Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第579号(2024.09.20発行)

編集後記 

(公財)笹川平和財団海洋政策研究所所長◆阪口秀

◆(公財)笹川平和財団海洋政策研究所が2022年度から進めている「海洋人材100人育成計画」の一環として、2024年3月10日から3月25日までの16日間、わが国にたった3隻しか現存しない大型帆船の1隻である「みらいへ」に、世界中から集まった12歳から24歳までの次世代を担う若者20名と、アラスカから2名のインストラクターを乗せて、横浜港からパラオのコロール港までの航海を行った。パラオ共和国は、(公財)笹川平和財団と親財団である日本財団が長年に亘り支援と友好関係を築いてきた国である。また、2024年は、日本・パラオ外交関係樹立30周年の年で、それを記念した日本―パラオ親善ヨットレース2024の伴走船として(一社)日本パラオ青少年セーリングクラブ(JPYSC)藤木幸太代表理事及び新田肇代表理事、その他方々のご尽力で仕立てて頂いたのが、みらいへ航海であった。
◆本号では、まず、1つ目の記事で、当時の帆船みらいへ船長で、現在は海洋政策研究所の小原朋尚部長に、帆船教育の持つ意味合いについて詳しく述べてもらった。わが国にたった3隻しかない大型帆船の船長という職を長く経験した人の言葉だけあって、非常に含蓄が深い話である。
◆また、この航海では、アラスカを拠点とする、科学教育プログラムGLOBE(詳細は本文にて)プログラムの研修を受けた教育者であるChristina BuffingtonさんとCheryl Williamsさんの2名にインストラクターを務めて頂いた。本号2つ目の記事で、Buffingtonさんに、出港直後に低気圧の影響で三河湾に荒天退避したときの2日間の出来事を中心に教育者として経験されたことをまとめて頂いた。
◆本プログラムでは、船上で経験し学んだことや自らが目にした海洋の現状や問題点を、この航海に参加できなかった多くの人々に伝え一緒に考えてもらうことも、一つのテーマとしていた。この点でも、2人のインストラクターは、単にやり方を教えるのではなく、自主性を重んじた指導をして下さった。その結果、本号の3つ目の記事でバングラデシュから参加した大学1年生のMiraz Hossain Chowdhury君が紹介している調査報告書は、アメリカで公表され高い評価を受けた。また、トルコから参加した高校生は高度なカメラワークによる活動報告ムービーを自主製作した。本号のオンライン版では、アメリカから参加したAshlee Wellsさんの作品を紹介するので、是非、ご視聴頂きたい。既に内外から、「これぞ、教育!」という感想を頂いている秀逸な作品である。
◆さて、コロールに入港した夜のミーティングで、参加者の一人から、「なぜ日本からパラオの航海をこのプログラムに選んだのか?」という質問が出た。勿論、冒頭に述べたように、パラオは日本政府にも日本財団と(公財)笹川平和財団にも特別な関係であるのだが、海洋人材を育成する観点から筆者はこう答えた。「太平洋は世界で一番広い海洋で、パラオの海の様子が地球の健全性を代表していることが既に科学的に分かっています。このパラオの海を守れなくなったとき、地球のバランスが崩れます。あなた方は、2024年のパラオの海の生き証人であり、未来にわたって、この海を守り、また次の世代にもそれを引き継いで下さい」と。(所長 阪口秀)

第579号(2024.09.20発行)のその他の記事

Page Top