Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第580号(2024.10.05発行)

編集後記 

(公財)笹川平和財団海洋政策研究所顧問◆阪口秀

◆日本は島国なので、外国に行くには海を渡らないとどこにも行けない。海を渡るには、渡り鳥のように空を飛ぶか飛行機に乗るか、魚のように海の中を泳ぐか、海の上を進む船に乗るしかない。近隣国までなら、橋か海底トンネルを作れば渡れるかもしれないが、残念ながら海を挟んだ近隣国との間に、そのような計画は進んでいない。飛行機は機体の構造と燃料コストの関係から大規模な輸送には向かず、国際物流全体の90%以上は船が用いられている。また、国際通信は99%を海底ケーブルに頼っている。さらに日本の食料自給率が34%程度である中で水産物自給率は54%で、海からの恵みの依存度は高い。にもかかわらず、近年、わが国では最先端医療、AI、ドローン・ロボットなどの無人化技術、宇宙開発ばかりが注目されていて、政府も国民も海への関心は下がるばかりである。しかし、鎖国でもしない限り、日本の社会活動は否が応でも日々海と密接に結びついているので、海離れは自らの首を絞め国力低下に繋がると言っても過言ではない。
◆本号では、1つ目の記事で「国連海洋科学の10年」の中核的なプログラムであるECOP(Early Carrer Ocean Professionals)の概要が紹介され、2つ目の記事では、ECOPの具体的な活動と方向性が述べられ、3つ目の記事では、海での活動の最も重要事項である安全性の担保について述べられている。
◆ECOPは、単に海洋分野における若手人材の国際的ネットワーク形成を目指しているだけではない。世界を見渡すと、日本だけでなく国際社会全体が海と結びついていて、それは、今も将来も変わらないわけで、海が国と国、人と人とを繋げる役割を持っている。だから、国際社会全体で、海の自然と環境を守りながら持続的に、安全に利用し続けるためには、各国の海の専門家同士が普段から情報や考え方を共有し、問題があるときには知恵を出し合って解決することが重要なのである。そして、その専門家が、共有したことを各国に還元しながら、とかく忘れられがちな海の重要性や安全性についての知恵や知識を、国民に説くことも求められる。そのプロセスを若いうちから積み上げておくことがECOPの本質的な役割なのである。
◆また、古今東西、海に飲み込まれた命は数えきれない。海が荒れ狂ったり、船が沈没したり、足を滑らせたり、原因はさまざまだが、鰓がない人間は海に落ちると呼吸が困難になり溺れてしまう。この本質的な海の危険性こそが、海から人を遠ざけてしまっている原因であることは間違いない。よって、これを少しでも減らし、海で命を失くすことが無い状況を作る努力は、海と人、海と社会活動の結びつきを深めるため必要不可欠であることを上野さんの記事で感じて欲しい。(顧問 阪口秀)

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