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Ocean Newsletter
オーシャンニューズレター
第580号(2024.10.05発行)
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アジアの海洋若手専門家による重要な取り組み
KEYWORDS
「国連海洋科学の10年」/ECOP/海洋リテラシー
ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC-UNESCO)コンサルタント兼ECOP Asiaコーディネーター◆Raphael ROMAN
ECOPプログラムは、「国連海洋科学の10年」の国際ネットワークプログラムとして2021年に承認され、2024年5月時点で5地域と40以上の国に拠点がある。
アジアでは1,100人以上のECOPが、資金やトレーニング機会の不足、帰属コミュニティの不在などに取り組んでいる。
ECOPの関与の拡大が依然として最優先課題だが、日本ではリーダーが育ち、国際海洋科学の分野横断的な協働に貢献しようとしている。
アジアでは1,100人以上のECOPが、資金やトレーニング機会の不足、帰属コミュニティの不在などに取り組んでいる。
ECOPの関与の拡大が依然として最優先課題だが、日本ではリーダーが育ち、国際海洋科学の分野横断的な協働に貢献しようとしている。
アジアの地域拠点の進化と発展(2021~2024年)
中東から日本、インドネシアに広がるECOP(Early Career Ocean Professionals)プログラムの地域拠点「ECOP Asia」は、海洋の持続可能性と保全に情熱を持つ若手専門家たちの多様性あるネットワークを形成し、支援し、つながりあう場となることを目的としている。この分野横断的なコミュニティには、学生、学術研究者、ダイバー、漁業者、政府系科学者、教員、法律家、沿岸地域のリーダー、NGOメンバー、起業家、海岸の清掃ボランティアなどが参加している。ECOP Asiaの目標は、アジアのECOPたちの関与と包摂性、知見交換、能力の共有、行動、リーダーシップを促進し、活気に満ちたコミュニティを創出し、海洋が直面している課題を共に解決することである。
2022年4月のメンバーは25カ国、約230人だったが、この2年で35カ国、約1,100人を抱える組織へと成長した。多くのメンバーはインド(282人)、中国(172人)、韓国(116人)、バングラデシュ(104人)、マレーシア(80人)に集中している(図1)。日本には65人のメンバーがいる。
いくつかの国のECOPコミュニティは、ECOP Japan、ECOP Korea、ECOP Chinaなど、既に国別に組織化され、それぞれのハブや拠点が存在している。バングラデシュ、インド、マレーシア、タイ、レバノン、フィリピンも現在組織を立ち上げようとしている。ECOP Asiaは各地域のECOPが関心を持つテーマやトピックについてワーキンググループを作る提案も歓迎している。海洋リテラシー向上のためのアジアにおけるリソースや教材、ネットワークの不足を背景に、2023年9月に、アジア全体で海洋リテラシーの向上を主流化させることを目的とする地域ワーキンググループが設立された。このグループでは、ブルーカリキュラムやブルースクールの地域ネットワークの必要性を認識し、国境を越えた共同作業と交流を促進しようとしている。
2022年4月のメンバーは25カ国、約230人だったが、この2年で35カ国、約1,100人を抱える組織へと成長した。多くのメンバーはインド(282人)、中国(172人)、韓国(116人)、バングラデシュ(104人)、マレーシア(80人)に集中している(図1)。日本には65人のメンバーがいる。
いくつかの国のECOPコミュニティは、ECOP Japan、ECOP Korea、ECOP Chinaなど、既に国別に組織化され、それぞれのハブや拠点が存在している。バングラデシュ、インド、マレーシア、タイ、レバノン、フィリピンも現在組織を立ち上げようとしている。ECOP Asiaは各地域のECOPが関心を持つテーマやトピックについてワーキンググループを作る提案も歓迎している。海洋リテラシー向上のためのアジアにおけるリソースや教材、ネットワークの不足を背景に、2023年9月に、アジア全体で海洋リテラシーの向上を主流化させることを目的とする地域ワーキンググループが設立された。このグループでは、ブルーカリキュラムやブルースクールの地域ネットワークの必要性を認識し、国境を越えた共同作業と交流を促進しようとしている。
■図1 ECOP Asia会員の分布(2024年4月)。Datawrapperにより作成
ECOPの必要性とコミュニティ構築
ECOP Asiaは、各国のECOP担当者やインターンによる支援の下、地域・国レベルのアンケート調査を過去2年間に7回実施した。アジア全体のECOPが直面しているニーズや優先事項、課題についての理解を深めることが主な目的であった。収集されたフィードバックや見識は、文化的なニュアンスを理解し、特にECOPの関与や能力の強化に関してより良い行動計画や提言を出すのに役立っている。調査報告書は多言語で公開されており、最新版はECOP Japanによって発行された※1。
