Ocean Newsletter
オーシャンニューズレター
第580号(2024.10.05発行)
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「誰もが安全に楽しめる海」の実現に向けて
KEYWORDS
海岸利用/溺水事故防止/ライフセービング
(公財)日本ライフセービング協会事業戦略室◆上野 凌
「国連海洋科学の10年」への取り組みの1つのテーマである「安全な海」において、溺水防止に関する国際的な動向および国内の現状を踏まえ、多様化・通年化する海岸利用者の事故防止に向けた取り組みと産官学の連携による溺水防止啓発の必要性について提言する。
海と生きる
国土を海に囲まれている日本において、海と暮らしは密接にかかわってきた。
海は変化しやすく事故や溺水のリスクがある。その危険性を理解し正しく利活用することで、海は多くの豊かさと恵みをもたらしてくれる。しかしながら、地域によっては、「海は危険だから近づかない・入らない」といった指導がされることも散見される。少子高齢化も進む中で、海水浴場利用者数の減少や、漁師やライフセーバー、海洋研究者をはじめ海にかかわるプレイヤーの減少・不足など、「海離れ」が目立ち始めている。
今後全国的に、漁師を含む海洋人材の育成や、地域に愛着を持ち地域に残る人材を確保していくためにも、「海」という地域に密着した資源に子どもの頃から親しみを持てるよう、「海を安全に楽しむための取り組み」を推進していくことが重要と考える。
海は変化しやすく事故や溺水のリスクがある。その危険性を理解し正しく利活用することで、海は多くの豊かさと恵みをもたらしてくれる。しかしながら、地域によっては、「海は危険だから近づかない・入らない」といった指導がされることも散見される。少子高齢化も進む中で、海水浴場利用者数の減少や、漁師やライフセーバー、海洋研究者をはじめ海にかかわるプレイヤーの減少・不足など、「海離れ」が目立ち始めている。
今後全国的に、漁師を含む海洋人材の育成や、地域に愛着を持ち地域に残る人材を確保していくためにも、「海」という地域に密着した資源に子どもの頃から親しみを持てるよう、「海を安全に楽しむための取り組み」を推進していくことが重要と考える。
「安全な海」への取り組み
2017年に国連総会で宣言された「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年(2021-2030)」(以下、「国連海洋科学の10年」)を受け各国では、多様な分野の科学者や関係者が、2030アジェンダ(SDGs)達成に向け連携を強固にし、各種取り組みを推進している。「国連海洋科学の10年」では社会的成果として7つの目標を掲げている(表)。その1つに「安全な海」が定義されており、短期・中長期的なリスクを予測・評価し、教育・普及・情報発信と結び付け、より安全に海とかかわることができるような社会の実現が期待されている。
また、2021年には、国際連合にて「Global drowning prevention」が決議された。この決議では溺水予防の重要性と、予防可能な死(=溺水)を減らすことを目指して、水辺の安全性を向上させるための緊急かつ多部門にわたる協調行動の重要性の認識を高める機会として、毎年7月25日を「世界溺水予防デー」を宣言した。さらに2023年にはWHO(世界保健機構)総会にて「Accelerating action on global drowning prevention」が採択され、WHO加盟国の要請に応じて、溺水の現状評価およびリスク低減策の立案とその実行や、啓発活動の支援を行っていくこと等が決議されている。国際的には、溺水防止に向け国を挙げた取り組みの加速化が求められており、日本においてもさらなる取り組みの推進が期待される。
また、2021年には、国際連合にて「Global drowning prevention」が決議された。この決議では溺水予防の重要性と、予防可能な死(=溺水)を減らすことを目指して、水辺の安全性を向上させるための緊急かつ多部門にわたる協調行動の重要性の認識を高める機会として、毎年7月25日を「世界溺水予防デー」を宣言した。さらに2023年にはWHO(世界保健機構)総会にて「Accelerating action on global drowning prevention」が採択され、WHO加盟国の要請に応じて、溺水の現状評価およびリスク低減策の立案とその実行や、啓発活動の支援を行っていくこと等が決議されている。国際的には、溺水防止に向け国を挙げた取り組みの加速化が求められており、日本においてもさらなる取り組みの推進が期待される。

