Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第579号(2024.09.20発行)

帆船でのGLOBEによる海洋リテラシー教育とリーダー育成

KEYWORDS GLOBEプログラム/気象観測/環境調査
アラスカ大学フェアバンクス校科学教育スペシャリスト◆Christina Buffington

GLOBEは世界中の科学者や教育者と協力して、青少年がGLOBEデータを収集、提出、分析する機会を作っている。
私はGLOBEプログラムの研修を受けたインストラクターの一人として日本─パラオ親善ヨットレース2024の伴走船「みらいへ」に乗船し、GLOBEデータの収集で若者たちを指導した。
研修生と気象観測や海洋の環境調査を行いながら、この帆船の旅を通して共に成長できたことを報告したい。
若者たちが見た空の変化
帆船「みらいへ」が三河湾に停泊した2日間で、私は船乗りが昔からずっと知っていたことを学びました。それは「雲を見よ」ということです。天候はすぐに変わることがあります。乗組員とインストラクター、世界12カ国から集まった20人の若い研修生が横浜からパラオに向けて出港した2024年3月10日、空は晴れ渡っていました。横浜の街並みの向こうには富士山が輝いていました。翌日、上空には薄くうっすらとした巻雲があり、太陽の周りにハロ(日暈)が発生していることを若者たちが観測しました。ほどなく、富士山上空に積乱雲が沸き上がり、風向きが変わりました。そびえ立つ雲の列は「スコールライン」の発生を警告するもので、危険な海のサインでした。空の様子がみるみる変化していくのを目の当たりにするのは、GLOBEオブザーバー・アプリを使って雲の種類となぜ船乗りが空を見るのかを教える絶好のタイミングでした。
(公財)笹川平和財団海洋政策研究所(OPRI)は、海洋リテラシー教育とリーダー育成のための若者支援プログラム「2024年国際海洋人材育成プロジェクト」のインストラクターとして、私とCheryl Williamsさんを招いてくださいました。私たちはアラスカを拠点とする、科学教育プログラムのGLOBE(環境のための地球規模の学習および観測)プログラム※1の研修を受けた教育者です。 GLOBEとOPRIは、科学リテラシーを高め、海を含めた環境に関心を持つ人々の間のつながりを築くという共通の目標を持っています。米政府機関である航空宇宙局(NASA)や海洋大気庁(NOAA)、国立科学財団、国務省の支援を受け、GLOBEは世界中の科学者や教育者と協力して、青少年がGLOBEデータを収集、提出、分析する機会を作っています。研修生が雲の確認や撮影、データ入力に使ったGLOBEオブザーバー・アプリは、NASAと二国間協定を結んでいる日本を含む各国でダウンロードして使用できます。
日本―パラオ親善ヨットレース2024の伴走船「みらいへ」で、横浜港からパラオのコロール港までの約2,000海里を航海しながら、Williamsさんと私は帆船の航海術を学び、雲や大気圧、相対湿度、大気温と海面水温、溶存酸素、塩分、pH、硝酸塩、リン酸塩、化学的酸素要求量、マイクロプラスチックに関するGLOBEデータの収集で若者たちを指導しました。119地点のデータ全てがGLOBEデータベース※2に入力され、OPRIのGLOBEページから検索できます。
空を眺めて雲を観察する研修生たち

空を眺めて雲を観察する研修生たち

雲と天候と航海
三河湾に停泊して左右に揺れている時、プログラム担当の航海士が私に、船酔いしていない研修生に講義をしてはどうかと提案しました。そこで私は、GLOBEの雲の観測データの解釈の仕方や天気図記号の読み方、なぜ自分たちが嵐が過ぎるのを待っているのかを理解する方法を教えました。私は、GLOBEの授業計画と今回の旅の前に作っておいた講義用スライド、インターナショナル・セイル・アンド・パワー・アカデミー(ISPA)の大型帆船用ワークブックを、雲と天候、航海について教えるためのツールとしました。
ISPAワークブックの巻末にあるリファレンスガイドには、さまざまな天候パターンにおいて何が起きるかが書かれていました。学生たちが観測した雲と天候の変化がまさにその通りの順序でまとめられていました。気温が上昇し、南南西の風が吹き、気圧が低下し、高い所にある薄い巻雲が太陽の周りにハロを伴う巻層雲に変わったら、船乗りには寒冷前線の前触れです。前線が近づくと、高くそびえる積乱雲が壁のように見えるスコールラインを形成します。ISPAのワークブックから、研修生と私は、船乗りは空を読む必要があるということを学びました。
また、船乗りが天気図や波浪予報図を読む必要があることも学びました。船内の通路に掲示された天気図を見ると、雲が何を私たちに示しているかを確認することができました。私たちがいる位置を中心とする低気圧帯は、はるか東と西にある2つの高気圧帯に挟まれていました。天気図上の矢羽は風が吹いてくる方向を示し、矢羽の線の数は風力を示しています。西から風速30ノットの風が吹き、波がこちらに向かってくるため、知多半島と渥美半島に守られた場所で嵐が過ぎるのを待つのが最善だったのです。
寒冷前線が通過するのを待つ2日間、船酔いを抑えながらISPAのワークブックを勉強したり、天気図や波浪図を読んだりするのはつらいことになりそうでした。しばらくすると、ふわふわの積雲が晴天を知らせ、「みらいへ」は旅路を先に進めました。1週間もしないうちに、ISPAワークブックが納得いくものになり、研修生たちと私は、見かけの風速と風向きを測るだけでなく、航路を決めて航海することもできるようになりました。
水質データの収集と分析
「みらいへ」には、水質データ収集に必要な機材が装備されていました。研修生たちとWilliamsさんと私は、溶存酸素計とpHメーター、塩分計、硝酸塩とリン酸塩、化学的酸素要求量の測定キット、プランクトンとマイクロプラスチックを集めてろ過するためのプランクトンネットと漏斗を使用しました。
研修生たちは、機器の説明書と、日本のGLOBEカントリーコーディネーターから提供された水サンプル採取のための日本語のGLOBEフィールドガイドに熱心に従っていました。
ほぼ毎日、「みらいへ」が観測のために2ノットに減速する30分の間に、研修生たちはブリッジでデータを収集し、GLOBEオブザーバー・アプリを使って雲を撮影、ロープの先に付けたバケツを海に投げ入れてサンプルを採取しました。彼らはそのデータをスプレッドシートとGLOBEアプリに入力しました。Ashlee Wellsさんが作成したStoryMapsというウェブサイト※3には、プランクトンネットを曳航してデータを集める様子を収めた動画が掲載されています。
旅の終わりに、若者たちとWilliamsさんと私は、ISPAから大型帆船のノービス(初心者)クルーとして、またGLOBEプログラムから大気・水質に関する学生科学者として認定されたことを祝いました。帆船「みらいへ」による約2,000海里の旅の間に、世界中から集まった20人の若者は他人から友人に、研修生からリーダーに成長しました。(了)
プランクトンネットを曳航してマイクロプラスチックを採取

プランクトンネットを曳航してマイクロプラスチックを採取

※1 GLOBE国際STEMネットワーク(GISN)
https://www.globe.gov/web/globe-international-stem-network
※2 GLOBEデータベース
https://www.globe.gov/web/miraie-ocean-human-resource-development-project
※3 StoryMaps https://arcg.is/0S5uGT
●本稿は、英語の原文を翻案したものです。原文は、当財団英文サイトでご覧いただけます。
https://www.spf.org/en/opri/newsletter/

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