こうした調査によると、アジアのECOPにとって最大の障壁は、(1)雇用機会の不足と低い給与、(2)トレーニングプログラムと資金調達の機会の不足(特に研究助成、奨学金、会議出張費用)、(3)専門家のネットワークや社会的なネットワークが広がりを欠くことだった。ECOP Asiaは、科学者、政策担当者、漁業者、地域の草の根活動家など、次世代の海洋リーダーたちをつなぎ、支援し、スキルアップさせ、力を付けるダイナミックな「ネットワークのネットワーク」へと進化することを目指している。そして、シンポジウムやワークショップ、オンライントレーニングコース、海岸清掃、ウェビナーなど多様な活動をECOP主導で展開し、メンバー間や機関パートナー間での共同体意識と主体性の育成に努めている。
こうした調査によると、アジアのECOPにとって最大の障壁は、(1)雇用機会の不足と低い給与、(2)トレーニングプログラムと資金調達の機会の不足(特に研究助成、奨学金、会議出張費用)、(3)専門家のネットワークや社会的なネットワークが広がりを欠くことだった。ECOP Asiaは、科学者、政策担当者、漁業者、地域の草の根活動家など、次世代の海洋リーダーたちをつなぎ、支援し、スキルアップさせ、力を付けるダイナミックな「ネットワークのネットワーク」へと進化することを目指している。そして、シンポジウムやワークショップ、オンライントレーニングコース、海岸清掃、ウェビナーなど多様な活動をECOP主導で展開し、メンバー間や機関パートナー間での共同体意識と主体性の育成に努めている。
「国連海洋科学の10年」の取り組みへの対応
「国連海洋科学の10年(持続可能な開発のための国連海洋科学の10年)」について知っているか尋ねられたアジアのECOPの大多数(80%)が、認識していると答えたにもかかわらず、うち60%以上は、まだ積極的に参加していない(図2)。多くのECOPが、海洋の持続的な管理を目指すこのグローバルな取り組みに参加したい気持ちを持っている。「国連海洋科学の10年」の4年目となった今、地域の海洋ステークホルダーにとっては、才能豊かで意欲的なECOPを有意義なプロジェクトや取り組みに参加させ、同時にメンターとして若手のキャリア形成を後押しする良い機会である。
■図2 「持続可能な開発のための「国連海洋科学の10年」について、どのくらい知っていますか?」の回答。アジアにおける2023~2024年の国別ECOP調査の結果より
ECOP Japanの発展と今後
アジア初の国別拠点として、ECOP Japanは世界中のECOPネットワークの見本となってきた。ECOP Japanは非常に精力的で、2022年1月(オンライン)と2024年3月(対面)にシンポジウムを開催し、さらには7本のビデオインタビュー※2を制作し、最近では2カ国語の報告書を発表した。国内チームは現在拡大中で、メンバーの多様性も高めようと活動している。SNSの活用、学術機関以外のセクターや東京圏以外のECOPとの連携にも力を入れている。
東京大学の道田豊教授がユネスコ政府間海洋学委員会の新議長に選出され※3、日本のECOPには、海洋科学の国際的かつ学際的な共同作業について学び、関わり、貢献する好機が訪れている。ECOP Japanという舞台は、関心のあるECOPにとって、自らの声を広く届け、「国連海洋科学の10年」に自らの分野で参加できる理想的な入り口である。(了)
東京大学の道田豊教授がユネスコ政府間海洋学委員会の新議長に選出され※3、日本のECOPには、海洋科学の国際的かつ学際的な共同作業について学び、関わり、貢献する好機が訪れている。ECOP Japanという舞台は、関心のあるECOPにとって、自らの声を広く届け、「国連海洋科学の10年」に自らの分野で参加できる理想的な入り口である。(了)
※1 https://www.ecopdecade.org/wp-content/uploads/2024/04/ECOPJapanSurveyReport_Japanese.pdf
※2 ECOP Japanビデオレター
https://www.youtube.com/playlist?list=PLlJVW7Wt8pT776jTUPA_VIRorUoOHsi0l
※3 牧野光琢著「新たな局面を迎えたユネスコ政府間海洋学委員会と日本」本誌第557号(2023.10.20発行)
https://www.spf.org/opri/newsletter/557_1.html
●本稿は、英語の原文を翻案したものです。原文は、当財団英文サイトでご覧いただけます。
https://www.spf.org/en/opri/newsletter/
※2 ECOP Japanビデオレター
https://www.youtube.com/playlist?list=PLlJVW7Wt8pT776jTUPA_VIRorUoOHsi0l
※3 牧野光琢著「新たな局面を迎えたユネスコ政府間海洋学委員会と日本」本誌第557号(2023.10.20発行)
https://www.spf.org/opri/newsletter/557_1.html
●本稿は、英語の原文を翻案したものです。原文は、当財団英文サイトでご覧いただけます。
https://www.spf.org/en/opri/newsletter/
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- 編集後記 (公財)笹川平和財団海洋政策研究所顧問◆阪口秀