海辺での事故
前述の通り、溺水事故は予防可能な死であるとされているものの、国内においては過去20年、溺水での年間死亡者数は5,500〜8,000人前後であり、ほぼ横ばい・微増傾向にある(厚生労働省「人口動態統計」死因簡単分類別にみた性別死亡数)。また、マリンレジャー活動に伴う人身事故発生状況としては年間800〜900名が事故にあっていて遊泳中の事故が最も多くなっている。(海上保安庁「令和5年における海難発生状況(速報値)」)
各地域の夏の海水浴場客数は年々減少しているにもかかわらず、死亡者数が変わらないのは、海の利用が多様化・通年化していることに起因すると考えられる。死亡者数の減少に向けては、海岸利用ニーズの変化に合わせ、海水浴場期間外の海岸管理や安全対策についても検討を進めていく必要がある。
例えば、ライフセーバーは、多くの海水浴場において、設置者が海水浴場期間のみ配置されるなど限定的だが、利用者数や事故の有無に応じて通年での配置や恒久的な監視救助拠点・機材の整備などのハード・ソフト両面での検討がされることが望ましい。
各地域の夏の海水浴場客数は年々減少しているにもかかわらず、死亡者数が変わらないのは、海の利用が多様化・通年化していることに起因すると考えられる。死亡者数の減少に向けては、海岸利用ニーズの変化に合わせ、海水浴場期間外の海岸管理や安全対策についても検討を進めていく必要がある。
例えば、ライフセーバーは、多くの海水浴場において、設置者が海水浴場期間のみ配置されるなど限定的だが、利用者数や事故の有無に応じて通年での配置や恒久的な監視救助拠点・機材の整備などのハード・ソフト両面での検討がされることが望ましい。
事故防止への仕組みづくりとリスクを学ぶ機会を
昨今の海水浴客離れにより、地域によっては海水浴場の開設を見送る自治体も出てきており、今後もそうした自治体が増えることが予想される。ただし前述したとおり海岸利用は多様化・通年化しており、海水浴場期間外の利用は増えてきている。そうした中で、いかに海岸の安全を管理していくのかが今後重要な論点となる。
海岸管理者である都道府県や、海水浴場設置を担う自治体や海を取り巻くステークホルダーが密に連携し、各地域の実情に応じた安全管理策(事故の未然防止と再発防止)のための検討を進め実行に移すことが必要になると考える。
例えば、海水浴場が盛んな神奈川県藤沢市においては、夏季の海水浴場期間における水難事故防止および有事の際の円滑な連携に向けて、公的救助機関(海上保安庁・消防局・警察)と行政・海水浴場組合・ライフセーバーで会議体の設置や合同訓練等を毎年行うなどの体制構築・財源措置がされている。他にも、沖縄県においては、自然海岸での事故が相次いでいることから、ライフセーバーが機動救難所を設置し、活動費を県が負担するなどの取り組みを始めている。これらの事例のように、「海岸の自由使用」の原則はありつつも、溺水事故減少に向けては、各地域で海岸利用の実態を把握し、安全に利用できる受け皿(体制・設備)を整えることが重要である。それら体制および施策の実現に向けた財源確保や動き出しについては、地方行政や都道府県が協力して担い、国は優良事例の全国的な普及を支援するような展開が望ましい。
加えて、海岸利用が増える夏前には行政や教育機関、民間企業など多様なステークホルダーから、海のリスク啓発を行うことで水難事故防止の機運を高め、事故にあわない遊泳者を増やすこともまた、必要である。
そうした海岸利用の安全対策を図ることで、水辺に親しむ機会づくりを推進することができる。
幼少期から海など地域に根付く資源に親しみを持つことで、郷土愛が醸成され地域に残る選択をしたり、生物や環境保全に関心を持ち、漁業や海洋研究等の次なる担い手になる選択をする可能性も生まれる。そのためにも学校教育においては「海は危ないから近づかない」のではなく、どうしたら安全に楽しめるのかを伝える必要がある。海に行き親しむ中で、海の楽しさとリスク(Water Safety)を学ぶことがその第一歩になるのではないか。そうした人材が増えることで、より安全な海の実現にも近づいていくと思料する。
これからも海と生き続けるために、安全な海岸利用に向けた取り組みを進め、多くの人が安全に海を楽しめる社会になるよう、微力ながらも取り組んでいきたい。(了)
海岸管理者である都道府県や、海水浴場設置を担う自治体や海を取り巻くステークホルダーが密に連携し、各地域の実情に応じた安全管理策(事故の未然防止と再発防止)のための検討を進め実行に移すことが必要になると考える。
例えば、海水浴場が盛んな神奈川県藤沢市においては、夏季の海水浴場期間における水難事故防止および有事の際の円滑な連携に向けて、公的救助機関(海上保安庁・消防局・警察)と行政・海水浴場組合・ライフセーバーで会議体の設置や合同訓練等を毎年行うなどの体制構築・財源措置がされている。他にも、沖縄県においては、自然海岸での事故が相次いでいることから、ライフセーバーが機動救難所を設置し、活動費を県が負担するなどの取り組みを始めている。これらの事例のように、「海岸の自由使用」の原則はありつつも、溺水事故減少に向けては、各地域で海岸利用の実態を把握し、安全に利用できる受け皿(体制・設備)を整えることが重要である。それら体制および施策の実現に向けた財源確保や動き出しについては、地方行政や都道府県が協力して担い、国は優良事例の全国的な普及を支援するような展開が望ましい。
加えて、海岸利用が増える夏前には行政や教育機関、民間企業など多様なステークホルダーから、海のリスク啓発を行うことで水難事故防止の機運を高め、事故にあわない遊泳者を増やすこともまた、必要である。
そうした海岸利用の安全対策を図ることで、水辺に親しむ機会づくりを推進することができる。
幼少期から海など地域に根付く資源に親しみを持つことで、郷土愛が醸成され地域に残る選択をしたり、生物や環境保全に関心を持ち、漁業や海洋研究等の次なる担い手になる選択をする可能性も生まれる。そのためにも学校教育においては「海は危ないから近づかない」のではなく、どうしたら安全に楽しめるのかを伝える必要がある。海に行き親しむ中で、海の楽しさとリスク(Water Safety)を学ぶことがその第一歩になるのではないか。そうした人材が増えることで、より安全な海の実現にも近づいていくと思料する。
これからも海と生き続けるために、安全な海岸利用に向けた取り組みを進め、多くの人が安全に海を楽しめる社会になるよう、微力ながらも取り組んでいきたい。(了)

ライフセーバーの活動の様子

子どもたちの安全な海岸利用に向けた啓発活動
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