意義がある。経済的には、ラリケ村に利益と収入をもたらし、社会的には、観光客と村人との間に友情ともてなしの心が生まれる。精神的な面では、礼拝の場が維持される。環境面では、保護のサイクルが形成される。そこでオオウナギの保護がコミュニティの基本的なニーズである水を守ることとともに、コミュニティに動植物を提供する森林を維持することも意味しているのである。(了)
ウナギは、特に淡水の生態系において、水生環境のバランスを保つ上で重要な役割を果たしている。ウナギの存在は、水がきれいで食物網のバランスがとれていることを示すため、生態系の健全性を示す指標となることが多い。ラリケ村の文脈では、ウナギの保護は地元の水源と隣接する熱帯雨林地域を保護するという、より広範なコミットメントを反映しているのかもしれない。これらの生態系が絡み合うことで、多様な動植物が生息しており、ウナギはこの地域の生物多様性にとって不可欠である。淡水ウナギ、特にオオウナギと呼ばれるAnguilla bicolorやAnguilla marmorataなどの種は、その複雑なライフサイクルと環境変化への敏感さから、生態系の健全性を示す重要な指標としての役割を果たしている。回遊性の種であるウナギは、淡水と海洋の両方の生息地を必要とするため、水質の変化や生息地の劣化の影響を受けやすい。たとえ建設用として良い売値が付くとしても川の石の採取を禁止している背景には、ラリケの人々の伝統的な知識がある。それは、シラスウナギや黄ウナギなどと呼ばれる成長期に隠れる場所を提供し、深海(バンダ海)で産卵するために淡水を離れるオオウナギへと大きく成長させるためである。
要約すれば、ラリケ村のオオウナギ保護区は、伝統的な自然保護とコミュニティの関与がいかに持続可能な開発を推進できるかを示しており、インドネシアの他の地域が経済的幸福を促進しながら自然遺産を保護するために適応できるひな型を提供しているのである。
オオウナギの保護には複数の意義がある。経済的には、ラリケ村に利益と収入をもたらし、社会的には、観光客と村人との間に友情ともてなしの心が生まれる。精神的な面では、礼拝の場が維持される。環境面では、保護のサイクルが形成される。そこでオオウナギの保護がコミュニティの基本的なニーズである水を守ることとともに、コミュニティに動植物を提供する森林を維持することも意味しているのである。(了)

■図3 ラリケ支流のオオウナギ
※ 日本ではAnguilla marmorataをオオウナギと呼ぶが、本稿では、バイカラウナギ(Anguilla bicolor)も含めて、「オオウナギ」と呼称している。
●本稿は、英語の原文を翻案したものです。原文は、当財団英文サイトでご覧いただけます。 https://www.spf.org/en/opri/newsletter/
●本稿は、英語の原文を翻案したものです。原文は、当財団英文サイトでご覧いただけます。 https://www.spf.org/en/opri/newsletter/
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