Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第57号(2002.12.20発行)

第57号(2002.12.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者 ((社)海洋産業研究会常務理事)◆中原裕幸

◆厳島神社。鳥居はもちろん神社の主要部分は満潮時には水の上にあり、あらかじめ毎日床下浸水させるように設計された「奇想天外な海上建築」(朝日新聞、11月6日)。福田氏にお願いしてその世界遺産としての価値、修理と保存について概説いただいた。社殿が海中に建てられたのは島そのものを神様に見立ててそこに建物を建てるのをはばかったから、また、寝殿造りの様式を山と海の境界を利用して実現させたこと。そして上潮時にわざと海水を通す床板の隙間や柱の根継ぎ構造という先人の緻密な設計思想、さらに800年間も営々として受け継がれてきた建物の維持、保存の努力には誰しもが頭を垂れる。台風や異常潮位などによる床上浸水も、幾度となく経験しているとのことだが、「今年は既に12回も冠水・・・・・、広島周辺の平均水面がこの半世紀で25cmも上昇しているのが影響しているようだ」(同前)。こうした局地的現象も地球環境の悪化の影響が及んでいるためということか。

◆北前船の行き交う能登の時国家を題材に、海を見るための建築物、海から見られるための建築物、という視点からの小編を西氏からお寄せいただいた。本文末尾に紹介されている同氏の著作には、出雲大社から三内丸山遺跡に至るまで、そうした視点での解釈が詳しく展開されていて興味深い。都市全体を海の視点で見るというのは、東京やベネチアを対象にした陣内秀信法政大学教授の労作群や、ウォーターフロント研究に長い実績を有する横内憲久日本大学教授らの取り組みがあるが、西氏には陸上建築物と海との結び付きについての更なる論考を期待したい。

◆ベネッセの福武社長には安藤忠雄氏の設計になる瀬戸内海直島のミュージアムとアートプロジェクトについてお書きいただいた。屋外の海景と現代建築およびアート作品が共生している様を、残念なことに編集子は未見なのだが、心そそられる思い。外洋の荒々しい海もまた魅力的だが、それと対照的な内海の穏やかな景観美は日本の財産の一つであり、大切にすべきVisualResourceであろう。(了)

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